↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
162/350

第百六十二章 予定外の集合

 金曜日。


 悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーの募集掲示板に新しい投稿があった。


【中央訓練区画・共同検証】


【内容:複数プレイヤーによる任務対応の確認】


【参加人数:最大八名】


【勝敗判定なし/ランキング変動なし】


 悠真は募集内容を開いた。


 説明には、複数のプレイヤーが異なる位置から同じ設備を確認し、状況に応じて対応を分担すると書かれていた。


 昨日のアップデートに関係する検証らしい。


 ただし、NPCの行動だけを調べるものではなかった。


 プレイヤー同士の報告や、現場での役割変更も確認項目に含まれている。


 悠真は参加申請を送った。


 数秒後、承認通知が表示された。


 集合場所へ向かうと、すでに四人のプレイヤーが集まっていた。


 その中に、以前の移動テストで知り合ったNEROがいた。


「お、悠真か」


「NERO。今日は検証?」


「ああ。普段の任務だと、問題が起きてから考えることが多いだろ。今回は最初から、途中で状況が変わる前提らしい」


「どうやって変わるの?」


「そこまでは知らない。説明には、現地の状態によって確認項目が変わるって書いてあった」


 悠真は周囲を見た。


 訓練区画には、中央の制御設備と、その周囲に三つの補助設備が配置されていた。


 設備の間には通路があり、いくつかの場所には簡易的な遮蔽物が置かれている。


 戦闘用の区画にも見えるが、敵の姿はない。


 集合時間になると、主催者が全員に説明を始めた。


「今回は設備の状態を確認しながら、必要な対応を行ってもらいます。最初に担当を決めても構いません。ただし、任務開始後は状況に応じて変更してください」


「敵は出るんですか?」


 別のプレイヤーが尋ねた。


「現時点では、出現するかどうかは分かりません」


「分からない?」


「はい。任務開始時の状態によって変化するため、事前には確定していません」


 参加者の一人が小さく笑った。


「それ、説明になってるのか?」


「確認できている範囲の説明です」


 主催者は淡々と答えた。


 悠真はそのやり取りを聞きながら、機体の装備を確認した。


 今日は移動補助部品を装着している。


 急な方向転換では反応が遅れることがあるが、長い通路を移動するには使いやすい。


 準備が終わると、八人はそれぞれの位置についた。


 任務が始まった。


【共同検証開始】


【中央制御設備:稼働中】


【補助設備A:正常】


【補助設備B:確認中】


【補助設備C:正常】


 悠真は中央設備の近くで待機した。


 NEROは補助設備Aへ向かい、別の二人がBとCを確認する。


 しばらくは、何も起こらなかった。


 中央設備の数値も安定している。


 その時、補助設備Bを担当していたプレイヤーから通信が入った。


『こっちは問題なし。ただ、接続端子の表示が古い型番になってる』


『設備自体は動いてるのか?』


『動いてる。表示だけが違う』


 悠真は自分の端末で設備情報を開いた。


 中央設備からは、補助設備Bの詳細な型番までは確認できない。


「現地の記録を見てもらった方がいいと思う」


 悠真が通信すると、担当者が答えた。


『今、記録を確認してる。少し待ってくれ』


 数分後、別の通知が入った。


【補助設備B:記録情報を更新】


 表示が新しい型番に切り替わった。


 その直後、中央設備の数値が一度だけ変動した。


【中央制御設備:負荷上昇】


「何だ?」


 悠真が画面を見る。


 負荷は規定値を少し超えていた。


 しかし、設備は停止していない。


 主催者から指示が出た。


『中央の担当は負荷の推移を確認してください。補助設備の担当は、現地の状態を維持したまま報告を続けてください』


 悠真は中央設備の前に立ち、数値を記録した。


 負荷はゆっくりと下がり始めた。


 ところが、その時だった。


 訓練区画の北側から、警告音が鳴った。


【北側通路:通行制限】


【設備保守班:移動経路を変更】


 悠真は北側を振り返った。


 NPCの整備員たちが、工具を載せた台車を押して移動していた。


 彼らは北側通路へ入ろうとしたが、入口の警告灯を確認すると、進行方向を変えた。


 別の通路へ向かっている。


「NPCが移動経路を変えた」


 悠真が通信すると、主催者が答えた。


『確認しました。現時点では、こちらから移動を指示していません』


「じゃあ、通路が使えなくなったから、自分たちで変えたのかな」


『その可能性はあります。引き続き観察してください』


 悠真は台車を追わなかった。


 自分の担当は中央設備の確認だ。


 北側の状況は、そちらを担当しているプレイヤーが報告するはずだった。


 少しして、北側担当から通信が入った。


『通路の制限は設備側の自動判定みたいだ。整備班は南側へ回っている』


『原因は?』


『まだ確認できていない。今、端末を調べてる』


 悠真は中央設備の負荷を確認した。


 数値は正常範囲に戻っている。


 しかし、任務画面には新しい項目が追加されていた。


【追加確認:保守班の作業経路】


「また増えた……」


 悠真が呟くと、NEROが通信に入った。


『こっちからも見える。補助設備Aは正常だ。中央の負荷にも変化はない』


『北側はまだ調査中』


『じゃあ、俺は保守班の現在位置を確認する』


 NEROは担当していた設備を離れ、南側の通路へ向かった。


 悠真は中央に残った。


 その間にも、NPCの整備班は移動を続けていた。


 南側の通路を通り、倉庫の脇を抜け、工具を積んだ台車を所定の作業場所へ運んでいく。


 やがて、保守班から短い通信が入った。


『作業場所に到着した。設備の点検を始める』


 その表示と同時に、任務画面の項目が一つ消えた。


【保守班の作業経路:確認完了】


 残る項目は、設備の状態確認だけだった。


 中央設備の負荷は安定している。


 補助設備三か所も、すべて正常だった。


【共同検証終了】


【評価:S】


 任務が終了すると、八人は集合場所に戻された。


 主催者が結果をまとめていた。


「設備の異常は確認されませんでした。ただし、任務中に保守班の経路変更が発生しました。変更の直接的な原因については、記録を確認する必要があります」


「NPCが勝手に動いたってことですか?」


 参加者の一人が尋ねた。


「移動経路の変更は確認できています。ただし、何を基準に変更したのかは、まだ分かりません」


「アップデートの影響じゃないんですか?」


「その可能性もあります。今回の一件だけでは判断できません」


 主催者は記録を保存した。


 参加者たちは、それぞれの感想を話し始めた。


「途中で項目が増えるのは面倒だな」


「でも、最初から全部決められてるよりは現場に近いんじゃないか?」


「原因が分からないまま終わったのは気になる」


「俺は設備が正常なら、それでいいと思うけどな」


 悠真は自分の記録を開いた。


 中央設備の負荷変動。


 北側通路の制限。


 保守班の経路変更。


 それぞれの時刻が並んでいる。


 だが、どの出来事がどこまで関係していたのかは、記録だけでは分からなかった。


 悠真は確認できた事実だけを掲示板に投稿した。


 その後、ロビーへ戻った。


 NEROからメッセージが届いていた。


『今日の検証、どうだった?』


『NPCが自分で経路を変えるところを見られたよ。でも、理由は分からなかった』


『俺も同じだ。動きは確認できたけど、仕組みまでは分からないな』


『うん』


『また何かあったら教えてくれ』


『分かった』


 悠真はメッセージを閉じた。


 接続時間には、まだ余裕があった。


 それでも、今日は追加の任務を受けなかった。


 ログアウトすると、母親が居間から声をかけた。


「今日は早いね」


「うん。検証任務を一つやっただけ」


「何か新しいことが分かった?」


「NPCが自分で移動する経路を変えた。でも、どうしてそうしたのかは、まだ分からない」


「そうなんだ」


 母親はそれ以上、質問しなかった。


 悠真は手を洗い、食卓の準備を手伝った。


 ゲームの中で起きたことは、明日になれば別の記録が増えているかもしれない。


 同じことが再び起きるかどうかも分からない。


 だからこそ、今日見たものを、今日分かった範囲で残しておく。


 悠真はそれで十分だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。