第百七十六章 集まらなかった理由
土曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーの片隅に見慣れた募集が出ていた。
【共同探索】
【東部旧工業区・外周確認】
【募集人数:6名】
【主催者:NAGI】
悠真は募集を開いた。
前にNAGIと訪れた区域だった。
奥へ続く通路は、まだ立入禁止のままだったはずだ。
募集の説明には、外周の確認と、通行可能な範囲の記録とだけ書かれている。
悠真は参加申請を送った。
しばらくして、NAGIから返信が届いた。
『参加受け付けた』
『ほかの人は?』
『今のところ二人』
『六人募集じゃなかった?』
『六人まで。必ず六人集めるわけじゃない』
悠真は募集欄を見た。
参加者は、主催者のNAGIを含めて三人だった。
その後、数分待っても人数は増えなかった。
NAGIは募集を閉じた。
『行こう』
転送先は、東部旧工業区の外周だった。
以前訪れた時と、大きな違いはなかった。
資材置き場ではNPCが荷物を運び、作業用機体が建物の前を往復している。
奥の通路には、相変わらず規制柵が設置されていた。
その手前に、案内板が新しく置かれていた。
【設備確認中】
【通行可能区域は案内表示に従ってください】
「前にも似たような表示があったよね」
悠真が言うと、NAGIは案内板を確認した。
「前は柵の向こう側に表示されていた。今は手前にも置かれてる」
「誰かが追加したのかな」
「それは分からない」
NAGIは表示の記録を残した。
三人は案内板に従って、外周の通路を進んだ。
最初の確認地点では、資材置き場の入口と通路の幅を記録した。
二つ目の地点では、搬送車両が通る時間帯をNPCに尋ねた。
返ってきた回答は、作業の進行状況によって変わるというものだった。
固定された時刻は表示されていない。
「これ、前に来た時と同じ?」
同行しているプレイヤーが尋ねた。
「搬送車両が動いてるのは同じ。でも、時間までは覚えてない」
悠真は正直に答えた。
「じゃあ、今回の記録だけ残しておこう」
そのプレイヤーは端末に入力した。
探索は順調だった。
戦闘は発生せず、通行可能な範囲も事前の案内と一致していた。
最後の確認地点に着くと、規制柵の向こう側で作業員が資材を運んでいるのが見えた。
悠真は柵に近づいたが、警告表示が出たため、それ以上は進まなかった。
「中はまだ入れないんだね」
「入れるようになったら、案内が変わるんじゃないか」
NAGIはそう言って、確認を終えた。
【外周確認:完了】
【記録提出:完了】
【評価:A】
報酬を受け取ると、同行者はすぐにログアウトした。
NAGIも記録を確認してから、悠真に尋ねた。
「このあと、どうする?」
「まだ時間はあるけど、別の任務を探すよ」
「分かった。また何かあったら連絡する」
悠真はロビーへ戻った。
募集欄には、別の共同任務が並んでいる。
その中に、朝から何度か見かけた募集があった。
【北部資源輸送路・護衛】
【募集人数:4名】
主催者の名前は、SORAだった。
悠真は募集を開いた。
参加者は二人。
説明には、輸送車両の護衛と、途中の補給地点での確認作業が記載されている。
特別な条件はなかった。
悠真は参加を申請した。
すぐに承認された。
転送先でSORAと合流すると、もう一人の参加者が輸送車両の前で待っていた。
「来てくれたんだな」
SORAが言った。
「うん。まだ人数が足りなかったから」
「募集を出してから、結構たつんだけどな」
「人が少ないの?」
「それもある。でも、今日はほかの任務に流れてるみたいだ」
SORAは募集一覧を確認した。
共同作業や期間限定任務が増えたことで、プレイヤーが分散しているらしい。
ただし、それだけが理由とは限らなかった。
「まあ、三人でも出発できる。行こう」
輸送車両が動き始めた。
途中の道は平坦で、視界も開けていた。
前方の巡回機体が周囲を確認し、車両は一定の速度で進む。
しばらくして、道の脇から機械獣が二体現れた。
「右側!」
悠真が声を上げた。
SORAが車両の前方へ移動し、もう一人が側面を押さえる。
悠真は機械獣の進路を見ながら、車両から離れる方向へ誘導した。
一体がSORAに向かって突進する。
SORAが横へ避けた瞬間、悠真が側面から攻撃を加えた。
機械獣の動きが鈍る。
もう一体は車両へ向かおうとしたが、三人が位置を入れ替えながら進路を塞いだ。
数分後、二体とも動きを止めた。
【護衛対象:損傷なし】
【戦闘評価:A】
「今のは危なかったな」
SORAが車両を確認した。
「二体目、途中でこっちに向きを変えたね」
悠真が言った。
「最初の進路だけ見てたら、車両に近づかれてたかもしれない」
「そうだな。次からは後方も確認する」
SORAは簡単に記録を残した。
補給地点に到着すると、NPCが車両の固定具を点検していた。
前回の輸送任務でも、出発前に固定状態を確認する場面があった。
今回は異常が見つからず、すぐに出発できた。
荷物を届け終えると、任務は終了した。
ロビーに戻った悠真は、SORAの募集欄をもう一度見た。
人数が集まらなかった理由は、少なくとも今回については、ほかの任務へ参加者が分かれていたことが一因らしい。
ただ、すべての募集に同じ理由が当てはまるわけではない。
参加者が足りなければ、出発を遅らせる主催者もいる。
少人数で始める主催者もいる。
募集を取り下げる者もいる。
同じ人数表示でも、その後の行動は違っていた。
悠真は新しい募集を探すのをやめ、ロビーの掲示板を閉じた。
その日の夕方、母親と買い物に出かけた。
帰り道、母親が買い物袋を持ち直しながら尋ねた。
「今日はゲームで何をしたの?」
「前に行った場所を調べて、そのあと護衛任務をしたよ」
「人は集まった?」
「最初の任務は三人だけだった。でも、できたよ」
「そう」
母親は歩きながら、次の信号を確認した。
「人数が多ければ、何でもうまくいくわけでもないのね」
「うん。でも、人数が必要な任務もあるよ」
「それなら、始める前に確認しないとね」
悠真は頷いた。
帰宅すると、買ってきたものを片づけた。
ゲームの中では、募集を出す人も、参加する人も、それぞれの都合で動いている。
集まらない日もあれば、少ない人数で始める日もある。
悠真はそのことを、今日も一つの任務を通して知った。
明日は、また違う任務が並んでいるかもしれない。




