第百七十八章 返事のない募集
月曜日。
学校から帰った悠真は、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:238,704】
ロビーを開くと、共同任務の募集がいくつか並んでいた。
その中に、見覚えのある名前があった。
【小隊訓練・市街地防衛】
【主催者:NERO】
【募集人数:4名】
悠真は募集内容を確認した。
訓練用の敵機を相手に、指定された防衛地点を守る任務だった。ランキングには影響せず、装備の制限もない。
以前、NEROたちと移動性能を確認した時とは違い、今回は防衛地点を一定時間維持することが目的らしい。
悠真は参加を申し込んだ。
承認はすぐに届いた。
転送先は、低い建物が並ぶ市街地だった。
指定された地点には、すでにNEROとRIONがいた。
「あと一人は?」
悠真が尋ねると、NEROは募集画面を見せた。
「返事待ちだ」
「もう参加申請は来てるの?」
「来てる。でも、まだ確認がない」
申請者の名前は表示されていたが、参加が確定したわけではなかった。
「先に始める?」
「四人用の訓練だけど、三人でも開始できる。少し待って、来なければ始めよう」
NEROはそう言って、周囲の地形を確認した。
防衛地点は交差点の中央にある。
北側には広い道路、東側には建物の間を抜ける細い通路があった。
西側は障害物が多く、南側には小さな広場がある。
RIONが北側の道路を見た。
「遠距離から狙うなら、あそこの建物の二階が使えそうだな」
「訓練用の敵は、最初からそこを通るとは限らない」
NEROが答えた。
「だから、始まってから確認する」
数分待ったが、申請者から返事はなかった。
NEROは募集を取り下げた。
「今日は三人でやる」
訓練が始まった。
最初に現れたのは、軽量型の敵機だった。
北側の道路から接近し、交差点を通過しようとする。
NEROが正面で動きを止め、悠真が横から攻撃した。
RIONは後方から射撃し、敵機の進路を制限する。
一体目は、問題なく撃破できた。
続いて、二体目が東側の通路から現れた。
狭い通路を抜けてくるため、正面から攻撃するよりも、交差点に入る前に対応した方がよかった。
悠真が通路の入口へ向かい、NEROが防衛地点を離れないように位置を保つ。
RIONは建物の陰から射撃した。
二体目も撃破した。
しかし、その直後、北側と東側から同時に敵機が出現した。
「北側、二体!」
RIONが叫んだ。
悠真は北側へ向かおうとしたが、東側の敵機が進路を変えた。
防衛地点へ向かっている。
「東側が来る!」
悠真は攻撃を中断し、東側へ戻った。
NEROが北側の敵機を引き受ける。
RIONは建物の陰から位置を変え、北側と東側の両方を射程に収めようとした。
だが、二体目の北側の敵機が障害物を回り込み、RIONのいる位置へ接近した。
RIONは距離を取った。
その間に、東側の敵機が防衛地点に到達した。
【防衛地点耐久:82%】
「戻る!」
悠真が交差点へ駆け戻った。
NEROが北側の敵機を押し返し、RIONも射撃位置を変えて援護する。
三人が合流したところで、残りの敵機を撃破した。
防衛地点は維持できた。
ただし、最初の訓練よりも損傷が大きかった。
【防衛訓練:完了】
【評価:A】
結果を確認したあと、NEROは防衛地点の周囲を歩いた。
「北側と東側が同時に来た時、誰がどこを守るか決まってなかった」
RIONが言った。
「決めていても、敵が予定通りに動くとは限らないだろ」
NEROは交差点の入口を確認しながら答えた。
「だから、最低限の担当だけ決める。あとは状況を見て動く」
悠真は東側の通路を見た。
「僕が東側を見ていたら、北側の二体目がRIONのところまで行かなかったかもしれない。でも、僕が東側に残っていたら、最初の敵も防衛地点に入ってたかもしれない」
「そういうことだな」
NEROは訓練記録を保存した。
続けて、同じ条件でもう一度訓練することになった。
今度は、NEROが北側、悠真が東側を担当する。
RIONは中央付近から援護し、どちらか一方の敵が突破した場合に備える。
二回目の訓練では、敵機の出現位置は同じだった。
北側の敵機が現れると、NEROが交差点の手前で迎え撃つ。
東側の敵機は、悠真が通路の入口で足止めした。
RIONは状況を見ながら射撃位置を変えた。
敵機が二方向から現れた時も、三人は最初の担当を維持しながら、必要な時だけ位置を入れ替えた。
防衛地点への侵入は許さなかった。
【防衛訓練:完了】
【評価:S】
「今回はよかったな」
NEROが記録を閉じた。
「でも、出現位置が分かってたからね」
悠真が言った。
「次も同じとは限らない」
「だから、担当を固定しすぎないことも必要だな」
RIONは武器の設定画面を開いた。
「俺は援護に集中するつもりだったけど、接近された時に自分で離れることも考えないといけない」
悠真は頷いた。
訓練はそこで終了した。
NEROがロビーへ戻る前に、最初の募集画面をもう一度開いた。
参加申請を送ってきたプレイヤーの名前は、まだ残っていた。
「結局、来なかったな」
悠真が言った。
「今日は都合が悪くなったのかもしれない」
NEROは申請履歴を消さずに画面を閉じた。
「また募集を出す時に、参加できるなら返事をくれればいい」
それ以上、理由を調べることはなかった。
悠真もロビーへ戻った。
画面には新しい募集が増えていたが、参加する気にはならなかった。
接続負荷の警告が表示される前に、今日はここまでにしておこうと思った。
ログアウトすると、部屋は静かだった。
机の上には、明日の時間割が置かれている。
悠真は教科書を確認し、必要なものをランドセルに入れた。
今日の訓練では、三人でも防衛地点を守ることができた。
ただ、最初から三人でやる予定だったわけではない。
返事がなかった理由も分からない。
それでも、集まった三人でできることを試し、二回目には結果を変えられた。
悠真は明日の準備を終え、ランドセルを机の横に置いた。




