第百四十二章 集まらなかった日
土曜日。
悠真は朝食を食べ終えると、自分の部屋で《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:247,306】
週末らしく、ロビーには多くのプレイヤーが集まっていた。
共同任務の募集が並び、装備の売買や対戦相手を探す会話も流れている。
悠真はKAIからのメッセージを確認した。
『今日、模擬戦闘をやる?』
『うん。何時から?』
『昼くらい。RIONも来るかもしれない』
『分かった』
悠真は返事を送り、装備の整備を始めた。
前回使った高出力型の構成は、そのまま残してある。
今日はそれをもう一度試すつもりだった。
ただ、すぐに模擬戦闘へ向かうことはしなかった。
ロビーの募集一覧を見ていると、街の中央広場で小さな交換会が開かれていることに気づいた。
【プレイヤー主催:部品交換会】
【場所:中央市街・広場】
【参加自由】
装備の強化に使う部品や、余った素材を交換するイベントらしい。
悠真は少し興味を持ち、広場へ移動した。
広場には、いくつもの簡易テーブルが並んでいた。
プレイヤーたちが持ち寄った部品を並べ、必要なものを探している。
『その脚部パーツ、交換できる?』
『できるけど、同じ種類の補助部品が欲しい』
『じゃあ、これはどう?』
特別な報酬があるわけではない。
それでも、普段の商店では見かけない部品を持っているプレイヤーもいた。
悠真は自分の所持品を確認した。
使う予定のない補助部品が二つある。
一つは古い型で、性能も現在の装備には合わない。
もう一つは、以前の任務で手に入れた予備の部品だった。
悠真は交換を希望しているプレイヤーに声をかけた。
「この部品、交換できますか?」
相手は部品の情報を確認した。
『これなら、ちょうど探してたやつだ。何が欲しい?』
「移動補助に使える部品があれば」
『それなら、こっちにある』
相手が提示したのは、移動時のエネルギー消費を少し抑える部品だった。
性能は突出していない。
けれど、悠真が普段使っている装備には合いそうだった。
双方が内容を確認し、交換が成立した。
【交換完了】
悠真は新しく手に入れた部品を装備画面で確認した。
これなら、今の構成を大きく変えずに試せる。
部品交換会では、その後も何人かのプレイヤーと短い会話を交わした。
あるプレイヤーは攻撃力を重視していた。
別のプレイヤーは、長時間の任務に向いた装備を探していた。
同じ部品でも、求める理由はそれぞれ違う。
悠真は広場を一周したあと、ロビーへ戻った。
KAIから連絡が届いていた。
『RIONは今日は来られないらしい』
『そうなんだ』
『俺は少しならできる。二人でやるか?』
悠真は時計を確認した。
まだ時間はある。
『うん。模擬戦闘に行こう』
二人は訓練場へ向かった。
最初の対戦では、悠真は新しく交換した移動補助部品を試した。
以前よりも、移動時のエネルギー消費が少し抑えられている。
その分、相手の攻撃を避けたあとに動き直す余裕が生まれた。
しかし、装備が変わったからといって、すべてがうまくいくわけではなかった。
悠真が距離を取りすぎたため、攻撃できる機会を逃した場面もあった。
反対に、KAIが接近してきた時には、移動補助を使って位置を変えることができた。
試合はKAIの勝利で終わった。
【模擬戦闘終了】
【結果:敗北】
『部品はどうだった?』
KAIが尋ねた。
『移動はしやすくなった。でも、距離を取りすぎた』
『じゃあ、次はそこを意識してみればいい』
『うん』
二回目の対戦では、悠真は相手との距離を保ちながらも、攻撃できる位置を意識した。
KAIの接近を避け、反撃する。
それでも、KAIは簡単には崩れなかった。
互いに何度か攻撃を交わし、最後は時間切れになった。
【模擬戦闘終了】
【結果:引き分け】
悠真は結果を見て、少し笑った。
前回は勝ち負けがはっきりした。
今回は、どちらも決定的な優位を作れなかった。
KAIから通信が届く。
『今のは悪くなかったな』
『うん。まだ距離の調整が難しいけど』
『それは相手によっても変わるからな』
悠真は頷いた。
もう一度対戦することもできたが、KAIはそこで切り上げることにした。
『今日はここまでにする。午後は用事があるんだ』
『分かった。また今度』
二人は別れた。
悠真はロビーへ戻り、RIONのオンライン状態を確認した。
オフラインだった。
少し前なら、三人で遊ぶ予定が変わると、何か別のことをしなければならないような気がしていた。
けれど、今日は二人で模擬戦闘をすることができた。
部品交換会にも参加した。
予定していたことが一つ変わっても、遊び方はいくつもある。
悠真は任務一覧を開いた。
新しい募集がいくつか追加されている。
その中に、少人数で参加できる森林探索任務があった。
ただ、時計を見ると、そろそろ昼食の時間だった。
悠真は新しい任務を受けず、ログアウトした。
現実の部屋を出ると、母親が昼食の準備をしていた。
「もう終わり?」
「うん。KAIと模擬戦闘をしてきた」
「昨日、話していたものね」
「RIONは来られなかったけど、二人でもできたよ」
「そう。それならよかったわね」
悠真は椅子に座った。
「最初は負けたけど、二回目は引き分けだった」
「前よりよくなったの?」
「移動しやすくなった。でも、まだうまく使えていないところもある」
母親は料理をテーブルに置いた。
「すぐに全部できるようになるわけじゃないものね」
「うん」
悠真は昼食を食べ始めた。
今日は、三人で遊ぶ予定だった。
けれど、一人が来られなくなった。
それでも、二人で遊ぶことはできた。
模擬戦闘の結果も、勝ちと負けだけではなかった。
引き分けという結果もあった。
部品交換会では、使わなかった部品が、別のプレイヤーにとって必要なものになった。
同じゲームの中でも、プレイヤーによって遊び方は違う。
予定どおりに集まれない日もある。
それでも、集まった人たちでできることはある。
昼食を終えた悠真は、食器を片づけてから本を読んだ。
午後は、母親と買い物に出かける予定だった。
次にログインした時には、また別の募集があるだろう。
KAIやRIONと遊ぶ日もあれば、知らないプレイヤーと任務を受ける日もある。
一人で街を歩くだけの日もある。
悠真は窓の外を見た。
空はよく晴れていた。
今日は、ゲームの中だけで一日を過ごす必要はなかった。




