第百四十章 違う遊び方
木曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーに期間限定イベントの告知が表示されていた。
【イベント名:模擬戦闘交流会】
【参加条件:なし】
【内容:プレイヤー同士の模擬戦闘】
【勝敗によるランキング変動:なし】
【参加報酬:あり】
悠真は説明を読んだ。
通常のランキング戦とは違い、勝敗が順位に反映されない。
装備や戦い方を試すためのイベントらしい。
ロビーのチャットでも、すでに話題になっていた。
『これ、普段使わない装備でもいいのか?』
『模擬戦だから問題ないらしい』
『ランキングが動かないなら、試したい構成があるんだよな』
『負けても順位が落ちないのは助かる』
悠真も、少し興味を持った。
最近は安定した装備を使うことが多かった。
勝ちやすさを考えるなら、それは悪い選択ではない。
しかし、普段使わない装備を試す機会も必要だった。
悠真はイベントへの参加を選んだ。
転送先は、中央市街に設けられた模擬戦闘施設だった。
円形の訓練場がいくつも並び、周囲には観戦用のスペースがある。
通常の任務マップとは違い、設備の破損や周辺への被害を気にする必要はない。
参加者が集まると、対戦相手が自動的に割り当てられた。
【対戦相手:KAI】
「えっ」
悠真は思わず声を出した。
通信画面にKAIの名前が表示されている。
『お前か』
『そっちも参加してたんだ』
『普段使わない装備を試そうと思ってな』
悠真は装備を確認した。
今回は、攻撃力の高い武器と、エネルギー消費の大きい補助装置を組み合わせていた。
短時間で大きなダメージを与えられる一方、攻撃を外すと立て直しが難しくなる構成だ。
KAIは近接戦闘向けの装備を選んでいる。
『じゃあ、始めるか』
『うん』
開始の合図が鳴った。
KAIは迷わず距離を詰めてきた。
悠真は後退しながら攻撃を放つ。
初撃は当たった。
大きなダメージ表示が出る。
しかし、続けて撃った攻撃は、KAIの移動に合わせられず外れた。
エネルギーが大きく減る。
「しまった……!」
悠真が体勢を立て直そうとした時には、KAIがすでに接近していた。
近接攻撃を受け、悠真の機体が大きく後退する。
悠真は距離を取り直そうとしたが、移動補助のエネルギーも不足していた。
最後は、KAIの連続攻撃を受けて敗北した。
【模擬戦闘終了】
【結果:敗北】
悠真は結果画面を見つめた。
最初の攻撃は強かった。
けれど、一度外したあとの対応が難しかった。
普段の装備なら、もう少し長く戦えたかもしれない。
KAIから通信が入った。
『最初の一発、かなり痛かったぞ』
『でも、そのあと全然続かなかった』
『そうだな。お前の装備、攻撃が当たれば強いけど、外した時に隙が大きい』
『やっぱりそうだよね』
『俺が近づけたのも、その隙があったからだと思う』
悠真は装備画面を開いた。
攻撃力だけを見れば、悪い構成ではない。
しかし、相手が避けた時にどうするか。
距離を詰められた時にどう対応するか。
そこまで考えていなかった。
悠真は、補助装置を一つ交換した。
最大出力は少し下がる。
その代わり、移動時のエネルギー消費が抑えられる。
『もう一回やる?』
KAIが尋ねた。
『うん。今度は装備を変えてみる』
二回目の模擬戦闘が始まった。
悠真は最初から攻撃を連発しなかった。
KAIの動きを見ながら、距離を保つ。
攻撃を一度だけ放ち、相手が避けたらすぐに位置を変える。
KAIは前回と同じように接近しようとしたが、悠真は移動補助を使って横へ抜けた。
追撃を一度受けたものの、今度はすぐに体勢を立て直せた。
戦闘は長引いた。
悠真は何度か攻撃を外し、KAIも反撃を受けた。
最後は、KAIが間合いを詰めるタイミングを見誤り、悠真の攻撃が当たった。
【模擬戦闘終了】
【結果:勝利】
「勝った……!」
悠真は思わず笑った。
KAIも通信越しに笑った。
『今度はよかったな』
『装備を変えたのが大きかったと思う』
『それだけじゃないだろ。さっきより、攻撃を外したあとに慌てなくなった』
悠真は少し考えた。
確かに、今回は一発で勝とうとはしなかった。
相手に近づかれた時のことも考えながら戦った。
装備だけでなく、動き方も変わっていた。
『もう一回やってみる?』
KAIが尋ねた。
悠真は時計を確認した。
そろそろログアウトする時間だった。
『今日はここまでにするよ』
『了解。また今度な』
悠真はイベント会場を離れ、ロビーへ戻った。
イベントの参加報酬が届いていた。
特別な装備ではなく、整備用の部品と少量のゲーム内通貨だった。
ランキングにも変化はない。
それでも、今日の模擬戦闘には意味があった。
勝敗が順位に影響しないからこそ、普段なら選ばない装備を試せた。
負けたあとも、装備を変更して再挑戦できた。
悠真はそのままログアウトした。
現実の部屋に戻ると、母親が洗濯物を取り込んでいた。
「今日は何をしていたの?」
「プレイヤー同士の模擬戦闘」
「いつもの対戦とは違うの?」
「うん。順位が変わらないから、装備を試せるんだ」
「それで、うまくいった?」
「最初は負けた。でも、装備を変えたら勝てたよ」
母親は洗濯物をたたみながら頷いた。
「変えてみてよかったのね」
「うん。最初の装備は攻撃力が高かったけど、攻撃を外すと動きにくかったんだ」
「じゃあ、攻撃力だけで決めるのは難しいのね」
「そう。使い方にもよると思う」
母親はたたみ終えた服を棚に置いた。
「学校の勉強も、答えだけ分かればいいわけじゃないものね。どうしてそうなるのかが分からないと、少し問題が変わっただけで困るでしょう?」
悠真は少し考えた。
「ゲームも似てるかもしれない」
「そうなの?」
「同じ装備でも、相手が違ったら戦い方も変わるし」
「なるほどね」
母親はそれ以上、話を広げなかった。
悠真は机の上を片づけ、明日の準備を始めた。
今日の模擬戦闘では、最初に負けた。
けれど、その結果だけで装備が使えないと決める必要はなかった。
どこが難しかったのかを考え、少し変えてみる。
それでも、次に必ず勝てるとは限らない。
今回はKAIとの模擬戦闘だった。
別の相手なら、違う問題が出てくるかもしれない。
悠真は明日、いつもの装備に戻すか、それとも今日の構成をもう少し試すか、まだ決めていなかった。
決めるのは、次にログインしてからでいい。
ゲームには、勝つための戦いもある。
試すための戦いもある。
どちらか一つだけが、正しい遊び方というわけではなかった。




