↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
137/343

第百三十七章 母親が見ていたもの

 月曜日。


 学校から帰った悠真は、ランドセルを机の横に置いた。


「ただいま」


「おかえり。今日はどうだった?」


「普通だったよ」


 母親は台所から顔を出した。


「宿題は?」


「先にやる」


「分かった。夕飯までには終わらせてね」


「うん」


 悠真は宿題を机に広げた。


 算数の問題を解き、国語の文章を読み、最後に明日の時間割を確認する。


 途中で少し手が止まったが、時計を見ると、思っていたより時間は進んでいなかった。


 宿題を終えると、母親に声をかけた。


「終わったよ」


「見せて」


 母親はノートを確認した。


 計算の途中式も書いてある。


 国語の課題にも、最後まで答えが記入されていた。


「うん。大丈夫そうね」


「ゲーム、してもいい?」


「夕飯までならいいわよ。遅くならないようにね」


「分かった」


 悠真はゲーム機を起動した。


 《クロスギア》に接続する。


【オンラインプレイヤー:211,605】


 平日のロビーは、週末より静かだった。


 悠真は任務一覧を開いた。


 新しい任務がいくつか追加されている。


 その中に、街の設備点検という募集があった。


【任務名:中央市街設備点検】


【主目標:指定設備の動作確認】


【追加目標:異常箇所の記録】


【推奨人数:1~2人】


 戦闘任務ではなかった。


 悠真は少し迷ったあと、受注した。


 転送先は中央市街の外れだった。


 道路沿いに小さな設備が並び、作業員型のNPCが工具を運んでいる。


「点検に来てくれたのか」


 NPCが悠真に気づいて声をかけた。


「はい。指定された設備を確認します」


「助かる。こっちは部品の交換を進めているところだ。あそこの装置から頼む」


 悠真は指定された装置へ向かった。


 外側のパネルに大きな損傷はない。


 操作画面を開くと、電力供給と通信機能は正常と表示された。


 ただし、記録更新の時刻が少し古かった。


「記録が止まってる?」


 悠真は詳細を確認した。


 装置自体は動作している。


 しかし、一部の記録が更新されていなかった。


 故障なのか、更新処理が遅れているだけなのかは分からない。


 悠真は異常の可能性として記録を残し、次の設備へ向かった。


 二つ目の設備は問題なかった。


 三つ目では、外部ケーブルの固定具が緩んでいた。


 NPCに報告すると、作業員が工具を持ってやってきた。


「これは直しておこう。見つけてくれてありがとう」


 作業員が固定具を締め直す。


 悠真は修理が終わるのを待ってから、もう一度状態を確認した。


【固定状態:正常】


 最後の設備も確認し、任務を終えた。


【任務完了】


【主目標:達成】


【追加目標:達成】


【評価:A】


 悠真は結果画面を閉じた。


 敵との戦闘はなかった。


 それでも、設備の状態を確認し、問題があれば報告するという仕事だった。


 街の中では、別のNPCたちも作業を続けていた。


 部品を運ぶ者。


 道路の端で修理をする者。


 店の前に商品を並べる者。


 プレイヤーが任務を受けていない間も、街は少しずつ変わっている。


 悠真はしばらくその様子を眺めたあと、ロビーへ戻った。


 KAIからメッセージが届いていた。


『今日は入ってる?』


『うん。今、任務が終わったところ』


『対戦に行く?』


 悠真は時計を確認した。


 夕飯までは、まだ少し時間がある。


『一回だけなら』


『了解』


 二人はランキング戦へ参加した。


 今回のマップは、中央に広い広場があり、左右に細い通路が続いている。


 開始直後、相手チームは中央へ向かわず、左右の通路に分かれた。


 KAIが中央の敵を牽制する。


 悠真は右側へ移動し、相手の一人が広場へ回り込むのを確認した。


 すぐに追いかけようとはしなかった。


 前の試合では、相手の動きを予測して追いすぎた結果、味方から離れてしまった。


 今回は、まずKAIの位置を確認する。


『右から一人、中央へ回ってる』


『見えた。俺が中央を押さえる』


 悠真は通路の出口を守った。


 相手が広場へ入ろうとしたところで攻撃を仕掛け、進路を変えさせる。


 その間にKAIが中央の敵を押し戻した。


 試合は終盤までもつれたが、最後は広場の占有時間で上回り、悠真たちの勝利となった。


【勝利】


 悠真は少しだけ満足した。


 相手を倒した数は、それほど多くない。


 しかし、味方の位置を確認しながら動けた。


 それが今回の勝利につながったのかもしれない。


『今の、無理に追わなかったのがよかったな』


 KAIからメッセージが届いた。


『前に似たようなことをして負けたからね』


『経験が役に立ったってことか』


『そうかもしれない』


 悠真はもう一試合誘われる前に、ログアウトすることにした。


 夕飯の時間が近づいていた。


 現実の部屋に戻ると、母親が食卓の準備をしていた。


「もう終わり?」


「うん。一回だけ対戦してきた」


「宿題も終わってるし、時間も守れたわね」


 母親はそう言って、皿を並べた。


 悠真は少し意外に思った。


「今日は何も言わないの?」


「何を?」


「ゲームばかりしてるとか」


 母親は手を止めた。


「今日は宿題を先に終わらせたでしょう。それに、夕飯までって約束も守ったじゃない」


「……うん」


「毎日同じ時間だけ遊べばいい、という話でもないのよ。疲れている日は休んだ方がいいし、やることを終わらせて時間に余裕があるなら、遊ぶのもいいと思う」


 悠真は椅子に座った。


「じゃあ、もっと長く遊んでもいい?」


「それとこれとは別」


「ええ……」


「明日の学校に影響が出ないこと。寝る時間を守ること。それから、自分が疲れている時は無理をしないこと。そこは変わらないわよ」


「分かった」


 母親は笑った。


「ゲームが好きなのは知ってるから。好きなものを全部やめなさいとは言わないわ」


 悠真は返事をせず、食卓に並んだ料理を見た。


 以前は、母親がゲームの時間を気にするたびに、もっと遊びたいと思っていた。


 けれど、母親が何も考えずに止めようとしているわけではないことも、最近は少しずつ分かってきた。


 学校へ行く。


 宿題をする。


 食事をする。


 眠る。


 その間に、ゲームをする。


 どれか一つだけを続ければいいわけではない。


「お母さん」


「何?」


「明日も、宿題を終わらせてからログインするよ」


「そうしてちょうだい」


 母親はそれ以上、何も言わなかった。


 夕飯を食べ終えたあと、悠真は明日の準備を済ませた。


 寝る前に、今日の対戦を少しだけ思い返す。


 前に負けた経験があったから、今回は同じ失敗を避けられた。


 ただし、次も勝てるとは限らない。


 相手が違えば、動きも違う。


 味方が違えば、必要な判断も変わる。


 今日できたことが、明日も必ずできるとは限らなかった。


 それでも、試してみることはできる。


 悠真はゲーム機の電源が切れていることを確認した。


 明日も学校がある。


 だから、今日はもう寝る。


 好きなゲームを続けるためにも、今は休む時間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。