第百四十五章 予定にない参加者
火曜日。
悠真は学校から帰ると、先に宿題を済ませた。
夕飯までには、まだ時間がある。
《クロスギア》にログインすると、ロビーには二十万人ほどのプレイヤーが集まっていた。
【オンラインプレイヤー:203,581】
悠真は中央市街の掲示板を開いた。
任務の募集欄に、新しい投稿が増えている。
『東部岩山・設備防衛共同任務』
募集人数は最大八人。
主目標は山頂設備の防衛。
追加目標は、輸送路の確保と補助設備の維持。
制限時間は三十分。
悠真は詳細を確認した。
開始時点では敵の位置が分からず、周辺の設備を調べながら防衛位置を決める形式らしい。
投稿者は、参加者が集まり次第出発すると書いていた。
悠真が参加を選択すると、画面に現在の人数が表示された。
【参加者:5/8】
数秒後。
【参加者:6/8】
さらに一人増えた。
【参加者:7/8】
八人には届かなかったが、募集は締め切られた。
参加者一覧を確認する。
見覚えのある名前はなかった。
悠真は少しだけ考えた。
以前にも知らないプレイヤーと任務をしたことはある。
全員が同じ考えで動くとは限らない。
それでも、始める前に確認できることはある。
集合地点に転送されると、募集主のプレイヤーが全員に声をかけた。
『集まってくれてありがとう。まずは周辺設備を確認しよう。敵の位置が分からないので、最初から全員で山頂に固まるのは避けたい』
一人が返事をした。
『輸送路は誰が見る?』
『南側の道なら、二人で確認できると思う』
別のプレイヤーが地図を開いた。
『補助設備は山頂から少し離れてる。敵がそっちに向かったら、戻る時間が必要だな』
悠真は地図を見た。
山頂設備。
南側の輸送路。
東側の補助設備。
それぞれが離れている。
「最初は分かれて確認したほうがいいと思います」
悠真は発言した。
「山頂に三人、輸送路に二人、補助設備に二人。残りの一人は中央で状況を見て、必要なところへ動くのはどうでしょう」
募集主が少し考えた。
『分かった。俺が中央で状況を確認する。各班は敵を見つけても、無理に追わずに報告してくれ』
役割が決まった。
悠真は補助設備の班に入った。
もう一人のプレイヤーは、名前をMIOといった。
『よろしく』
『よろしくお願いします』
二人は補助設備へ向かった。
道中、MIOが周辺を確認しながら話しかけてきた。
『こういう任務、よくやる?』
『時々。前に似たような防衛任務をやったことがあるよ』
『俺はあまりないんだ。募集を見て、試しに参加してみた』
『そっか』
補助設備に到着すると、装置は正常に動いていた。
周辺にも敵はいない。
悠真は設備の状態を確認し、地図に位置を記録した。
その直後、中央から連絡が入った。
『南側の輸送路で敵を確認。数は四。まだ設備には接近していない』
山頂班からも報告があった。
『こちらは異常なし。北側の斜面を確認している』
悠真は補助設備の周囲を見た。
今のところ、こちらへ敵が来る気配はない。
『補助設備は正常です。しばらく二人で維持します』
そう報告した直後だった。
MIOが山側を指した。
『あれ、動いてないか?』
岩場の向こうに、機械獣が一体見えた。
輸送路にいた敵とは別の個体らしい。
機械獣は二人に気づくと、こちらへ向かってきた。
「迎撃しよう」
『了解』
悠真は正面から攻撃せず、設備から離れる方向へ移動した。
機械獣の進路が変わる。
MIOが側面から攻撃し、悠真は敵の注意を引きつけた。
数回の攻防のあと、機械獣は動きを止めた。
設備に損傷はない。
悠真が状況を報告すると、中央から返事が来た。
『了解。南側はまだ交戦中だ。山頂班の一人をそちらへ回す』
募集主は、敵の数と各班の位置を見ながら配置を変えていた。
やがて、南側の輸送路で戦っていた敵の一部が、山頂方向へ移動を始めた。
山頂班から連絡が入る。
『敵がこちらに向かっている。二体確認』
中央の募集主は、すぐに指示を出した。
『補助設備班は、その場を維持。輸送路班は残った敵を処理したら、山頂への道を確認してくれ。山頂班は設備から離れすぎないこと』
悠真は周囲を確認した。
ここを離れれば、補助設備を守る人がいなくなる。
かといって、山頂の状況も気になる。
MIOが言った。
『俺たちはここを守るんだな』
『うん。今のところ、設備に異常はないから』
悠真は地図を開いた。
山頂班が敵を引きつけている間、輸送路班が移動できれば、山頂への負担を減らせる。
自分たちが移動しなくても、別の班が動ける余地はあった。
数分後。
『南側、敵を排除。山頂へ向かう』
輸送路班から報告が入った。
続いて、山頂班からも連絡があった。
『敵二体を撃破。設備は無事』
戦況は落ち着き始めていた。
最後まで補助設備に敵が来ることはなかった。
制限時間の終了とともに、任務結果が表示された。
【主目標:山頂設備の防衛成功】
【追加目標:輸送路の確保成功】
【追加目標:補助設備の維持成功】
【評価:A】
募集主が全員に礼を言った。
『ありがとう。最初の配置から途中で変えることになったけど、無事に終わってよかった』
MIOが返事をした。
『補助設備に敵が来なかったのは助かったな』
『そうだね。来ていたら、こっちも配置を変える必要があったと思う』
悠真は結果画面を閉じた。
誰か一人がすべてを見ていたわけではない。
それぞれの班が自分の場所を確認し、分かったことを報告していた。
中央にいた募集主は、その情報をもとに配置を変えた。
全員が同じ場所に集まらなくても、任務は進められた。
ただし、今回はうまくいっただけかもしれない。
敵の出現位置が違えば、別の配置が必要だっただろう。
悠真はロビーへ戻った。
掲示板には、さきほどの募集主が任務結果を投稿していた。
成功した目標。
各班の配置。
途中で変更した指示。
最後に、短い補足があった。
『敵の出現位置によって必要な配置は変わる。今回の分担が毎回使えるとは限らない』
悠真はその一文を読んだ。
昨日の装備検証でも、結果をそのまま全員に当てはめることはできなかった。
今日の任務も同じだった。
うまくいった手順は参考になる。
でも、それだけで次の状況まで決められるわけではない。
悠真は掲示板を閉じた。
もう一つ任務を受けることもできたが、時計を見ると、そろそろログアウトする時間だった。
彼はゲームを終了した。
夕飯の支度をしていた母親が、こちらを振り返った。
「今日は早かったね」
「うん。知らない人たちと防衛任務をやってきた」
「うまくいったの?」
「A評価だったよ。最初に担当を分けて、途中で敵の位置に合わせて配置を変えたんだ」
「悠真が指示を出したの?」
「最初の分担を提案しただけ。途中の変更は、募集した人が決めていたよ」
「そうなんだ」
母親は頷いた。
「一人で全部決める必要はないのね」
「うん。自分が見ていない場所のことは、ほかの人に聞かないと分からないから」
母親はテーブルに皿を並べた。
「それなら、ちゃんと聞けることも大事なのね」
「そうだね」
悠真は席についた。
今日の任務では、知らないプレイヤーばかりだった。
普段一緒に遊んでいるKAIやRIONはいなかった。
それでも、始める前に話し合い、途中で状況を伝え合えば、一緒に任務を進めることができた。
次も同じようにできるとは限らない。
けれど、今日の経験は残った。
悠真は夕飯を食べながら、明日の学校の予定を確認した。
ゲームの中にも、学校にも、まだ知らないことがある。
それを一度に全部知る必要はない。
必要になったときに確認し、分かったことを使っていけばいい。
悠真はそう考えながら、箸を動かした。




