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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第十二章 挑戦する理由

翌週。


 悠真は、いつものように学校から帰ってきた。


 玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえり。手、洗ってね」


「うん」


 母親の声が台所から返ってくる。


 悠真は手を洗い、ランドセルを置いた。


 今日は学校で体育があった。


 少し疲れている。


 だから、すぐにゲームをする気にはならなかった。


 冷蔵庫から麦茶を出して、一杯飲む。


 そのままソファに座った。


「疲れた?」


 母親が聞く。


「ちょっと」


「じゃあ、今日はゲーム休んだら?」


「……それは嫌」


「なんで?」


「今日は新しい任務があるから」


 母親は笑った。


「それなら仕方ないね」


 夕食まで少し時間がある。


 悠真は自分の部屋へ戻った。


 パソコンを起動する。


 《クロスギア》にログイン。


 メインロビーが表示された。


 オンラインプレイヤー数。


 531,902


 また減っている。


 悠真は数字を一秒ほど見たあと、視線を外した。


 最近は、その数字を見ることが多くなった。


 以前なら、何百万人いるかなんて気にもしなかった。


 今は違う。


 誰かがログアウトするたびに、その数字が減っていく。


 ただ、それでも悠真はゲームを続けていた。


 今日の目的は一つだった。


 ランキングチャレンジ。


 対戦相手を探す。


 現在の排位ランキング。


 悠真は一位。


 だが、二位のプレイヤーがオンラインになっていた。


 名前は――KAI。


 昔からランキング上位にいたプレイヤーだ。


 悠真は対戦申請を送った。


【ランキングチャレンジを申請しますか?】


【対戦相手:KAI】


【承認待ち】


 数秒。


 十秒。


 そして。


【対戦申請が承認されました】


 画面が切り替わる。


 対戦フィールド。


 観客席には、今回の対戦を見に来たプレイヤーたちが表示されている。


 昔より少ない。


 それでも数千人はいた。


 KAIが現れる。


「久しぶりだな、YUMA」


「久しぶり」


「最近、ずっと一位だな」


「うん」


「今日は落としてもらう」


 悠真は笑った。


「頑張る」


 カウントダウン。


 三。


 二。


 一。


 戦闘開始。


 KAIは速かった。


 最初から距離を詰める。


 悠真は防御する。


 攻撃。


 回避。


 反撃。


 KAIはすぐに距離を取った。


「やっぱり強いな」


 悠真は相手を見る。


 KAIは以前にも何度か戦ったことがある。


 けれど、今日は違う。


 攻撃のタイミングが微妙に変わっている。


 悠真が前に出る。


 KAIが後退する。


 追う。


 突然、反転。


 攻撃。


 悠真はギリギリで避けた。


「……そう来るか」


 KAIが笑う。


「前にやっただろ?」


「覚えてる」


「じゃあ、次はどうする?」


 悠真は答えなかった。


 考える。


 過去の戦いを思い出す。


 KAIは、追い込まれると右へ逃げることが多い。


 以前はそうだった。


 でも今日は違う。


 右へ逃げると見せて、左へ動いた。


 悠真の攻撃が空を切る。


 その瞬間。


 KAIの攻撃が入った。


【HP:71%】


「……やられた」


「今のは読めなかっただろ?」


「うん」


 悠真は笑った。


 負けるのが嫌というより、面白かった。


 相手が変わる。


 だから自分も変わる。


 それがPVPの面白さだった。


 戦闘は続いた。


 互いに何度も攻撃を繰り返す。


 残りHP。


 悠真、32%。


 KAI、28%。


 あと一度、大きな攻撃を受ければ終わる。


 KAIが動く。


 悠真は待った。


 攻撃。


 回避。


 反撃。


 KAIの機体が大きく後退した。


 悠真は追わなかった。


「……?」


 KAIが一瞬止まる。


 普通なら追撃する。


 けれど悠真は待った。


 KAIが先に動いた。


 その瞬間。


 悠真が踏み込む。


 攻撃が命中した。


【勝利】


 画面中央に文字が表示された。


【YUMA WIN】


 観客席からチャットが流れる。


『すげえ』


『今の待ち、何?』


『KAIが完全に誘ってたのに』


 KAIからメッセージが届いた。


『最後、なんで追わなかった?』


『分からない』


『え?』


『なんとなく』


 KAIはしばらく返事をしなかった。


 やがて、


『それが一番怖いんだよな』


 と送ってきた。


 悠真は意味がよく分からなかった。


 対戦が終わる。


【ランキング更新】


【1 YUMA】


【2 KAI】


 悠真はロビーに戻った。


 チャット欄には、まださっきの試合の話が流れている。


 悠真はそのまま次の任務を探した。


 ランキングチャレンジ。


 高難度任務。


 世界Boss。


 普通の任務。


 どれもゲームの中では別々のものだった。


 けれど、悠真自身にとっては、全部つながっている。


 敵を知る。


 自分を知る。


 失敗する。


 考える。


 もう一度やる。


 それだけだった。


 その夜。


 運営会社では、先ほどのKAIとの対戦データが分析されていた。


「YUMAの行動、予測モデルと一致しません」


「どの程度?」


「最後の三十秒です」


 画面には、悠真とKAIの動きが重ねて表示されている。


「追撃する確率は?」


「過去のYUMAのデータなら、八十七%です」


「実際は?」


「追いませんでした」


「理由は?」


「分かりません」


 研究員は首を傾げた。


「本人にも分からないと思います」


 責任者は黙って画面を見る。


 そして、データを保存した。


【予測モデル更新】


【例外行動として記録】


 その表示が消える。


 まだ小さな誤差だった。


 ゲームの中では、誰も気にしない程度の誤差。


 けれど。


 その小さな誤差は、これから積み重なっていく。


 悠真がこれから何度も戦い。


 何度も失敗し。


 何度も予想を外し。


 そのたびに新しい選択をするたびに。


 システムは、それを記録していく。


 そしていつか。


 過去のすべてを集めたシステムが、未来を予測しようとしたとき。


 その中には、必ず一つの問題が残ることになる。


 ――人間は、いつも同じ選択をするわけではない。


 そのことを。


 この時点では、まだ誰も知らなかった。

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