第百五十九章 選ばれなかった装備
火曜日。
悠真は学校から帰り、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:203,817】
ロビーの装備交換所に、新しい案内が出ていた。
【装備整理キャンペーン】
【不要装備の交換受付中】
悠真は交換所を開いた。
以前の任務で手に入れた部品のうち、使わなくなったものがいくつか残っている。
売却するほどでもないが、倉庫に置いたままになっていた。
交換対象の一覧を確認していると、一つの部品が目に留まった。
【補助照準ユニット】
照準の安定性を少し高める部品だった。
ただし、装備すると機体重量が増え、移動性能がわずかに低下する。
悠真は詳細を開いた。
数字だけを見れば、悪い部品ではない。
射撃が安定するのは便利だ。
けれど、今使っている機体には、すでに別の照準補助機能が組み込まれている。
交換するなら、別の部品を選んだほうがよさそうだった。
悠真は一覧をスクロールした。
その時、移動制御ユニットが目に入った。
方向転換時の機体の姿勢を安定させる部品。
先日の訓練区画で、移動しながら射撃した時に苦労したことを思い出した。
悠真は交換を申請した。
数秒後、倉庫の装備一覧に新しい部品が追加された。
さっそく機体に装着する。
訓練区画へ移動し、短いコースを走った。
直線では、以前と大きな違いはない。
曲がり角に差しかかる。
悠真は速度を落とさず、機体の向きを変えた。
機体の姿勢は安定していた。
「おっ」
もう一度、同じ操作を試す。
今度も、以前より機体が流れにくかった。
しかし、急に方向を変えようとすると、旋回の開始がわずかに遅れる。
万能な部品ではなかった。
悠真は装備の設定を開き、制御の強さを一段階下げた。
再びコースを走る。
今度は旋回の遅れが小さくなったが、姿勢の安定性も少し低下した。
悠真は結果を記録した。
設定を変える前と後で、どちらがよいか。
それは、実際に使う状況によって変わりそうだった。
訓練区画を出ると、KAIからメッセージが届いた。
『今、装備試してる?』
『うん。移動制御ユニットを手に入れた』
『どんな感じ?』
『曲がる時は安定する。でも、急に方向を変えると少し遅れる』
『じゃあ、近接戦闘だと使いにくいかもな』
『そうかもしれない』
KAIは近接戦闘を中心に戦っている。
悠真とは、装備を使う場面も違う。
同じ部品でも、KAIにとって使いやすいかどうかは、実際に試してみなければ分からない。
悠真はメッセージを送った。
『今度、試してみる?』
『いいぞ』
二人は訓練区画で合流した。
KAIは普段使っている近接戦闘型の機体を持ち込んでいた。
悠真は移動制御ユニットを装着した機体を見せた。
「これ、曲がる時は安定するんだけど、急な切り返しが少し遅れるんだ」
「じゃあ、俺が動いてみる」
KAIは機体を動かし、短い距離を走った。
曲がり角で方向を変える。
機体は安定していたが、切り返す際に一瞬だけ動きが鈍った。
「確かに、ここは遅れるな」
「うん」
「でも、直線から曲がる時は悪くない。敵の攻撃を避けながら接近するなら、使える場面もあると思う」
KAIはもう一度、同じコースを走った。
今度は切り返す前に、少しだけ速度を落とした。
機体の動きが滑らかになった。
「操作を変えれば、補える部分もあるな」
「そうだね」
悠真は記録を保存した。
その後、二人は軽い模擬戦を行った。
KAIが接近し、悠真が距離を保つ。
悠真は移動制御ユニットを使い、曲がり角で機体の姿勢を安定させた。
以前よりも狙いを定めやすかった。
しかし、KAIが急に進路を変えた時には、反応が遅れた。
悠真は攻撃を受けた。
【機体耐久値:72%】
「今のは間に合わなかった」
「切り返しが遅れたな」
「うん」
模擬戦を終え、二人は装備を確認した。
KAIは自分の機体には別の部品を使うと言った。
近接戦闘では、急な方向転換が多いからだ。
悠真は移動制御ユニットをそのまま使うことにした。
遠距離から射撃する場面では、機体の姿勢が安定する利点がある。
同じ装備でも、使う人によって選択が変わる。
悠真は倉庫の一覧を見た。
交換に出した補助照準ユニットは、もう手元にない。
あれを残しておけば、別の機体で使えたかもしれない。
少しだけ迷ったが、交換を取り消すことはできなかった。
悠真は新しい部品を装備したまま、訓練区画を出た。
現実の部屋へ戻ると、母親が声をかけた。
「今日は何をしていたの?」
「装備を交換して、試してた」
「よかった?」
「使いやすくなったところもあるけど、前より遅くなったところもある」
「そうなの」
「だから、どの装備を使うかは、何をするかで変わるんだと思う」
母親は少し考えてから頷いた。
「使ってみないと分からないこともあるのね」
「うん」
悠真は机に向かい、明日の宿題を確認した。
ゲームの中には、たくさんの装備がある。
性能の高いものもあれば、扱いにくいものもある。
どれを使うかは、数字だけでは決められない。
悠真は今日の記録を思い出した。
交換に出した部品が、本当に不要だったのか。
今のところ、答えは分からない。
ただ、今使っている部品にも、合わない場面がある。
次に別の任務へ行った時、今日とは違う結果になるかもしれない。
悠真は教科書を開いた。
明日も学校がある。
新しい装備を試すのは、また時間がある時でよかった。




