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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第二十六章 見えてしまったもの

 火曜日の朝。


 テレビをつけると、昨日の映像がまだ流れていた。


 空に浮かぶ巨大な機械。


 海の上。


 都市の上空。


 山間部。


 場所は違っていたが、どの映像にも共通していることがあった。


 何にも触れていない。


 建物を壊さない。


 車を止めない。


 人を傷つけない。


 ただ、そこに現れている。


「昨日より、はっきりしてるね」


 母親が言った。


「うん」


「ゲームの会社、何か言ってるの?」


「分からない」


 悠真は朝食を食べながらテレビを見た。


 専門家が説明している。


 映像なのか。


 通信現象なのか。


 未知の投影技術なのか。


 意見はそれぞれ違っていた。


 ただ、一つだけ。


 昨日の映像に含まれていた音声については、誰も説明できていなかった。


『世界は一つだと思っていた』


 その言葉が、何度もニュースで流れている。


 悠真は箸を止めた。


「……本人が喋ったんだけどな」


「何か言った?」


「ううん」


 学校へ行く。


 教室でも、その話題だった。


「昨日の見た?」


「見た見た」


「本物のロボットじゃない?」


「そんなわけないだろ」


「じゃあ何なんだよ」


 友達が悠真を見る。


「お前、《クロスギア》やってるんだろ?」


「うん」


「何か知ってる?」


「僕もよく分からない」


「本当に?」


「本当」


 嘘ではなかった。


 悠真は、運営が何をしているのか知らない。


 ただ。


 ゲームの中で起きていることは、少しずつ現実に近づいている。


 そのことだけは分かっていた。


 放課後。


 家に帰る。


 宿題をする。


 夕食を食べる。


 そしてゲームへ入る。


【オンラインプレイヤー:274,516】


 また減っている。


 ロビーには新しい告知が出ていた。


【ワールドリンク実験に関するお知らせ】


 昨日の現象についての説明だった。


 運営は、ゲーム世界と現実世界の間で特殊な通信現象が発生したことを認めている。


 ただし。


 現在の段階では、現実世界からゲーム世界へ物理的な影響を与えることはできない。


 同様に、ゲーム世界から現実世界への物理的な干渉も確認されていない。


 そして最後に。


【今後も安全確認を行いながら研究を継続します】


 チャットが流れる。


『研究って言ったぞ』


『やっぱり運営がやってたんだ』


『最初から知ってたのか?』


『ゲームを続けて大丈夫なの?』


『別に普通に遊べるならいいだろ』


『俺はもうやめる』


 悠真はチャットを眺めた。


 また人が減っていく。


 その時。


 個人メッセージが届いた。


 KAIだった。


『今日はどうする?』


『普通の任務』


『俺も』


 二人はそれぞれ別の任務へ入った。


 同じマップには入れない。


 それが《クロスギア》の普通だった。


 悠真は一人で森林地帯を進む。


 敵を倒す。


 アイテムを拾う。


 NPCと話す。


 何も変わらない。


 少なくとも。


 ゲームの中では。


 しかし。


 任務の途中。


 NPCが突然、空を見上げた。


「どうしたの?」


「……今、何か見えなかったか?」


「何が?」


「白い線だ」


 悠真も空を見る。


 何もない。


「見えないよ」


「そうか」


 NPCは歩き始めた。


 数秒後。


 小さなシステム表示が出た。


【観測データを取得しました】


 悠真は足を止めた。


「観測データ?」


 以前は、こんな表示はなかった。


 そして。


 同じ頃。


 現実世界の研究施設でも。


「ゲーム側から観測データが届いています」


「内容は?」


「周辺NPCの行動ログです」


「プレイヤーがいなくても?」


「はい」


 研究員が画面を操作する。


 NPCが街を歩く。


 店を開ける。


 工場で作業する。


 会話する。


 休む。


 そして。


 プレイヤーがいない場所でも、独自の行動を続けている。


「やはり……」


 別の研究員が呟いた。


「NPCの行動はプレイヤーの入力だけでは説明できません」


「どの程度?」


「かなりの部分が独立しています」


「つまり?」


「この世界には、プレイヤーが操作していない時間があります」


 責任者は画面を見る。


「それは、最初から分かっていたことじゃないのか?」


「いえ」


 研究員は首を振った。


「私たちはゲームとして作った行動モデルだと思っていました」


「違うのか?」


「少なくとも、単純なスクリプトだけではありません」


 画面には、一人のNPCが映っている。


 昨日。


 悠真と話した整備工だった。


 プレイヤーがいない時間。


 工場を開ける。


 工具を整理する。


 別のNPCと話す。


 昼食を取る。


 仕事を続ける。


 夜になる。


 店を閉める。


 帰宅する。


 それは。


 誰かに命令されているようには見えなかった。


 研究員が言う。


「もし、この世界を現実と同じ意味で“世界”と呼ぶなら……」


「何だ?」


「私たちは、今まで自分たちが作ったものだと思っていたものを、観測していることになります」


 責任者は答えなかった。


 その頃。


 ゲームの中。


 悠真は任務を終えて街へ戻った。


 整備工場へ寄る。


「こんにちは」


「おう」


「昨日の空、見た?」


「ああ」


「どう思った?」


 整備工は工具を置いた。


「分からん」


「怖くない?」


「怖いさ」


 少し考えてから続ける。


「でも、怖いからって工場を閉めるわけにもいかん」


「どうして?」


「明日も機械は壊れるからな」


 悠真は笑った。


「そっか」


「お前はどうする?」


「僕?」


「ああ」


「……分からない」


 整備工は頷いた。


「それでいいんじゃないか」


「え?」


「分からんことを、分かったことにする必要はない」


 悠真は少し黙った。


 その言葉が、妙に残った。


 その夜。


 運営会社の内部画面に、新しい項目が追加された。


【NPC自律行動分析】


【推定自律性:継続上昇】


【プレイヤー非接続時の行動:確認】


【世界側自己維持モデル:解析中】


 その下には。


【逆方向接続実験:第二段階へ移行】


 という文字が表示された。


 まだ誰も。


 その世界を完全には理解していなかった。


 ただ一つ。


 以前は「ゲームの中に何があるのか」を調べていた。


 今は。


 「そこに何が存在しているのか」を調べ始めていた。

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