第百六十四章 減っていく募集
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーには昨日よりも多くのプレイヤーが集まっていた。
週末の朝。
新しい装備を試す者もいれば、ランキング戦の相手を探す者もいる。
悠真は掲示板を開いた。
北部資源輸送路の護衛任務。
中央市街の設備点検。
東部岩山の補助設備防衛。
募集一覧には、さまざまな任務が並んでいた。
その中に、見覚えのある名前があった。
【募集主:REI】
【任務:東部岩山・設備防衛】
【参加人数:最大六名】
【現在:三名】
悠真は昨日の輸送任務を思い出した。
REIは装備を見直したいと言っていた。
もう次の任務を募集しているらしい。
悠真は参加申請を送った。
承認通知が届くまでの間、別の募集を確認する。
その時、画面の隅に通知が表示された。
【募集主により参加受付が終了しました】
「え?」
悠真が戻ると、REIの募集が一覧から消えていた。
参加人数はまだ三人だったはずだ。
六人まで募集できる設定になっていた。
悠真は掲示板を更新した。
募集は見つからなかった。
KAIから通信が届いた。
『今、REIの募集に申請したか?』
『うん。でも、受付が終了したみたい』
『俺も見てた。人数が埋まったわけじゃなさそうだな』
『募集主が閉じたのかな』
『たぶんな』
悠真は少し考えた。
昨日の任務では、REIが募集主だった。
今日は設備防衛を募集している。
途中で人数を変えたのかもしれないし、別の理由があるのかもしれない。
ただ、今の表示だけでは分からなかった。
その時、REIからメッセージが届いた。
『参加申請を確認できなかった人がいたらごめん。募集は締め切った』
悠真は返信した。
『了解。もう人数が集まったの?』
少しして、返事が来た。
『人数はまだ上限に届いていないけど、先に現地へ向かうことにした』
悠真は画面を見つめた。
募集を締め切った理由は、人数が揃ったからではないらしい。
けれど、先に現地へ向かうことにしたのなら、募集を閉じること自体は不自然ではない。
『分かった。任務、頑張って』
返信して、悠真はロビーの地図を開いた。
東部岩山の設備防衛は、公開任務だった。
参加条件を満たしていれば、現地から参加できる。
「どうする?」
KAIが尋ねた。
「現地へ行ってみようか。まだ参加できるかもしれない」
「募集は締め切られてるぞ」
「うん。でも、任務そのものが終わったとは書いてないから」
KAIは少し考えた。
「じゃあ、行ってみるか」
二人は東部岩山へ移動した。
指定された補助設備の近くには、すでに四人のプレイヤーが集まっていた。
その中にREIがいた。
「来たのか」
「募集が終わったって表示されたから、任務も終わったのかと思った」
悠真が言うと、REIは首を振った。
「いや、まだ始まってない。ここで参加できるか確認していたんだ」
REIは任務端末を操作した。
【設備防衛:参加可能】
「現地からなら参加できるみたいだ」
悠真とKAIは参加手続きを済ませた。
これで六人になった。
REIは全員の装備を確認した。
「じゃあ、そろそろ始めよう。今回は補助設備を守る。敵が出たら、無理に追わず、設備への接近を止めることを優先してくれ」
六人が配置につく。
悠真は補助設備の北側を担当した。
KAIは東側。
REIは中央で全体の状況を確認する。
任務が始まった。
【設備防衛開始】
最初の数分は、何も起こらなかった。
風の音だけが聞こえる。
補助設備の稼働率は安定していた。
やがて、北側の斜面から敵性反応が現れた。
【敵性反応:三体】
「北側、三体!」
悠真が通信した。
他のプレイヤーが迎撃に向かう。
敵のうち二体は正面から接近してきたが、残る一体は斜面を下りず、設備の側面へ回ろうとしていた。
悠真はその動きを見た。
「一体、東側へ回ってる!」
KAIが反応した。
「こっちで止める!」
KAIは設備の近くを維持しながら、敵の進路を塞いだ。
悠真も北側から移動し、敵の横へ回り込む。
二人で攻撃を加え、設備から十分な距離を取らせた。
その間に、正面から来た二体も撃破された。
【敵性反応:消失】
設備の耐久値は減っていなかった。
REIが状況を確認する。
「全員、配置を戻してくれ。まだ終了していない」
悠真は北側へ戻った。
しばらくして、今度は東側から二体が現れた。
KAIが一体を引きつけ、別のプレイヤーがもう一体を攻撃する。
悠真は設備の耐久値を確認した。
問題はない。
敵が設備に近づく前に、二体とも倒された。
その後も数回の攻撃があったが、六人は連絡を取りながら対応した。
最後の敵を倒すと、任務終了の通知が表示された。
【設備防衛:完了】
【設備耐久値:100%】
【評価:S】
REIが全員に礼を言った。
「ありがとう。思ったより早く終わった」
「募集を閉じたのは、どうして?」
悠真が尋ねた。
REIは少し考えた。
「最初は六人集まるまで待つつもりだった。でも、現地にいた人たちと話して、今いる人数で始められそうだったから、募集を閉じたんだ」
「それで現地から参加できるようにしたんだね」
「そう。募集を開いたままだと、参加する人が増えるかもしれないし、始めるタイミングを決めにくかったから」
KAIが言った。
「最初からそう説明してくれれば、分かりやすかったな」
「そうだな。そこは俺の説明不足だった」
REIは素直に認めた。
「次からは、募集を閉じる時に理由も書いておくよ」
悠真は頷いた。
募集が消えたこと自体は、特別な出来事ではなかった。
ただ、掲示板の表示だけでは、募集主が何を考えていたのかまでは分からなかった。
実際に話してみて、初めて事情が分かった。
任務を終えた三人は、ロビーへ戻った。
REIは掲示板に短い報告を投稿した。
『現地で参加者を確保できたため、募集を締め切りました。任務は完了しています』
その投稿を確認してから、悠真はログアウトした。
部屋に戻ると、母親が昼食の準備をしていた。
「今日はどうだった?」
「設備を守る任務をしたよ」
「うまくいった?」
「うん。設備には傷がつかなかった」
「よかったね」
悠真は手を洗い、食卓についた。
ゲームの中では、募集を出す人もいれば、募集を閉じる人もいる。
表示だけを見れば、理由が分からないこともある。
けれど、理由が分からないからといって、必ず何か特別なことが起きているわけではない。
時には、単に説明が足りなかっただけなのだ。
悠真は昼食を食べながら、午後に何をするか考えた。
今日はもう一度ログインしてもいい。
でも、別のことをしてもいい。
まだ、決めていなかった。




