第百七十七章 残された選択肢
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインしたのは、午前十時を少し過ぎた頃だった。
【オンラインプレイヤー:246,183】
ロビーには、期間限定任務の案内が表示されていた。
【中央輸送施設・臨時運用】
【参加条件:なし】
【推奨人数:4名】
説明によると、中央輸送施設で一部の搬送設備が臨時運用されることになり、荷物の仕分けと輸送先の確認を手伝う任務らしい。
戦闘の記載はなかった。
悠真は参加を申し込んだ。
転送先では、すでに三人のプレイヤーが集まっていた。
「これ、昨日も似たような任務があったよね」
一人が言った。
「昨日は設備の再稼働だった。今日は荷物の仕分けらしい」
別のプレイヤーが任務説明を確認している。
悠真も周囲を見た。
広い倉庫には、複数の搬送車両が並んでいた。
荷物にはそれぞれ番号が付いている。
NPCの作業員が端末を操作し、車両ごとに積み込む荷物を指定していた。
「参加者は、まずこの一覧を確認してくれ」
作業員が端末を渡してきた。
画面には、荷物の番号と輸送先が表示されている。
悠真は一覧を確認した。
荷物は全部で二十四個。
輸送先は三か所に分かれていた。
しかし、一覧の下部に、一つだけ別の表示があった。
【輸送先:未確定】
【積載指示:保留】
「この荷物は、どこへ運ぶの?」
悠真が尋ねると、作業員は荷物の番号を確認した。
「現在、輸送先を確認している。確定するまでは積み込まないでくれ」
「分かった」
四人は、確定している荷物から仕分けを始めた。
番号を照合し、指定された車両の前に運ぶ。
作業自体は単純だった。
ただし、荷物の大きさによって積み込める位置が違うため、一覧の順番通りに運べばいいわけではない。
途中で、別のプレイヤーが積載順を変更した。
「こっちを先に積んだ方が、奥の荷物を動かさずに済む」
「それだと、最後の荷物が入らないんじゃない?」
「車両の奥行きを確認した。大丈夫だと思う」
NPCの作業員が計算結果を確認し、積載順を承認した。
作業は予定通り進んだ。
やがて、未確定だった荷物を除く二十三個の積み込みが終わった。
【積載確認:23/24】
残りは一つだけだった。
悠真は荷物の横に立ち、番号を確認した。
箱には破損もなく、固定具にも異常は見当たらない。
問題は荷物そのものではなく、輸送先が決まっていないことだった。
「まだ確認できないのかな」
プレイヤーの一人が作業員に尋ねた。
「照会中だ」
「どこに?」
「輸送先の管理端末だ。返答が来るまで待ってくれ」
作業員は端末を操作し続けた。
数分後、表示が更新された。
【輸送先:北部資源保管所】
【積載指示:確定】
四人は残りの荷物を車両へ運び、固定状態を確認した。
すべての荷物が積み終わると、輸送車両は順番に出発した。
悠真たちは最後の車両に同行した。
途中、分岐路で先行車両が左へ曲がった。
こちらの車両は右へ進む。
輸送先が異なるため、当然の分岐だった。
北部資源保管所に到着すると、NPCが荷物を受け取った。
箱の番号を読み上げ、端末の記録と照合する。
最後の一箱まで確認が終わった。
【輸送完了】
【評価:S】
任務が終了すると、プレイヤーたちは倉庫の外で立ち止まった。
「最後の荷物、何だったんだろうな」
最初に質問したプレイヤーが言った。
「輸送先が未確定だっただけじゃない?」
別のプレイヤーが答えた。
「それなら、最初から確定しておけばよかったのに」
「管理側で確認が必要だったんだろう」
それ以上の情報はなかった。
悠真も、箱の中身までは確認できなかった。
任務の記録には、荷物番号、輸送先、積載時刻、到着時刻が残っている。
中身の詳細は、参加者が確認できる項目には含まれていなかった。
悠真は記録を閉じた。
ロビーへ戻ると、同じ任務の募集はすでに終了していた。
別の任務を探していると、KAIからメッセージが届いた。
『今日、対戦するか?』
悠真は少し考えてから返信した。
『今日はやめておく。別の任務をやったところ』
『了解』
それだけで、やり取りは終わった。
悠真はロビーを歩き、部品交換所をのぞいた。
新しい部品は追加されていなかったが、以前から出品されていた移動制御ユニットの価格が少し下がっていた。
手持ちの通貨で買える。
しかし、今使っている部品に大きな不満があるわけでもない。
悠真は購入せず、交換所を閉じた。
午後になって、母親に頼まれた買い物を済ませた。
帰宅してから、ゲームの記録を少し整理した。
今日の任務で確認できたのは、荷物の番号と輸送先、それから実際の運搬手順だった。
未確定だった輸送先が、なぜ最初から決まっていなかったのか。
箱の中に何が入っていたのか。
どちらも分からない。
ただ、輸送先が確定するまで積み込みを保留し、確認が終わってから運び出した。
今日の任務は、それで完了している。
悠真は記録を保存し、ゲームを終了した。
夕食の時間まで、まだ少し余裕があった。
机の上の宿題を確認してから、明日の準備を始める。
ゲームの中には、まだ知らないことが残っている。
けれど、知らないことをすべて調べなければならないわけでもない。
悠真は筆箱の中身を確かめ、足りなくなっていた鉛筆を一本補充した。




