第百五十八章 予定表にない任務
月曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーの案内欄に新しい通知が表示されていた。
【中央整備区画:臨時作業参加者募集】
【内容:輸送設備の復旧補助】
【戦闘任務ではありません】
悠真は募集内容を開いた。
説明によると、中央整備区画と北部輸送路の間で使われている運搬設備に不具合が見つかったらしい。NPCの整備員だけでは作業に時間がかかるため、プレイヤーにも補助を募集している。
報酬は少額。
ランキングへの加算もない。
参加時間は自由で、作業が終わった時点で解散となる。
悠真は少し考えてから、参加を申請した。
指定された場所へ行くと、数人のプレイヤーとNPCの整備員が集まっていた。
中央には、車輪の付いた大型の運搬台が置かれている。
片側の車輪が外され、近くには交換用の部品が並んでいた。
「これを直すんですか?」
悠真が尋ねると、整備員が頷いた。
「車輪の軸が摩耗しています。部品を交換すれば動きますが、台車自体が重いので、交換作業を手伝ってほしいんです」
プレイヤーたちは、それぞれの作業を割り振られた。
悠真の担当は、交換部品の運搬と固定具の受け渡しだった。
戦闘のように敵の動きを読む必要はない。
ただ、作業員が何を必要としているのかを確認し、指定された部品を間違えずに渡す。
最初は順調だった。
ところが、三つ目の部品を運んだところで、整備員から声がかかった。
「その部品ではありません。型番を確認してください」
「えっ?」
悠真は手元の部品を見た。
形はよく似ていたが、末尾の番号が違っていた。
「すみません」
「大丈夫です。こちらは別の設備に使います。正しいものを取ってきてください」
悠真は部品を戻し、指定された棚を確認した。
同じ形の部品がいくつも並んでいる。
今度は番号を最後まで確認してから持ち帰った。
整備員は受け取った部品を確認し、作業を続けた。
悠真は、その場を離れて次の作業を手伝った。
しばらくして、運搬台が持ち上げられた。
交換した車輪を取り付け、固定具を締める。
整備員が手動で車輪を回し、異常がないかを確かめた。
「では、試運転をします」
運搬台は短いレールの上をゆっくり進んだ。
一度目は問題なかった。
二度目も、車輪は滑らかに回った。
整備員は記録端末に結果を入力した。
【動作確認:正常】
「これで完了です。手伝ってくれてありがとうございました」
参加していたプレイヤーたちは、報酬を受け取って解散した。
悠真もロビーへ戻った。
任務一覧には、まだいくつもの募集が並んでいる。
通常の戦闘任務。
輸送護衛。
設備防衛。
そして、先ほどのような作業補助。
悠真は今まで、報酬や評価を見て参加する任務を選ぶことが多かった。
今日は違った。
報酬は少なく、ランキングにも影響しない。
それでも、実際に参加してみると、普段の戦闘では触れない部分を知ることができた。
悠真は任務履歴を開いた。
そこには、今日の作業が一件の記録として残っていた。
しばらく眺めてから、画面を閉じた。
午後、悠真はKAIと合流した。
『今日、何してた?』
『設備の復旧補助。運搬台の部品交換を手伝った』
『そんな任務もあるんだな』
『うん。戦闘はなかったよ』
『面白かった?』
悠真は少し考えた。
『部品の番号を間違えた』
『それは面白い話なのか?』
『次からはちゃんと確認する』
KAIから、短い返事が届いた。
『まあ、そういうこともあるか』
悠真は笑った。
その後、二人で通常の戦闘任務に参加した。
敵は三体。
悠真は敵の位置を確認しながら射撃し、KAIが接近して動きを止めた。
任務は問題なく終了した。
評価はA。
ロビーへ戻った後、悠真はもう一つ任務を探しかけた。
しかし、時計を見ると、そろそろログアウトする時間だった。
明日も学校がある。
悠真は募集一覧を閉じた。
現実の部屋に戻ると、母親が夕食の準備をしていた。
「今日は何をしていたの?」
「ゲームの中で、壊れた運搬台を直すのを手伝った」
「悠真が直したの?」
「僕は部品を運んだだけ。整備する人が別にいたよ」
「そうなの」
「似た部品が並んでて、番号を間違えたんだ」
母親は手を止めずに聞いていた。
「でも、やり直せたんでしょう?」
「うん。次は番号を最後まで確認する」
「それなら、覚えたことが一つ増えたね」
悠真は頷いた。
夕食を終え、翌日の準備を済ませる。
机の上には、学校の教科書と筆箱が並んでいた。
ゲームの中では、部品を間違えれば作業が止まる。
学校では、問題文を読み落とせば答えを間違える。
どちらも、気づいた後にやり直せることはある。
もちろん、すべてが同じではない。
悠真はそう考えながら、明日の時間割を確認した。
今日の《クロスギア》では、ランキングは変わらなかった。
大きな敵を倒したわけでもない。
ただ、運搬台が再び動くようになった。
その先で、誰が何を運ぶのかまでは分からない。
悠真は教科書を閉じ、明日の準備を終えた。




