第百七十九章 予定外の交換
火曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、交換所に期間限定の部品交換イベントが追加されていた。
【装備交換会】
【開催時間:本日18時まで】
【交換対象:補助装備・制御部品】
【交換条件:双方の合意】
説明には、出品された装備を確認し、双方が条件に同意すれば交換が成立すると書かれていた。
通常の売買とは違い、通貨を使わずに装備同士を交換できる。
悠真は自分の装備一覧を開いた。
以前使っていた照準補助ユニットが残っている。
現在の装備構成では出番が少なくなっていたが、性能自体に問題があるわけではなかった。
悠真は交換所に出品した。
【照準補助ユニット】
【状態:良好】
【希望:移動制御系部品】
出品して数分後、一件の問い合わせが届いた。
『照準補助ユニット、交換できる?』
相手の名前はMIRAだった。
『何と交換する予定?』
『姿勢安定ユニットか、移動制御ユニット』
悠真は相手の出品一覧を確認した。
姿勢安定ユニットは、被弾時の機体の揺れを抑える部品だった。
移動制御ユニットは、旋回時の機体の動きを補助する。
どちらも、今の悠真が試している装備と関係がある。
『移動制御ユニットを見せて』
MIRAから性能情報が送られてきた。
旋回時の安定性は向上する。
その代わり、急な方向転換では入力への反応がわずかに遅れる仕様だった。
以前、同じ系統の部品を試した時にも感じた特徴だった。
悠真は少し考えた。
今の装備は、細かく方向を変える時には扱いやすい。
しかし、敵の攻撃を避けながら照準を合わせる場面では、機体が揺れることがある。
移動制御ユニットなら、その揺れを減らせるかもしれない。
『これと交換していいよ』
双方が条件を確認し、交換に同意した。
【交換成立】
【照準補助ユニット:譲渡】
【移動制御ユニット:取得】
悠真は新しい部品を装備し、訓練場へ向かった。
最初は、一定の速度で移動しながら照準を合わせた。
機体の揺れは以前より小さかった。
次に、左右へ移動しながら標的を狙う。
こちらも大きな問題はない。
最後に、障害物の間を抜けながら急旋回を試した。
右へ曲がり、すぐに左へ切り返す。
機体の向きが変わるまで、わずかな間があった。
悠真は操作を止めた。
「やっぱり、急に曲がる時は少し遅れるな」
同じ動作を何度か繰り返した。
旋回の速度を落とせば安定する。
反対に、急いで曲がろうとすると、次の操作が遅れる。
どちらか一方だけを改善できるわけではなかった。
悠真は設定画面を開き、旋回補助の数値を少し下げた。
再び障害物の間を移動する。
今度は切り返しが少し速くなったが、機体の揺れも増えた。
元の設定に戻す。
何度か試したあと、悠真は設定を保存した。
完全に解決したわけではない。
ただ、どの動きで遅れが出るのかは分かってきた。
その時、訓練場にKAIが現れた。
「何を試してる?」
「移動制御ユニット。さっき交換したんだ」
「ちょっと使わせてくれ」
悠真は装備情報を共有した。
KAIは同じ部品を装備し、近接戦闘用の訓練を始めた。
敵機に接近し、攻撃を避けながら横へ回り込む。
最初の数回は問題なかった。
しかし、敵機が急に向きを変えた時、KAIの機体は一瞬だけ反応が遅れた。
攻撃を受ける前に距離を取ったものの、次の攻撃につなげられなかった。
「俺には合わないな」
KAIは装備を外した。
「安定するのは分かる。でも、近距離で切り返す時に遅れるのは困る」
「僕は照準を合わせる時に使えると思った」
「なら、使い方次第だろ」
KAIはそれ以上、装備の良し悪しを決めつけなかった。
悠真は自分の機体に装備を戻した。
もう一度、標的を狙いながら移動する。
照準は安定している。
急旋回では遅れがある。
どちらも、さっきまでと変わらなかった。
KAIが訓練場を出たあと、悠真は交換所を開いた。
照準補助ユニットは、すでに別のプレイヤーの出品一覧に移っていた。
自分の手元には戻らない。
それでも、後悔はなかった。
使わなくなった部品を手放し、別の装備を試すことができた。
交換しなければ、移動制御ユニットの特徴を今ほど詳しく確認する機会はなかっただろう。
悠真は装備記録に、旋回時の反応と照準の安定性を書き残した。
そのあと、通常任務を一つだけ受けた。
森林地帯の輸送路で、敵機を排除しながら輸送車両を護衛する任務だった。
戦闘では、機体の揺れが少ないことが役に立った。
一方、障害物の間を抜ける場面では、急な切り返しを避ける必要があった。
悠真は速度を落とし、余裕を持って進路を変えた。
任務は問題なく完了した。
【評価:A】
ロビーへ戻ると、装備交換会の終了まで残り時間が少なくなっていた。
悠真は新しい出品を眺めたが、今すぐ必要なものはなかった。
そのまま交換所を閉じた。
夕方、ログアウトすると、母親が夕食の準備をしていた。
「今日は何をしていたの?」
「装備を交換したんだ」
「新しいものを買ったの?」
「交換したから、お金は使ってないよ。前に使ってた部品と取り替えた」
「使いやすくなった?」
「場面によるかな。安定するけど、急に曲がる時は少し遅れる」
「実際に使ってみないと分からないのね」
「うん。説明には書いてあったけど、どれくらい気になるかは使ってみないと分からなかった」
母親は鍋の火を弱めた。
「それなら、しばらく試してみたら?」
「そうする」
悠真は食卓を整えた。
ゲームの中には、交換できる装備がいくつもある。
けれど、性能の数字だけで、自分に合うかどうかが決まるわけではない。
悠真は明日も使ってみるつもりだった。
別の任務なら、今日とは違う特徴が見えてくるかもしれない。




