第百五十七章 動いている街
日曜日。
悠真は午前中、KAIとRIONに誘われて《クロスギア》へログインした。
【オンラインプレイヤー:251,064】
ロビーでは、週末の共同任務を募集する声が流れていた。
『北部資源輸送路、護衛募集。現地集合でも可』
『旧市街区画、設備点検の補助。戦闘少なめ』
『東岩山、通常防衛任務。参加者募集中』
RIONがメッセージを送ってきた。
『今日は任務に行く?』
悠真は掲示板を見ながら返信した。
『何か考えてる?』
『北部の輸送路。昨日、通行可能な区間が増えたらしい』
KAIも会話に加わった。
『じゃあ、見に行こうぜ』
三人は北部資源輸送路の募集に参加した。
任務の目的は、資源を積んだ輸送車両を北部の倉庫まで護衛することだった。
指定地点に到着すると、輸送車両の周囲でNPCたちが準備を進めていた。
車両の荷台には金属製の箱が積まれている。
NPCの整備員が車輪を確認し、別の作業員が固定具を締め直していた。
「準備できました」
運転席のNPCが声を上げた。
車両が動き出す。
悠真たちは、その左右と後方についた。
最初の区間は、特に問題がなかった。
道路脇には以前から使われている設備が並び、何台かの作業車両が反対方向へ走っていく。
そのうちの一台は、荷台に古い部品を積んでいた。
悠真は一瞬だけ目を向けたが、車両はすぐに視界から外れた。
「前方、分岐点だ」
KAIの声で、悠真は進行方向へ視線を戻した。
道路は二手に分かれていた。
右側は広く、路面も比較的整っている。
左側は狭いが、目的地までの距離は短い。
輸送車両が分岐点で停止した。
NPCの運転手が、車両に搭載された端末を操作する。
しばらくして、画面に案内が表示された。
【推奨経路:右側】
【左側経路:通行状況を確認中】
「右に行くみたいだな」
KAIが言った。
「左は通れるか分からないんだね」
悠真が答えると、RIONが左側の道路を確認した。
「路面は見えてるけど、奥が分からない。輸送車両が通れるかは別の話だよ」
運転手は右側へ車両を進めた。
三人も後に続いた。
しばらく走ると、道路脇に小さな作業区画が見えてきた。
数人のNPCが、壊れた柵を交換している。
別のNPCは、道路の端に置かれた資材を運んでいた。
作業区画の奥には、以前は閉鎖されていたらしい建物がある。
入口の扉は開いていた。
内部では照明が点灯し、床の上を小型の運搬機が走っていた。
「ここ、前は閉まってなかった?」
悠真が尋ねた。
「俺が来た時は閉まってたな」
KAIが答えた。
「いつ開いたんだろう」
「知らない。でも、今は使ってるみたいだね」
RIONは建物の入口を見た。
NPCの作業員が運搬機の進路を空け、積み荷を受け取っている。
その様子は、特別なイベントのようには見えなかった。
ただ、ここで作業をする必要があり、設備が使えるようになったから使っている。
それだけのようだった。
輸送車両が進み始め、三人も任務へ戻った。
途中、一度だけ小型の機械獣が現れた。
悠真が進路を塞がれないように射撃し、KAIが接近して敵の動きを止める。
RIONの攻撃が最後に命中した。
機械獣は倒れ、道路が再び通れるようになった。
輸送車両は速度を落とすことなく進んだ。
やがて、北部倉庫へ到着した。
NPCたちは荷物を降ろし、受領記録を確認している。
運転手が三人に向かって言った。
「護衛、ありがとうございました。次の輸送は午後に予定しています」
悠真はその言葉を聞き、少し意外に思った。
任務が終われば、NPCたちはそこで動かなくなるものだと思っていたわけではない。
けれど、午後の輸送がすでに予定されていることは、普段あまり意識していなかった。
荷物を降ろした車両は、空になった荷台を載せて倉庫の裏へ移動した。
別の作業員が、新しい積み荷の確認を始めている。
倉庫の入口では、運搬機が次の荷物を待っていた。
悠真はしばらくその様子を眺めた。
「どうした?」
KAIが尋ねた。
「いや。任務が終わっても、ここは動いてるんだなって」
「そりゃそうだろ」
「うん。そうなんだけど」
悠真は倉庫の中を見た。
NPCたちは、プレイヤーの任務が終わったことを気にしている様子もなく、次の作業へ移っていた。
RIONが端末を操作した。
「任務評価、出たよ」
【任務評価:A】
【輸送車両の到着:成功】
【護衛対象の損傷:なし】
評価はAだった。
三人は結果を確認し、ロビーへ戻った。
KAIは次の任務を探していたが、RIONは午後から別の予定があるらしく、すぐにログアウトすることにした。
『また今度』
RIONのメッセージが届く。
悠真も返事を送り、KAIと別れた。
そのままログアウトしようとした時、倉庫の運営記録が掲示板に更新されているのが目に入った。
今日の輸送実績。
荷物の受領数。
次回の輸送予定。
どれも通常の業務記録だった。
悠真は内容を一度確認しただけで、画面を閉じた。
特別なことが起きたわけではない。
ただ、いつも通りの任務を終えたあとにも、別の仕事が続いている。
それを見ただけだった。
現実の部屋に戻ると、母親から声がかかった。
「悠真、お昼にするよ」
「うん、今行く」
悠真は椅子から立ち上がった。
午後は買い物の予定がある。
ゲームの中でも、現実でも、先に決まっている予定があった。
すべてを自分の都合で動かせるわけではない。
それでも、その中で何をするかは選べる。
悠真は部屋を出て、母親の待つ食卓へ向かった。




