第百五十章 いつもと違う誘い
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、KAIからメッセージが届いていた。
『今日、RIONも来る。三人で何かやらないか?』
悠真はロビーの掲示板を確認した。
週末の共同任務がいくつか掲載されている。
東部岩山の設備防衛。
北部輸送路の護衛。
森林区域の探索。
どれも以前に経験したことがある任務だった。
『何でもいいよ』
悠真が返事をすると、KAIからすぐに返信が来た。
『じゃあ、今日は任務じゃなくて探索にしよう』
『探索?』
『中央市街の外側に、新しい通行区域が追加されたらしい。掲示板に案内が出てる』
悠真は告知を開いた。
対象は中央市街の東側にある旧工業区域。
以前から存在していた区域だが、今回、一部の道路が通行可能になり、プレイヤーも指定された範囲まで入れるようになったらしい。
危険度は低い。
戦闘を目的とした任務ではなく、通行可能区域と施設の状態を確認するためのものだった。
悠真は参加を選んだ。
集合地点には、すでにKAIとRIONがいた。
「おはよう」
『おう』
『おはよう。今日は何を調べるんだ?』
RIONが地図を開いた。
『この道路から入って、指定地点を三つ確認する。施設の状態と通行状況を記録すればいいらしい』
「敵は出るのかな?」
『可能性はあるみたいだけど、戦闘任務ではないから、無理に進む必要はないって書いてある』
悠真は地図を確認した。
旧工業区域は、中央市街から東へ伸びる道路の先にあった。
以前は車両整備や資材運搬に使われていたらしい。
しかし、長い間使われていなかった場所も多く、現在もすべての施設が稼働しているわけではない。
三人は出発した。
最初の道路は、思っていたよりも整備されていた。
舗装面には補修の跡があり、道の端には新しい案内標識が設置されている。
道路脇では、NPC作業員が古い資材を運び出していた。
『ここ、前からこんなに人がいたか?』
KAIが周囲を見た。
「僕が来た時は、あまり見なかったと思う」
『区域が開放されたから、作業員も入れるようになったのかもしれないな』
RIONが答えた。
ただし、今回の更新で作業員が新たに配置されたのか、以前から作業していたのかは分からなかった。
三人は最初の指定地点に到着した。
そこには、古い輸送設備が残っていた。
大きな荷物を移動させるための機械らしい。
外装には傷があり、一部の部品も取り外されている。
しかし、周辺には新しい資材が置かれ、設備の前には点検用の端末が設置されていた。
「今も使う予定があるのかな」
悠真が尋ねた。
『点検しているなら、何かしら確認しているんだろうな』
KAIはそう答えたが、すぐに付け加えた。
『ただ、再稼働させるのか、撤去するために調べているのかは分からない』
「そうだね」
三人は設備の状態を記録した。
第二地点へ向かう途中、道路が二つに分かれていた。
左側は広い道路だが、途中に柵が設置されている。
右側は狭く、先の様子が見えない。
地図には右側の道路も表示されていたが、通行可能かどうかは明記されていなかった。
『右へ行ってみるか?』
KAIが尋ねた。
「少し先まで確認して、通れなさそうなら戻ろう」
悠真が答えると、RIONも頷いた。
『それでいいと思う。地図に載っていることと、実際に通れることは別だからな』
三人は右側の道へ進んだ。
しばらく進むと、道路の先に資材が積み重なっていた。
完全に塞がれているわけではない。
しかし、通路は狭く、向こう側へ抜けられるかどうかは確認できなかった。
近くに作業員の姿もない。
「今日はここまでにしよう」
悠真が言った。
『無理に通る必要もないしな』
KAIは地図に現在地を記録した。
三人は来た道を戻り、広い道路の入口まで戻った。
そこには、柵の前で作業しているNPCがいた。
「この先は通れないんですか?」
悠真が尋ねると、作業員は手を止めた。
「現在、路面と周辺設備を確認している。安全確認が終わるまでは、柵の向こうへは進めない」
「いつ頃通れるようになりますか?」
「まだ決まっていない。確認が終わってからだな」
作業員はそれ以上の説明をしなかった。
三人は通行できない区域として記録し、第二地点へ向かった。
そこは小さな倉庫だった。
入口は閉じられていたが、外側の設備に目立った損傷はない。
壁面には古い施設番号が残っていた。
RIONが端末を確認した。
『施設番号は記録されている。ただ、現在の用途は表示されないな』
「使われていないのかな?」
『外から見ただけじゃ分からない。中に資材が残っているかもしれないし、すでに空なのかもしれない』
悠真は倉庫の外観を記録した。
最後の地点は、区域の東端にある小さな広場だった。
そこには、運搬車両が一台停車していた。
NPC作業員が荷物を積み込み、別の作業員が端末で数量を確認している。
道路は広く、車両の通行にも問題はなさそうだった。
悠真たちは指定された確認を終え、任務を終了した。
【通行区域の確認:完了】
【施設状態の記録:完了】
【未確認区域:あり】
【評価:A】
ロビーへ戻ると、RIONが記録を見直していた。
『今日の範囲だけでも、使われている場所と、まだ確認中の場所が分かれたな』
「うん。でも、使われていないように見える場所も、実際には何かの作業をしているかもしれない」
『そうだな。外から見ただけでは、用途までは分からない』
KAIは地図を閉じた。
『また通れる場所が増えたら、見に来てもいいな』
「そうだね」
三人は別れる前に、次に一緒に遊べる日を確認した。
KAIは明日、少し遅い時間ならログインできるらしい。
RIONは学校の課題があるため、まだ分からないと言った。
予定は決まらなかったが、三人とも急いで決める必要はないと思っていた。
悠真はログアウトした。
現実の部屋では、母親が洗濯物を取り込んでいた。
「今日は友達と遊んでいたの?」
「うん。ゲームの中で、前からあった区域を調べてきたんだ」
「新しい場所だったの?」
「区域自体は前からあったみたい。でも、通れる道路が増えたらしいよ」
「そうなんだ。何か見つかった?」
「古い設備や倉庫があった。まだ使っているのかどうか、分からない場所もあったけど」
母親は洗濯物を畳みながら答えた。
「使っているかどうかは、見ただけでは分からないこともあるのね」
「うん。調べている途中の場所もあったよ」
悠真は自分の机を片づけた。
ゲームの世界では、以前から存在していた場所でも、通れる範囲が変われば見えるものが変わる。
そこに何があるのか。
誰が使っているのか。
何のために残されているのか。
すぐには分からないこともある。
それでも、実際に行って確認すれば、少なくとも今の状態は記録できる。
悠真は明日の予定を考えた。
KAIとは遊べるかもしれない。
RIONはまだ分からない。
もし二人が来られなくても、一人でできる任務はある。
その時に、やりたいことを選べばいい。
悠真は机の上に置いていた本を開いた。
ゲームの中で確認できる場所が増えていく一方、現実の生活にも、明日やることが残っている。
今日はその続きを、少しずつ進めていくつもりだった。




