第十五章 記録の積み重ね
秋になった。
朝の空気が少し冷たくなり、学校へ向かう道の木々も、少しずつ色を変え始めていた。
悠真はいつも通り学校へ行った。
授業を受ける。
休み時間に友達と話す。
給食を食べる。
放課後になれば家へ帰る。
特別なことは何もない。
その日の夜も、いつものように《クロスギア》へログインした。
メインロビー。
オンライン人数。
398,214
悠真は数字を見た。
「三十九万人か……」
とうとう四十万人を切っていた。
少し前までは、五十万人以上いた。
さらに前には、百万人以上いた。
それでも悠真は、もう以前ほど驚かなかった。
ゲームが終わったわけではない。
今日もロビーにはたくさんの人がいる。
チャットも流れている。
新しい装備も販売されている。
新しい任務も追加されている。
世界Bossの予告もある。
《クロスギア》は普通に動いていた。
ただ、人が減っている。
それだけだった。
悠真はランキングを開いた。
【総合プレイヤーランキング】
1 YUMA
2 KAI
3 RION
4 TAIGA
5 ZERO
次に、プレイヤー排位ランキング。
1 YUMA
2 KAI
3 RION
さらに下を見る。
十位。
二十位。
三十位。
以前は見たことのある名前ばかりだった。
今は知らない名前が増えている。
悠真はランキングを閉じた。
「今日は高難度かな」
任務一覧を見る。
新しい高難度任務が追加されていた。
【特殊戦闘任務】
【推奨戦闘力:S+】
【参加条件:高難度任務達成率80%以上】
「やってみよう」
転送。
今回は都市ではなかった。
雪山だった。
吹雪が吹いている。
視界が悪い。
敵は三体。
どれも大型だった。
悠真はすぐに戦闘を始めなかった。
周囲を見る。
雪。
崖。
狭い道。
足場の悪い場所。
「ここなら……」
悠真は敵の動きを待った。
一体が近づいてくる。
攻撃を避ける。
そのまま後退する。
敵も追ってくる。
狭い場所へ誘導する。
大型の敵は動きづらくなる。
そこへ攻撃。
一体倒す。
残り二体。
しかし、今度は敵同士の距離が近い。
正面から戦えば危険だった。
悠真は一度逃げる。
敵が追ってくる。
そのうちの一体が雪崩の起きやすい場所に入った。
「今だ」
攻撃する。
雪が崩れる。
敵の動きが止まる。
残り一体。
最後は正面から戦った。
数分後。
戦闘終了。
【任務完了】
【評価:S+】
【特殊条件達成】
【戦術評価:A+】
悠真は画面を見た。
「やった」
報酬を受け取る。
そのとき、新しい表示が出た。
【プレイヤー戦闘データを更新しました】
【地形利用】
【敵行動予測】
【戦闘判断】
【環境適応】
悠真は少しだけ首を傾げた。
「最近、こういうの増えたな」
以前は単純な戦闘結果しか表示されなかった。
最近は、自分がどう戦ったかまで記録されるようになっている。
ただ、ゲームをしている以上、そういうものだと思っていた。
そのままロビーへ戻る。
チャット欄を見る。
『誰か新任務行った?』
『行った。難しい』
『YUMAもうクリアしてるぞ』
『早すぎ』
『また一位かよ』
悠真は少し笑った。
その直後。
一人のプレイヤーからメッセージが届いた。
『YUMAさん』
『なに?』
『強くなるには、何をすればいいですか?』
悠真は少し考えた。
以前にも似た質問をされた。
『いろいろやってみればいいと思う』
『いろいろ?』
『普通の任務も、高難度も、PVPも、世界Bossも』
『全部ですか?』
『全部じゃなくてもいいよ』
少し考えてから続けた。
『自分が楽しいと思うやつをやればいい』
『でも強くなりたいです』
『じゃあ、強くなること自体が楽しいなら、いろいろ試してみたらいい』
相手から返事が来る。
『分かりました』
『ありがとう』
悠真はチャットを閉じた。
その会話を見ていたKAIが、横からメッセージを送ってきた。
『お前、最近先生みたいだな』
『そう?』
『そう』
『別に教えてないよ』
『それが先生っぽい』
悠真は笑った。
その頃。
運営会社では、さらに大きなデータ処理が行われていた。
【プレイヤー行動データ統合】
【総登録プレイヤー数:3,842,691】
【現役プレイヤー:398,214】
【戦闘データ総量:処理中】
研究員が画面を見る。
「過去のプレイヤーも全部入れるんですか?」
「当然だ」
「もうログインしていない人も?」
「全員だ」
「何年分あります?」
「正式サービス開始から全部」
研究員は少し驚いた。
「かなりの量ですね」
「だから価値がある」
別の画面に、プレイヤーの戦闘傾向が表示される。
初心者。
中級者。
上級者。
トッププレイヤー。
テスター。
管理者。
ゲーム内キャラクター。
そして。
YUMA。
その名前だけが、別枠で表示されていた。
【長期継続プレイヤー】
【総合戦闘経験:極高】
【戦闘方式:高適応型】
【PVP:高】
【世界Boss:極高】
【高難度任務:極高】
【協調戦闘:極高】
研究員が画面を見た。
「やっぱり、このプレイヤーのデータは特殊ですね」
「特殊というより、量が多い」
「それだけですか?」
「それだけだ」
責任者は淡々と言った。
「長く遊んでいる。たくさん戦っている。いろいろな種類の戦闘を経験している。それだけだ」
「……なるほど」
画面の中で、悠真のデータが他のデータと統合されていく。
一人分。
二人分。
十人分。
百人分。
数千人分。
数十万人分。
それぞれの失敗。
それぞれの成功。
それぞれの判断。
それぞれの戦い方。
すべてが記録されている。
そして、その上に新しい処理が追加された。
【統合戦闘モデル】
【学習開始】
研究員は画面を確認した。
「これで、かなり精度が上がりますね」
「そうだな」
「将来的には?」
責任者は少し考えた。
「将来的には、プレイヤーがどんな行動をするか、かなりの精度で予測できるようになるだろう」
それは、ただのゲーム分析の話だった。
少なくとも、その時点では。
誰も、そのデータがいつかゲーム世界そのものを守るための安全装置に使われるとは考えていなかった。
そして悠真は。
そのことを何も知らずに、次の任務を選んでいた。




