第百四十六章 戻ってきたプレイヤー
水曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーの片隅で見覚えのある名前を見つけた。
SORA。
以前、NAGIと一緒に資源回収任務をしたプレイヤーだった。
SORAは掲示板の前に立ち、何かを確認している。
悠真が声をかけようとした時、向こうからメッセージが届いた。
『YUMA?』
『うん。久しぶり』
『この前はありがとう』
『こちらこそ』
短いやり取りのあと、SORAから誘いが来た。
『今、時間ある? 三人で任務に行こうと思ってるんだけど』
悠真は時計を確認した。
まだ夕飯までには余裕がある。
『大丈夫だよ』
『NAGIも来る予定。あと一人、掲示板で知り合った人がいる』
悠真は参加を承諾した。
集合場所に移動すると、SORAとNAGIが待っていた。
もう一人は、見知らぬプレイヤーだった。
名前はREI。
装備は標準的な近距離型で、特別に強化された部品は見当たらない。
『初めまして』
REIが挨拶した。
『初めまして』
悠真も返した。
SORAが地図を表示する。
『北部資源運搬路の護衛任務。運搬車を目的地まで送り届ける。追加目標は、途中の補助倉庫を守ること』
悠真は任務の詳細を確認した。
運搬車の移動速度は遅い。
途中には機械獣の出現地点が三か所ある。
補助倉庫は運搬路から少し離れており、敵がそちらへ向かえば対応に時間がかかる。
「最初から全員で運搬車の前にいる必要はないと思う」
悠真が言った。
『どう分ける?』
SORAが尋ねた。
「二人が運搬車の前方を確認して、残り二人が後方と補助倉庫への道を見たらどうかな。敵が出たら、その位置に合わせて動く」
NAGIが地図を見ながら答えた。
『俺は運搬車の前方に行く。SORA、一緒に来る?』
『いいよ』
悠真はREIと組むことになった。
四人は役割を確認し、任務を開始した。
最初の区間では、敵は現れなかった。
運搬車は一定の速度で進み、前方の道にも大きな障害物はない。
悠真は地図を確認しながら、REIと並んで後方を進んだ。
『こういう任務、慣れてる?』
REIが尋ねた。
「何度かやったことがあるよ。でも、この道は初めて」
『俺も初めてだ。普段は対戦ばかりやってる』
「そうなんだ」
『任務だと、敵を倒す以外にも見ることが多いな』
悠真は頷いた。
敵の数だけでなく、運搬車との距離、周辺設備、味方の位置も確認しなければならない。
対戦とは違う難しさがあった。
その時、前方からSORAの連絡が入った。
『機械獣を二体確認。運搬車の正面にいる』
悠真は地図を開いた。
二体は運搬車へ向かって移動している。
『こっちは後方に敵なし』
REIが報告した。
『分かった。じゃあ、補助倉庫への道を確認しておこう』
二人は運搬路から少し離れ、倉庫へ続く道を進んだ。
その途中、岩場の陰に小型の機械獣が一体いた。
機械獣は二人に気づくと、すぐに向きを変えた。
悠真は敵の進路を確認した。
このまま戦えば、運搬路からさらに離れることになる。
「ここで倒そう。倉庫の方向へ逃がしたくない」
『了解』
悠真が敵の正面を引き受け、REIが側面から攻撃した。
敵は一度後退したが、再び悠真へ向かってきた。
悠真は距離を保ちながら攻撃を続け、REIが最後の一撃を加えた。
機械獣は停止した。
『助かった。思ったより動きが速いな』
「うん。でも、これで倉庫への道は確認できた」
二人は周辺を調べた。
補助倉庫の外壁に損傷はなく、出入口も正常だった。
悠真は確認結果を報告した。
少しして、SORAから連絡が届いた。
『前方の二体は排除した。運搬車はそのまま進める』
NAGIも続けた。
『進路に問題なし。次の区間へ移動する』
四人は再び合流した。
残りの道では敵が一体現れたが、運搬車へ近づく前に対処できた。
最後まで運搬車に損傷はなかった。
【任務完了】
【運搬車:無傷】
【補助倉庫:防衛成功】
【評価:A】
任務結果が表示されると、SORAが言った。
『全員ありがとう。初めて組んだ人もいたけど、うまくいったな』
『倉庫のほうに敵が出たのは予想外だった』
NAGIが答えた。
『でも、最初に分かれて確認していたから対応できた』
REIは自分の装備画面を開いていた。
『俺、任務だとエネルギーの減り方が気になるな。対戦の時と感覚が違う』
悠真はREIの装備を見た。
「近距離型だと、敵を追いかける時間が長いと消費も増えるかもしれないね」
『そうなんだよ。攻撃してる時間より、移動してる時間のほうが長い時もある』
SORAが笑った。
『それなら、次は移動の少ない任務を選んでみるか?』
『いや、別の装備も試したい』
REIはそう返した。
四人は少しの間、装備と任務について話した。
その後、NAGIは別の任務へ向かい、REIもログアウトすると言った。
SORAは掲示板に任務結果を投稿してから、悠真にメッセージを送った。
『また時間が合ったら誘うよ』
『うん。またね』
悠真はロビーに戻った。
いつものようにKAIと遊ぶこともできたが、今日はすでに十分遊んだ気がした。
ログアウトする前に、掲示板の新着投稿を確認する。
さきほどの護衛任務について、SORAが簡単な記録を残していた。
敵の出現位置。
各自の担当区域。
運搬車の損傷の有無。
特別な攻略法が書かれているわけではない。
ただ、次に同じ任務を受ける人が、参考にできる程度の情報だった。
悠真はその投稿を読み、ゲームを終了した。
現実の部屋では、母親が洗濯物を畳んでいた。
「今日はもう終わり?」
「うん。今日は知らない人たちと任務をしてきた」
「楽しかった?」
「うん。初めて一緒に遊ぶ人だったけど、普通にできたよ」
「よかったわね」
母親は畳んだ服を重ねた。
「いつも一緒の人と遊ぶのもいいけど、違う人と遊ぶと、また違うことが分かるのね」
「そうだね。人によって得意なことも違うし、考え方も違うから」
悠真は机の上に置いていた学校のプリントを手に取った。
明日は小テストがある。
ゲームの中では、知らないプレイヤーと協力することができた。
けれど、学校には学校の予定がある。
悠真はプリントを開き、間違えた問題をもう一度解き始めた。
その頃、《クロスギア》の中央市街では、SORAが投稿した護衛任務の記録に、別のプレイヤーから短い返信がついていた。
『この任務、まだ受けたことがない。情報ありがとう』
SORAはそれに返事をした。
『どういたしまして。敵の出現位置は毎回同じとは限らないから、そこだけ注意して』
それ以上のやり取りは続かなかった。
掲示板には、次の募集が流れてくる。
誰かが新しい任務を探し、誰かが装備を交換し、誰かがログアウトする。
昨日まで知らなかった相手と一緒に遊び、また別々の場所へ戻っていく。
それも、《クロスギア》で過ごす時間の一つだった。




