第十三章 それぞれの遊び方
週末。
悠真は朝から《クロスギア》を起動した。
母親は台所で朝食を作っている。
「悠真、今日は何時までやるの?」
「分からない」
「分からないって何?」
「イベントがあるかもしれないから」
「じゃあ、お昼になったら一回休憩ね」
「うん」
悠真はメインロビーに入った。
オンライン人数は、
487,315
五十万人を切っていた。
悠真は数字を見たあと、すぐに任務一覧を開いた。
最近は、人数が減っていることを気にしすぎないようにしていた。
ゲームを始めた頃は、プレイヤーの多さそのものが楽しかった。
知らない人がたくさんいて。
ロビーでは毎日違う会話が流れていた。
誰かが新しい装備を見せれば、人が集まった。
強いプレイヤーが新記録を出せば、すぐに話題になった。
今も人はいる。
ただ、以前とは少し違う。
ロビーの中央に立っていても、知っている名前が増えた。
そして、知らない名前よりも、最近見なくなった名前のほうが気になるようになっていた。
「今日、何しようかな」
悠真は任務一覧を眺める。
そのとき、チャット欄に一つのメッセージが流れた。
『誰か、低レベル任務手伝ってくれませんか?』
新しいプレイヤーらしい。
悠真は返信した。
『どの任務?』
『砂漠の遺跡です』
『じゃあ行こうか』
『え?』
『今から行けるよ』
『YUMAさん?』
『うん』
数秒後。
『お願いします!』
二人は任務へ入った。
砂漠の遺跡。
悠真にとっては、何度も通った場所だった。
敵も弱い。
地形も覚えている。
だから、最初は簡単に終わらせるつもりだった。
しかし、新しいプレイヤーは敵の攻撃を避けられず、何度も倒されそうになった。
「右」
「え?」
「今、右に避けて」
「はい!」
敵の攻撃。
新人プレイヤーが右へ動く。
攻撃が空を切る。
「今」
悠真が攻撃する。
敵が倒れる。
「すごい……」
「慣れれば大丈夫」
「YUMAさん、いつもこんな感じで戦ってるんですか?」
「まあ、そうかな」
「僕も強くなれますか?」
悠真は少し考えた。
「なると思うよ」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「僕も最初から強かったわけじゃないから」
新人プレイヤーは少し黙った。
「じゃあ、何をすればいいですか?」
「いっぱい遊べばいいんじゃない?」
「それだけ?」
「うん」
悠真は笑った。
「負けたら、何が駄目だったか考えて。もう一回やって。それを繰り返してたら、少しずつ強くなるよ」
「分かりました」
任務を終える。
新人プレイヤーの評価は、以前より高くなっていた。
『ありがとうございました!』
『またね』
二人は別れた。
悠真はロビーへ戻った。
その直後、別のメッセージが届いた。
『YUMA、今日PVPやらない?』
KAIだった。
『いいよ』
『じゃあ後で』
『うん』
悠真はそのまま別の任務を始めた。
しばらくすると、ロビーに戻る。
KAIと対戦する。
今度は悠真が負けた。
【KAI WIN】
「負けた……」
悠真は思わず笑った。
KAIからメッセージが来る。
『昨日の借りは返した』
『強いな』
『お前もな』
その後、二人は排位ではなく、普通の切磋を何度か繰り返した。
一回目。
悠真の勝ち。
二回目。
KAIの勝ち。
三回目。
悠真の勝ち。
四回目。
KAIの勝ち。
勝ったり負けたりだった。
ランキングには何も影響しない。
それでも二人とも楽しんでいた。
やがてKAIが言った。
『最近、こういうのが一番楽しいかもな』
『どういうの?』
『勝たなきゃいけないわけじゃないやつ』
悠真は少し考えた。
『分かる』
『前はランキングばっかり気にしてた』
『うん』
『一位になっても、誰もいなくなったら意味ないしな』
悠真は返事をしなかった。
KAIも、それ以上は言わなかった。
しばらくしてログアウトする。
ロビーに一人残った悠真は、周囲を見渡した。
プレイヤーたちはそれぞれ違うことをしていた。
装備を売る人。
新しい任務を探す人。
チャットをする人。
ランキングを見る人。
初心者に説明する人。
ただ立っている人。
そして、ログアウトする人。
ゲームを強くなるためだけに遊んでいる人ばかりではなかった。
それぞれに遊び方がある。
悠真は、そのことに気づき始めていた。
昼になった。
「悠真、ご飯!」
「今行く!」
ログアウトする。
部屋を出る。
母親と一緒に昼食を食べる。
「今日は何してたの?」
「ゲーム」
「それは分かってる」
「いろいろ」
「楽しかった?」
「うん」
母親はそれ以上聞かなかった。
午後。
悠真はまたゲームに戻った。
その頃、運営会社では、プレイヤーの行動データが分類されていた。
【高難度任務型】
【PVP型】
【世界Boss型】
【探索型】
【交流型】
【収集型】
【低頻度ログイン型】
【長期離脱型】
一人の研究員が画面を見ながら言った。
「プレイヤーによって、本当に遊び方が違いますね」
「当然でしょう」
「でも、面白いです」
「何が?」
「ゲームを強くすることだけを目的にしている人は、思ったより多くありません」
責任者は画面を見る。
その中には悠真のデータもあった。
【総合適応率:非常に高い】
【戦闘経験:極めて高い】
【ゲーム内キャラクターとの協調率:高】
【継続プレイ期間:上位】
【活動範囲:非常に広い】
研究員が言った。
「この子は、ほとんど全部やっていますね」
「だから強い」
「そうですね」
責任者は画面を閉じた。
「ただし、まだ一人のプレイヤーに過ぎない」
その言葉に、研究員はうなずいた。
まだ誰も知らなかった。
その「一人のプレイヤー」のデータが、やがてゲーム全体の安全システムを構築するための重要な基礎になっていくことを。
そして悠真自身も知らなかった。
自分が強くなっている理由が、単純な戦闘能力だけではないことを。
彼はただ。
いろいろな遊び方を試して。
失敗して。
勝ったり負けたりして。
ゲームの中にいる人たちと話して。
今日も楽しんでいただけだった。




