第百五十二章 消えた募集
火曜日。
悠真は学校から帰り、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:202,175】
ロビーに入ると、KAIからメッセージが届いていた。
『昨日の演習、もう一度やらないか?』
悠真は少し考えた。
昨日は、配置を変えることで設備への損傷を防げた。
ただ、同じ訓練を繰り返すより、実際の任務で試してみるほうが違いを確認できそうだった。
『今日は普通の任務で試してみようよ』
『分かった。何をやる?』
悠真は掲示板を開いた。
北部輸送路の護衛任務。
森林区域の巡回。
中央市街の設備点検。
その中に、昨日の演習に似た防衛任務が掲載されていた。
『東部岩山・補助設備防衛』
主目標は、山頂の制御設備を守ること。
追加目標は、東側の補助設備を維持すること。
募集人数は最大六人。
悠真が詳細を確認していると、募集人数の表示が変わった。
【参加者:4/6】
数秒後、さらに一人増えた。
【参加者:5/6】
悠真は参加を選択した。
その時、募集の表示が消えた。
「……あれ?」
掲示板を更新してみる。
先ほどまであった募集が見当たらない。
検索条件を変えても、表示されなかった。
KAIからメッセージが届いた。
『募集、なくなったか?』
『うん。今、参加しようとしたら消えた』
『定員に達したのかもしれないな』
悠真は募集主の名前を確認しようとしたが、すでに詳細画面も開けなくなっていた。
しばらく待っていると、別の投稿が表示された。
『東部岩山の防衛任務、募集を終了しました。参加予定者は現地集合をお願いします』
募集主からの投稿だった。
悠真はその文章を読んだ。
募集そのものが取り消されたわけではないらしい。
参加者の一覧は見られなかったが、現地集合と書かれている。
『まだ参加できるみたいだね』
『じゃあ、行ってみるか』
二人は指定された集合地点へ向かった。
到着すると、すでに五人のプレイヤーが集まっていた。
募集主がこちらに気づき、声をかけてきた。
「参加予定の人か?」
「はい。掲示板を見て来ました」
「分かった。今、配置を確認しているところだ」
募集主は地図を開いた。
山頂の制御設備。
東側の補助設備。
北側から山頂へ続く道路。
それぞれの位置が表示されている。
「最初は山頂に三人、東側に二人。残りの一人は北側の道路を確認して、敵の位置を報告してほしい」
悠真は配置を見た。
山頂を守る人数は多い。
しかし、北側の道路は長く、敵が現れた場合に山頂へ戻るまで時間がかかる。
「北側の確認役は、道路の途中まででいいんですか?」
悠真が尋ねた。
「そうだ。奥まで進む必要はない。敵が見えたら報告してくれ」
「分かりました」
悠真は東側の補助設備を担当することになった。
もう一人のプレイヤーと一緒に移動し、設備の状態を確認する。
装置は正常に動いていた。
周辺にも敵はいない。
悠真が報告を済ませた直後、北側の確認役から連絡が入った。
『道路の先で敵を確認。数は三体。こちらへ向かっている』
募集主が返事をした。
『了解。山頂班は設備から離れすぎないように。東側はそのまま維持してくれ』
悠真は周囲を確認した。
補助設備を守ることが、今の自分の役割だった。
敵がこちらへ来ない限り、無理に移動する必要はない。
数分後、山頂から戦闘音が聞こえた。
北側から来た敵が、山頂班と交戦しているらしい。
悠真は通信欄を確認した。
『一体撃破。残り二体』
続いて、別の報告が入った。
『敵の一体が山頂から離れた。東側へ向かっている可能性がある』
悠真は地図を開いた。
敵が向かっているとすれば、補助設備の方向だった。
隣にいたプレイヤーが言った。
『迎撃に出るか?』
「まだ位置が確定していないから、ここで待とう。近づいてきたら対応する」
『分かった』
二人は設備の前で待機した。
しばらくして、岩場の向こうに機械獣が現れた。
やはり、東側へ向かってきている。
悠真は攻撃を仕掛け、敵の進路を設備から遠ざけた。
もう一人のプレイヤーが側面から攻撃する。
機械獣は二人に注意を向け、設備へ近づくことなく停止した。
『東側、敵を排除した』
悠真が報告すると、募集主から返事があった。
『了解。山頂も残り一体だ』
戦闘はその後も続いたが、設備に大きな損傷はなかった。
制限時間が終了すると、任務結果が表示された。
【主目標:山頂設備の防衛成功】
【追加目標:補助設備の維持成功】
【評価:A】
募集主が参加者全員に礼を言った。
『協力ありがとう。特に東側は、敵が来るまで動かなかったのがよかったと思う』
悠真は少し考えた。
もし敵の位置が分からないまま山頂へ向かっていたら、補助設備を守る人がいなくなっていた。
反対に、最初から設備の前で待ち続けるだけでは、敵が来る前に別の場所を支援できた可能性もある。
今回は、敵の位置を確認してから動いたことが結果につながった。
ただ、それも今回の配置と敵の動きが合っていたからかもしれない。
悠真は結果画面を閉じた。
ロビーへ戻ると、KAIがメッセージを送ってきた。
『最初の募集が消えた時は、どうなるかと思ったな』
『うん。でも、募集が終わっただけだったみたい』
『掲示板の表示だけだと、分からないこともあるんだな』
「そうだね。参加できるかどうかも、実際に確認しないと分からなかった」
二人は少し話したあと、別々の任務を探し始めた。
悠真は掲示板に戻り、先ほどの募集を探した。
すでに終了した任務として、結果だけが掲載されていた。
募集開始時刻。
募集終了時刻。
参加者数。
達成した目標。
そこには、募集が一度消えた理由までは書かれていなかった。
悠真は記録を閉じた。
表示が消えたことだけでは、何が起きたのか分からない。
定員に達したからなのか。
募集主が設定を変更したからなのか。
あるいは、別の理由があったのか。
結果として参加できた以上、今すぐ確かめる必要もなかった。
悠真はログアウトした。
現実の部屋では、母親が夕飯の準備をしていた。
「今日は何をしていたの?」
「防衛任務をやってきたよ。最初、募集が掲示板から消えたんだけど、現地集合の案内が出ていたから行ってみたんだ」
「ちゃんと参加できたのね」
「うん。募集が終わっただけだったみたい」
「そう。表示だけでは分からないこともあるのね」
「うん。実際に確認したら、まだ参加できた」
母親は皿を並べた。
「じゃあ、分からない時は、確認できるところまで確認すればいいのね」
「そうだね。でも、何でも調べ続ける必要はないと思う」
悠真は席についた。
ゲームの中には、確認すれば分かることもあれば、確認しても理由までは分からないこともある。
今日の募集が消えた理由は、結局分からなかった。
それでも任務には参加できたし、必要な目標も達成できた。
悠真は夕飯を食べながら、明日の学校の予定を思い出した。
今夜は、もうゲームのことを考えなくてもよさそうだった。




