第百七十四章 戻ってきた名前
木曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、フレンド一覧に見覚えのある名前が表示されていた。
SORA。
以前、NAGIと一緒に資源輸送路の任務へ誘ってくれたプレイヤーだった。
最近はロビーで見かけていなかった。
悠真は少し迷ってから、メッセージを送った。
『久しぶり』
しばらくすると、返事が届いた。
『久しぶり。元気だった?』
『うん。SORAは最近ログインしてなかったね』
『ちょっと忙しかったんだ。学校の試験とか、家の用事とか』
悠真は画面を見た。
ゲームを続けている人にも、ログインしない日がある。
それは珍しいことではない。
『今日は何かする予定?』
SORAから尋ねられた。
『まだ決めてないよ』
『それなら、資源輸送路の任務に行かない? NAGIも来る予定なんだ』
悠真は承諾した。
少しして、NAGIからもメッセージが届いた。
『SORAが戻ってきたよ。三人で行こう』
悠真は装備を確認し、ロビーの集合地点へ向かった。
*
集合地点には、SORAとNAGIがいた。
「久しぶり」
悠真が挨拶すると、SORAは軽く手を上げた。
「久しぶり。前に一緒に行った時以来かな」
「そうだね」
「最近は、あまり長くログインできなかったんだ」
SORAは装備を確認しながら言った。
「今日は時間があるから、一つくらい任務をやっておこうと思って」
NAGIが任務一覧を表示した。
「北側の資源輸送路で、護衛の募集が出てる。輸送車両は一台。途中で補給地点を通るらしい」
悠真は詳細を確認した。
任務の目的は、輸送車両を指定された倉庫まで護衛すること。
道中の敵を排除し、車両の耐久値を維持する必要がある。
三人は参加申請を送り、承認を受けた。
転送先には、輸送車両とNPCの運転担当者が待っていた。
「出発準備が整いました。護衛をお願いします」
車両が動き始める。
悠真は前方を確認し、NAGIは側面の道路を警戒した。
SORAは車両の後方につき、周囲の動きを見ていた。
最初の区間では、敵は現れなかった。
道路脇ではNPCの作業員が資材を運び、別の車両が倉庫へ入っていく。
以前通った時と比べると、輸送路の周辺は人や車両の動きが多かった。
「この辺り、前より使われてる気がするな」
SORAが言った。
「そうだね。最近、作業している場所をよく見るよ」
悠真は答えた。
ただ、いつから変わったのかは分からない。
三人は輸送車両を先へ進ませた。
補給地点に近づいた時、警告音が鳴った。
【敵性機体を検知】
道路の先から、二体の機械獣が現れた。
「正面の一体は俺が引きつける!」
SORAが前進した。
NAGIはもう一体の進路を塞ぐように移動した。
悠真は輸送車両との距離を確認しながら、側面から攻撃を加えた。
一体目はSORAの攻撃を受け、進路を変えた。
もう一体はNAGIへ接近しようとしたが、悠真の射撃で動きを止めた。
三人はそれぞれの相手を追い詰め、短い戦闘の末に撃破した。
【敵性機体:排除完了】
輸送車両の耐久値は維持されていた。
「問題なさそうだな」
SORAが確認した。
「うん。車両も無事だよ」
悠真は報告画面を閉じた。
輸送車両は再び動き始めた。
*
補給地点では、NPCの担当者が荷物の数を確認していた。
車両が停車すると、作業員たちが荷台の扉を開け、積載物を一つずつ降ろしていく。
その中に、固定具の破損した箱があった。
担当者が運搬記録を確認した。
「こちらの箱は、固定状態を再確認する必要があります。別の車両への積み替えは、点検後に行います」
運転担当者が頷いた。
輸送車両は、すぐには出発しなかった。
SORAが任務画面を確認する。
「少し待つみたいだな」
「点検が終わるまで、ここで待機だね」
悠真が答えた。
三人は周囲を見回した。
補給地点では、別の車両が荷物を積み込んでいた。
NPCたちは作業の進み具合に応じて動き、荷物の置き場所を変えている。
誰かが一つの作業を終えると、次の担当者がそれを引き継いでいた。
やがて、固定具の点検が終わった。
「積載物の状態を確認しました。輸送を再開します」
輸送車両が動き始める。
残りの道中では、敵は現れなかった。
車両は指定された倉庫へ到着し、積載物の引き渡しが完了した。
【輸送護衛:完了】
【車両損傷:なし】
【評価:A】
任務終了の通知が表示された。
「久しぶりにやったけど、思ったより動けたな」
SORAが言った。
「でも、前より少し疲れたかも」
NAGIが笑った。
「久しぶりだと、感覚を戻すのにも時間がかかるね」
「そうだね」
悠真は頷いた。
三人はロビーへ戻った。
*
帰還後、SORAは任務記録を投稿した。
輸送車両の護衛状況。
補給地点での積載物の再点検。
車両の損傷がなかったこと。
短い報告だったが、次に同じ輸送路を通るプレイヤーにも役立つ内容だった。
悠真は投稿を確認してから、SORAにメッセージを送った。
『また一緒に任務をやろう』
『うん。時間が合えばね』
返事は簡潔だった。
SORAは、その後すぐにログアウトした。
悠真もフレンド一覧を閉じた。
戻ってきた人が、ずっと同じ頻度で遊び続けるとは限らない。
また忙しくなるかもしれないし、別の任務を中心に遊ぶようになるかもしれない。
それは、本人にしか分からないことだった。
悠真は今日の任務記録を保存し、ログアウトした。
*
現実世界に戻ると、母親が洗濯物を畳んでいた。
「今日は誰かと遊んでいたの?」
「うん。前に一緒に任務をした人が戻ってきたんだ」
「しばらく会っていなかった人?」
「そう。忙しくて、あまりログインできなかったんだって」
「また一緒に遊べてよかったね」
「うん」
悠真は少し考えてから続けた。
「でも、次にいつ会えるかは分からないよ」
「そうね。みんな、それぞれ予定があるものね」
母親は畳んだ服を棚へしまった。
悠真は机に向かい、翌日の学校の準備を始めた。
ゲームの中でも、現実の生活でも、人の予定は変わる。
昨日まで見かけなかった人が、今日は戻ってくることもある。
戻ってきたからといって、以前と同じように遊べるとは限らない。
それでも、今日一緒に任務を終えたことは確かだった。
悠真は教科書をランドセルに入れ、明日の時間割を確認した。
次にSORAと会う日が決まっているわけではない。
だからといって、今日の約束が意味を失うわけでもなかった。




