第十四章 強くなるということ
それから、しばらくの間。
悠真は以前と変わらない毎日を過ごしていた。
学校へ行く。
授業を受ける。
友達と話す。
家に帰る。
宿題をする。
夕食を食べる。
そして、《クロスギア》を起動する。
ただ、一つだけ変わったことがある。
悠真は、以前よりもいろいろな任務を選ぶようになった。
簡単な任務だけではない。
高難度任務にも挑戦する。
世界Bossにも参加する。
PVPもする。
ゲーム内の街を歩くこともある。
時には、新しいプレイヤーの手伝いもした。
どれも強くなるためだけではなかった。
やってみると、それぞれ違う面白さがあった。
ある日の夜。
悠真はランキングを開いた。
【総合プレイヤーランキング】
1 YUMA
2 KAI
3 RION
4 TAIGA
5 ZERO
次に排位ランキングを見る。
1 YUMA
2 KAI
3 RION
世界Boss貢献ランキング。
1 YUMA
高難度任務達成率。
1 YUMA
悠真は少しだけ画面を見つめた。
「……また一位だ」
嬉しくないわけではない。
むしろ嬉しい。
でも、以前ほど一位そのものに興奮しなくなっていた。
それより気になったのは、その下だった。
ランキングの十位。
二十位。
三十位。
以前知っていた名前が、どんどん減っている。
その代わり、知らない名前が増えていた。
新しいプレイヤーも入ってきている。
ゲームそのものが消えたわけではない。
ただ、古い人が去り、新しい人が入ってくる。
悠真はそのことを当たり前のように受け入れていた。
その翌日。
学校から帰った悠真は、少し遅れてログインした。
母親に頼まれて、買い物に行っていたからだ。
「ただいま」
「おかえり。手伝ってくれてありがとう」
「うん」
「今日はゲーム、遅いね」
「買い物してたから」
「そういう日もあるね」
悠真は部屋に戻る。
ログインする。
オンライン人数。
421,806
数字を見て、少し驚いた。
「四十二万人……」
前より減った。
けれど、昨日と比べれば大きな変化ではない。
悠真はそのままゲームを始めた。
その日は高難度任務を一つ。
普通任務を二つ。
その後、世界Bossの予告が出た。
【緊急世界イベント】
【ワールドボス出現まで 05:00】
悠真は参加を決めた。
戦場へ転送される。
今回のBossは大型だった。
これまで何度も戦ってきたタイプ。
しかし、今回のBossには新しい行動パターンが追加されていた。
最初の攻撃を避ける。
次の攻撃。
また避ける。
突然、Bossの動きが変わった。
「え?」
近くにいたプレイヤーが吹き飛ばされる。
悠真は距離を取った。
Bossが追ってくる。
以前のパターンなら、ここで大技が来る。
悠真はそう考えた。
だが。
来なかった。
「……違う」
悠真は動きを見る。
Bossは悠真ではなく、別のプレイヤーを狙った。
悠真はすぐに方向を変える。
攻撃する。
Bossの注意がこちらへ移る。
その隙に、別のプレイヤーが攻撃する。
「今!」
連続攻撃。
Bossの装甲が破壊される。
戦場全体の動きが一瞬だけ変わった。
悠真は気づいた。
今回のBossは、プレイヤーの動きを見ている。
以前より賢い。
それでも、完全に予測できるわけではない。
戦闘は長引いた。
一時間。
二時間。
参加者も少しずつ倒れていく。
それでも戦いは続いた。
最後。
BossのHPが残り数パーセントになった。
悠真が攻撃しようとした。
だが、別のプレイヤーが先に入った。
その攻撃が決まる。
【ワールドボス討伐成功】
【参加人数:31,406】
悠真は画面を見た。
以前なら十万人以上いた。
今は三万人。
それでも、三万人もいる。
そう思った。
そして、MVPが表示された。
【MVP:YUMA】
悠真は少し笑った。
「またか」
その直後。
別のプレイヤーからメッセージが届いた。
『YUMA、さっきの判断すごかった』
『ありがとう』
『どうやってBossの動き分かった?』
『分かったっていうか……』
悠真は少し考えた。
『前と違ったから』
『それだけ?』
『うん』
相手から返事が来た。
『それができないんだよな』
悠真はその言葉を見て、少し考えた。
自分にとっては当たり前だった。
敵が変わったら、自分も変える。
それだけ。
でも、それを毎回やるには。
何度も戦わなければならない。
何度も失敗しなければならない。
そして、失敗したことを覚えていなければならない。
悠真はそのことを、まだ「才能」とは考えていなかった。
ただゲームを長く遊んできた結果だと思っていた。
ロビーへ戻る。
ランキングが更新される。
【世界Boss貢献ランキング】
1 YUMA
その表示を見て、悠真は少しだけ首を傾げた。
「……強くなったな」
独り言だった。
誰に言うわけでもない。
ゲームを始めた頃。
悠真は敵を倒すだけで精一杯だった。
負ければ悔しかった。
勝てば嬉しかった。
今も基本は変わらない。
ただ。
できなかったことが、少しずつできるようになっている。
それが面白かった。
その夜。
運営会社では、世界Bossの戦闘データが保存されていた。
【戦闘データ受信完了】
【プレイヤー総数:31,406】
【高難度戦闘データ抽出中】
【YUMA:MVP】
【協調行動データ:高精度】
【戦況判断データ:高精度】
研究員が画面を見る。
「またYUMAですね」
「そうだな」
「最近、ほとんど全部の高難度戦闘にいます」
「ログイン率も高い」
「世界Bossもほぼ毎回参加しています」
「PVPも上位」
「普通任務のデータも多い」
研究員は笑った。
「本当にゲームが好きなんでしょうね」
「そうだろうな」
責任者は画面を見ながら言った。
「だからデータが集まる」
研究員はうなずいた。
画面には、悠真の戦闘履歴が延々と表示されている。
普通任務。
高難度任務。
PVP。
世界Boss。
そして、ゲーム内キャラクターとの共同戦闘。
それぞれは別々の記録だった。
しかし、それらが少しずつ一つの巨大なデータへ変わり始めていた。
まだ、それが何になるのか。
誰も知らなかった。
悠真も知らなかった。
ただ一つだけ。
確かなことがあった。
悠真は、以前よりずっと強くなっていた。
そしてその強さは、一日で手に入れたものではなかった。




