第百四十八章 予定が変わった午後
金曜日。
悠真は学校から帰ると、宿題を済ませて《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:199,632】
ロビーには、週末を前にした任務の募集が増えていた。
悠真は掲示板を開き、いくつかの募集を確認した。
その中に、KAIからのメッセージがあった。
『今日、時間あるか?』
『あるよ』
『北部輸送路で新しい護衛任務が出てる。一緒に行かないか』
悠真は募集内容を開いた。
輸送車を目的地まで護衛する任務だった。
途中の道路には複数の分岐があり、敵の出現位置によって通過するルートを変更する可能性がある。
主目標は輸送車の到着。
追加目標は、途中にある二つの物資集積所を守ること。
『いいよ。行こう』
二人は集合地点で合流した。
KAIは近距離戦用の装備を使っていた。
悠真はいつもの安定型の武器に、移動補助部品を組み合わせている。
「今日は移動が多そうだから、これで行くよ」
『前に交換した部品か』
「うん。まだ使い慣れていないけど」
『なら、ちょうどいいな』
任務を開始すると、輸送車がゆっくりと動き始めた。
最初の区間は平穏だった。
道路の両側に岩場が広がり、前方には三つの分岐が見える。
悠真は地図を確認した。
通常のルートは中央の道。
左側は狭い坂道で、右側は距離が長いものの、比較的広い道だった。
輸送車が中央の分岐に近づいた時、警告が表示された。
【前方道路:通行障害】
【中央ルートの安全確認が必要です】
「止まったね」
『左か右か』
KAIが地図を拡大した。
左の坂道は短いが、車両が通れるかどうか分からない。
右の道は遠回りになるが、幅は十分にある。
悠真は周囲を見た。
中央の道には、崩れた岩が積み重なっていた。
小型車両なら通れるかもしれないが、輸送車が通るには危険がある。
「右へ回ったほうがいいと思う」
『時間はかかるぞ』
「うん。でも、左の坂道が通れるか確認している間に、もっと時間がかかるかもしれない」
KAIは短く返事をした。
『分かった。右へ誘導しよう』
二人は輸送車の進路を変更した。
遠回りの道へ入ると、前方に小型の機械獣が二体現れた。
KAIが一体を引きつけ、悠真はもう一体の進路を遮った。
敵は輸送車へ向かおうとしたが、二人の攻撃を受けて足を止めた。
悠真はエネルギー残量を確認しながら、無理に連続攻撃をしないようにした。
移動補助部品を使って距離を取り、敵が向きを変えたところで攻撃する。
以前なら、早く倒そうとしてエネルギーを使い切っていたかもしれない。
今回は、輸送車が進む時間も考える必要があった。
数分後、二体の機械獣は停止した。
『こっちは終わった』
KAIが報告した。
「こっちも。輸送車は?」
『まだ進んでる。損傷なしだ』
二人は輸送車の後方へ戻った。
最初の物資集積所に到着すると、そこではNPC作業員が資材を積み直していた。
作業員によれば、運搬車両の到着が遅れているため、一部の荷物を別の場所へ移す必要があるという。
悠真は集積所の周囲を確認した。
敵の姿はない。
資材にも損傷は見当たらなかった。
しかし、輸送車が再び動き始めた直後、別の通知が入った。
【第二物資集積所:敵接近】
【現地設備への被害が予測されます】
KAIが地図を開いた。
『ここからだと、第二集積所へ向かうには輸送車から離れる必要がある』
「うん。主目標を優先するなら、このまま進んだほうがいい」
『追加目標を捨てるか?』
悠真は輸送車を見た。
ここで進路を変えれば、第二集積所を守れる可能性がある。
ただし、輸送車の護衛が手薄になる。
二人だけでは、両方を確実に守ることはできなかった。
その時、任務の通信欄に別のプレイヤーから連絡が入った。
『第二集積所の近くにいる。敵は三体。今から対応する』
どうやら、別の護衛班が近くの道路を通っていたらしい。
続けて、現地の状況が更新された。
【第二物資集積所:防衛中】
【輸送車:移動継続可能】
KAIが通信欄を閉じた。
『向こうが対応してくれるなら、俺たちは輸送車を守ろう』
「そうだね」
二人は輸送車の護衛を続けた。
残りの区間では敵が現れなかった。
輸送車は予定より遅れたものの、無事に目的地へ到着した。
【主目標:輸送車の護衛成功】
【追加目標:第一物資集積所の防衛成功】
【追加目標:第二物資集積所の防衛成功】
【評価:A】
任務結果を確認したあと、悠真は詳細記録を開いた。
第二物資集積所を守ったのは、途中で連絡してきた別の護衛班だった。
その班は敵三体を撃破し、設備への損傷を防いでいた。
自分たちが直接対応しなくても、任務の中では別のプレイヤーが動いている。
悠真はその記録を保存した。
『結果的には全部守れたな』
KAIが言った。
「うん。でも、最初から僕たちだけで全部守ろうとしていたら、輸送車の護衛が危なかったかもしれない」
『そうだな。どこを優先するか、決める必要はある』
悠真は頷いた。
任務の開始時に立てた予定は、途中で変わった。
中央の道が通れず、右へ迂回した。
第二集積所に敵が現れた時も、自分たちだけで向かうのではなく、現地にいた別の班が対応した。
最初の予定どおりに動くことより、実際に起きたことを確認するほうが大切な場面もある。
二人はロビーへ戻った。
KAIは次の任務を探し始めたが、悠真は時計を確認した。
「今日はここまでにするよ」
『もう終わりか?』
「うん。母さんに買い物を頼まれてるんだ」
『じゃあ、また明日』
「またね」
悠真はログアウトした。
部屋を出ると、母親が買い物袋を用意していた。
「お願いしていたもの、覚えてる?」
「牛乳と卵と、あと洗剤だよね」
「そう。ついでに、明日の朝食用のパンもお願い」
「分かった」
悠真は財布を持ち、近くの店へ向かった。
夕方の道には、学校帰りの子供や仕事を終えた人たちが歩いていた。
信号が変わり、車が進む。
店に入ると、牛乳の棚の前に人が並んでいた。
悠真は少し待ち、必要なものをかごに入れた。
帰宅すると、母親が買ってきたものを確認した。
「ありがとう。全部そろってるね」
「うん」
悠真は荷物を片づけ、手を洗った。
今日のゲームでは、予定が何度か変わった。
けれど、現実の生活でも同じことはある。
ゲームを続けたい日もあれば、買い物を頼まれる日もある。
どちらか一方だけを考えていればいいわけではない。
夕飯のあと、悠真は明日の学校の準備をした。
週末には、また《クロスギア》で遊べる。
そう思いながら、机の上のプリントを鞄にしまった。




