第百三十六章 知らない名前の約束
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーには昨日の共同討伐について話すプレイヤーがいた。
『東岩山の大型機械獣、昨日は追加目標まで達成できた』
『設備の前で止められたのが大きかったな』
『あそこ、最後に全員が攻撃してなかったら危なかったと思う』
悠真は会話を読みながら、昨日の戦闘を思い出した。
敵が設備へ向かった時、正面から攻撃するだけでは止められなかった。
側面から進路を変え、ほかのプレイヤーが攻撃を続けた。
それぞれの動きが重なって、最後の目標まで達成できた。
悠真は任務一覧を開いた。
今日は特に急いでやりたいことがない。
しばらく画面を眺めていると、昨日の共同討伐で見かけた名前が目に入った。
【募集:通常任務・北部資材回収】
【参加人数:1/3】
募集主の名前は、昨日話しかけてきたプレイヤーだった。
悠真は少し考えたあと、参加を選んだ。
【参加登録完了】
数秒後、募集主からメッセージが届いた。
『昨日の東岩山にいた人?』
『うん。昨日はありがとう』
『いや、こっちこそ。今日はよろしく』
そのプレイヤーの名前は、SORAだった。
もう一人、別のプレイヤーが参加した。
名前はNAGI。
悠真は二人とも知らない。
それでも、三人で任務を受けることになった。
転送先は、北部の資材置き場だった。
木箱や金属部品が並び、いくつかの運搬機が待機している。
任務の内容は、指定された資材を回収し、輸送用の集積地点まで運ぶことだった。
【主目標:指定資材を回収する】
【追加目標:運搬機への損害を防ぐ】
SORAが地図を開いた。
『先に資材の場所を確認しよう。三か所あるみたいだ』
NAGIが答えた。
『じゃあ、分かれて回収する?』
悠真は地図を見た。
資材の位置は離れている。
それぞれが一か所ずつ担当すれば、移動時間を短縮できる。
しかし、周囲には機械獣の出現地点も表示されていた。
『一人ずつ行くより、二人と一人に分かれた方がいいかもしれない』
悠真が提案した。
『どうして?』
『機械獣が出た時、一人だと運搬機を守りながら戦うのが難しそうだから』
SORAは少し考えたあと、返事をした。
『分かった。俺とNAGIで北側を回る。悠真は南側を頼む。何かあったら連絡する』
『了解』
三人はそれぞれ移動を始めた。
悠真が南側の資材置き場に到着すると、指定された金属部品が木箱にまとめられていた。
回収作業を進める。
その途中、遠くで機械音が聞こえた。
悠真は作業を止め、周囲を確認した。
小型機械獣が二体、資材置き場の入口へ向かっている。
「来たか……」
悠真はすぐに攻撃せず、運搬機との距離を確認した。
機械獣はまだこちらに気づいていない。
このまま資材置き場の奥へ引き込めば、運搬機から離れた場所で戦える。
悠真は少しずつ後退した。
機械獣がこちらを向く。
そのまま追ってきた。
悠真は攻撃を避けながら、二体を資材置き場から遠ざけた。
戦闘は長引かなかった。
二体を撃破し、資材回収を再開する。
回収を終えたところで、SORAから通信が入った。
『北側にも一体いた。もう倒したよ』
『こっちも二体倒した』
『運搬機は無事?』
『うん。まだ何も壊れてない』
悠真は回収した資材を運搬機へ積み込み、集積地点へ向かった。
道の途中では、NAGIが待っていた。
「そっちは終わった?」
悠真が尋ねると、NAGIは頷いた。
『ああ。資材もそろってる』
三人は集積地点へ向かった。
運搬機が指定位置に到着すると、任務完了の表示が出た。
【任務完了】
【主目標:達成】
【追加目標:達成】
【評価:A】
悠真は結果画面を閉じた。
派手な戦闘はなかった。
大型の敵もいなかった。
ただ、三人で役割を分け、必要な資材を回収した。
SORAがメッセージを送ってきた。
『助かった。最初に分かれ方を相談しておいてよかったな』
『うん。一人で全部回るより安全だったと思う』
NAGIも続けた。
『二人で北側を回ったから、機械獣が出ても対応できた。次もこの方法でいいかもしれない』
悠真は返事をしようとして、少し手を止めた。
次も同じ方法が通用するとは限らない。
任務の場所が違えば、資材の配置も変わる。
敵の数も違うかもしれない。
それでも、今回の任務ではうまくいった。
『状況を見て決めよう。今回はこの分け方でよかったね』
SORAから短い返事が届いた。
『そうだな』
任務が終わると、三人はロビーへ戻った。
SORAが尋ねた。
『このあと、もう一つやる?』
悠真は時計を確認した。
まだ時間はある。
母親からは、昼食までに一度部屋を片づけるように言われていた。
今からもう一つ任務を受けると、少し慌ただしくなる。
『今日はここまでにするよ。また機会があったら誘って』
『分かった。また募集を出すよ』
NAGIもメッセージを送った。
『次に会ったらよろしく』
『こちらこそ』
短いやり取りを終え、悠真は二人と別れた。
名前を覚えたばかりのプレイヤーたち。
今後、何度も一緒に遊ぶことになるかもしれない。
一度きりで、もう会わないかもしれない。
今はまだ分からなかった。
悠真はロビーを少し歩き、装備の修理を済ませた。
そのあと、ランキングを確認する。
一位、KAI。
二位、RION。
三位、YUMA。
いつもと変わらない順位だった。
しかし、ランキングには載らない出会いもある。
昨日の共同討伐で話したSORA。
今日、一緒に任務を受けたNAGI。
どちらも、悠真がこれまで知らなかったプレイヤーだった。
ランキングの数字だけでは、誰と遊んだのかも、どんな会話をしたのかも分からない。
悠真はその画面を閉じ、ログアウトした。
現実の部屋に戻ると、母親が廊下から声をかけた。
「悠真、部屋の片づけは?」
「今からやる」
「じゃあ、お昼までにお願いね」
「分かった」
悠真は机の上を片づけながら、今日の任務を思い返した。
三人で役割を決め、別々の場所を回り、必要な時には連絡を取った。
最初から互いのことを知っていたわけではない。
相手がどんなプレイヤーなのかも、今日の任務だけでは分からない。
それでも、短い時間を一緒に遊ぶことはできた。
次に会った時、また同じように協力できるかは分からない。
今日とは違う任務なら、別の役割を担当することになるかもしれない。
悠真は机の上にあった本を棚へ戻した。
ゲームの中には、よく知っている仲間がいる。
そして、まだ知らないプレイヤーもいる。
そのどちらと遊ぶかは、その日の気分や、募集の内容によって変わる。
今日は、知らない名前のプレイヤーと一緒に任務を終えた。
それだけでも、十分に楽しい一日だった。




