第百四十一章 使い慣れた装備
金曜日。
悠真は学校から帰ると、宿題を済ませ、明日の準備を終えた。
夕飯までには、まだ少し時間がある。
母親に声をかけてから、《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:213,492】
ロビーでは、週末のイベントに向けた募集が増えていた。
『明日の共同任務、参加する人いる?』
『人数が集まったら行く』
『俺は午後からなら参加できる』
悠真は会話を眺めたあと、装備画面を開いた。
水曜日の模擬戦闘で使った、高出力型の構成が残っている。
攻撃力は高い。
移動時のエネルギー消費も、補助装置を変更したことで少し抑えられていた。
それでも、普段使っている装備とは感覚が違う。
悠真はしばらく数値を見比べたあと、使い慣れた装備に戻した。
今日は、装備の検証を続ける気分ではなかった。
任務一覧を開く。
北部輸送路で、運搬機の護衛任務が募集されていた。
【任務名:北部輸送路・運搬機護衛】
【主目標:輸送機を指定地点まで護衛する】
【追加目標:輸送機の損傷を抑える】
【推奨人数:1~3人】
悠真は一人で任務を受けた。
転送先には、すでに運搬機が待機していた。
近くでは、NPCの作業員が積荷を固定している。
「護衛を頼む」
「分かりました」
「途中の道は比較的安全だが、北側の分岐付近には機械獣が出ることがある。見つけたら、輸送機から離してくれ」
「了解です」
運搬機が動き始めた。
悠真は少し前を進み、周囲を確認する。
道幅は広くない。
岩場が道路の片側に続き、反対側には低い斜面がある。
しばらく進んだところで、斜面の向こうに機械獣の姿が見えた。
一体。
まだ距離がある。
悠真は運搬機を振り返った。
十分に離れていることを確認してから、機械獣へ接近する。
敵はすぐに反応した。
正面から突進してくる。
悠真は横へ避け、相手の側面へ攻撃を加えた。
機械獣は向きを変え、再び突進してきた。
今度は距離を取りながら、短い攻撃を重ねる。
無理に一度で倒そうとはしなかった。
やがて機械獣の動きが止まり、撃破の表示が出た。
悠真は運搬機の位置を確認した。
損傷はない。
護衛を再開する。
北側の分岐に差しかかった時、今度は二体の機械獣が現れた。
一体は道路の中央に出てきたが、もう一体は岩場の陰にいる。
悠真は立ち止まった。
先に見えている敵だけを攻撃すれば、もう一体が運搬機へ向かう可能性がある。
かといって、二体を同時に引きつけようとすれば、こちらが囲まれるかもしれない。
悠真は運搬機へ通信を送った。
「前方に機械獣を確認しました。少し待機してください」
作業員から返事が届く。
『了解。こちらは停止する』
悠真は道路の中央にいる敵へ攻撃を仕掛けた。
敵がこちらを向く。
そのまま道路脇へ誘導し、二体目がいる岩場から距離を取った。
先に一体を倒す。
続いて岩場の陰にいた敵が動き出した。
今度は、敵が運搬機へ向かわないように位置を調整しながら戦った。
戦闘が終わると、悠真は運搬機の状態を確認した。
損傷はなかった。
「もう進んで大丈夫です」
運搬機が再び動き始めた。
残りの道では、機械獣は現れなかった。
指定地点に到着すると、作業員が積荷の確認を始めた。
【任務完了】
【主目標:達成】
【追加目標:達成】
【輸送機損傷:なし】
【評価:A】
悠真は結果を確認した。
特別に難しい任務ではなかった。
ただ、敵の数が増えた時に、すぐ攻撃するのではなく、運搬機を止めてから対応したことが大きかった。
少なくとも、今回の状況ではそれがうまくいった。
悠真はロビーへ戻り、装備画面を開いた。
使い慣れた装備は、やはり扱いやすかった。
敵の動きを見ながら距離を調整し、必要な時に移動する。
エネルギーの残量も把握しやすい。
しかし、水曜日に試した高出力型の装備にも、使い道はあるだろう。
短時間で敵を倒す必要がある場面なら、普段の装備より適しているかもしれない。
まだ、どちらが自分にとって最適なのかを決める必要はなかった。
悠真は装備画面を閉じた。
その時、KAIからメッセージが届いた。
『今日、任務やった?』
『うん。輸送機の護衛』
『どうだった?』
『普通に終わったよ。途中で三体出てきたけど、輸送機は無傷だった』
『それなら十分だな』
悠真は少し考えてから尋ねた。
『この前の高出力装備、もう一度試す?』
『今から?』
『うん。でも、今日は時間があまりない』
『なら、無理にやらなくてもいいだろ。明日でもいいし』
確かに、その通りだった。
悠真は時計を確認した。
夕飯まで、あとわずかだった。
『じゃあ、明日にしよう』
『了解』
悠真はログアウトした。
部屋を出ると、母親が食卓に料理を並べていた。
「今日は何をしていたの?」
「運搬機の護衛。途中で敵が出たけど、無事に届けられたよ」
「よかったわね」
「うん。今日はいつもの装備を使ったんだ」
「この前、違う装備を試していたでしょう?」
「そう。あれも悪くないけど、今日は慣れている方が使いやすかった」
母親は椅子を引いた。
「新しいものを試すのもいいけど、慣れているものにも理由があるのね」
「そうだね」
悠真は席に座った。
新しい装備を使えば、できることが増えるかもしれない。
けれど、慣れていないからこそ、うまく対応できない場面もある。
反対に、使い慣れた装備なら、状況を見ながら動きやすい。
どちらか一方だけを選び続ける必要はない。
必要な時に使い分けられれば、それでいい。
夕飯を食べ終えたあと、悠真は明日の準備を済ませた。
明日は土曜日。
時間があれば、KAIともう一度模擬戦闘をするつもりだった。
今度は、前回とは違う装備や戦い方も試してみたい。
ただし、必ず試さなければならないわけでもない。
その日の気分や、実際に集まった仲間によって、遊び方は変わる。
悠真は机の上を片づけ、時計を見た。
今日は、もうゲームのことを考える時間ではなかった。
明日になれば、またログインできる。
そう思いながら、悠真は明日の準備を終えた。




