第百三十四章 同じ任務、違う結果
金曜日。
悠真は学校から帰ると、宿題を済ませてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:212,407】
ロビーには、週末を前にしたプレイヤーたちが集まり始めていた。
新しい任務の募集も増えている。
悠真は一覧を眺め、見覚えのある任務を見つけた。
【北部輸送路・機械獣排除】
【主目標:輸送路の安全を確保する】
【追加目標:輸送設備への損害を防ぐ】
以前にも受けたことがある任務だった。
場所も、目標も、難易度も大きく変わっていない。
悠真は少し考えたあと、参加を選んだ。
転送先は、北部輸送路の入口だった。
周囲には運搬機が並び、道の向こうには岩場が続いている。
任務開始前、担当のNPCが説明した。
「最近、この周辺で機械獣の出現が確認されています。輸送路を通る車両に被害が出ないよう、排除をお願いします」
「分かりました」
悠真は装備を確認した。
安定性を重視した遠距離装備。
短時間で大きなダメージを与える構成ではないが、継続して戦うには扱いやすい。
任務開始。
最初に現れた機械獣は二体だった。
悠真は距離を取り、一体ずつ攻撃する。
機械獣の動きは以前と似ていた。
正面から接近し、攻撃を避けられると一度後退する。
悠真は深追いせず、輸送路から離れた場所で戦闘を続けた。
二体を撃破したところで、任務画面が更新された。
【追加の機械獣を確認】
【出現地点:北側分岐路】
悠真は地図を開いた。
北側分岐路は、輸送路から少し離れた場所にある。
その先には、運搬用の機材が置かれた作業区域があった。
悠真はすぐに向かわず、周囲を確認した。
遠くで、機械獣が動く影が見えた。
数は一体。
ただし、周辺には小型の機材がいくつも並んでいる。
「ここで戦うのは避けたいな……」
悠真は機械獣の注意を引き、作業区域から離れる方向へ移動した。
機械獣は追ってきた。
ある程度距離を取ったところで、悠真は攻撃に転じた。
機械獣が突進する。
横へ避ける。
反撃する。
以前と同じような動きだった。
しかし、今回は機械獣がすぐには後退しなかった。
連続して攻撃を仕掛けてくる。
悠真は一度距離を取った。
無理に攻撃を続ければ、こちらの耐久値が減る。
機械獣の動きを見ながら、攻撃の間隔を確認した。
数回の攻撃のあと、機械獣は短く停止した。
悠真はその隙に攻撃を当てた。
戦闘は長引いたが、最後には機械獣を撃破できた。
【追加目標:達成見込み】
残る作業は、輸送路の確認だった。
悠真は指定された地点を回り、設備の状態を調べた。
大きな損傷はない。
運搬機も動作している。
最後の確認を終えると、任務完了の表示が出た。
【任務完了】
【評価:A】
悠真は報酬を受け取り、ロビーへ戻った。
同じ任務を以前に受けた時も、評価はAだった。
場所も、敵の種類も、目標も似ている。
それでも、戦闘の途中には違いがあった。
今回は機械獣が予想より長く攻撃を続けた。
そのため、悠真は一度距離を取り、攻撃の間隔を確認する必要があった。
もし最初から以前と同じ動きをすると決めつけていたら、余計なダメージを受けていたかもしれない。
悠真は戦闘記録を確認した。
特別な発見はない。
ただ、攻撃を受けた回数と、回避した回数が記録されている。
数字を見ても、機械獣がなぜ今回は長く攻撃を続けたのかまでは分からなかった。
悠真は記録を閉じた。
そこへ、KAIからメッセージが届いた。
『今、何してる?』
『北部輸送路の任務をやってた』
『あそこか。俺も少し前にやった』
『どうだった?』
『普通に終わったぞ』
悠真は少し考えた。
『僕の時は、最後の一体がいつもより長く攻撃してきたよ』
『個体差かもしれないな』
『そうかもしれない』
『同じ任務でも、毎回同じ動きとは限らないだろ』
KAIの言葉に、悠真は頷いた。
同じ場所。
同じ任務。
同じ種類の敵。
それでも、毎回まったく同じ戦闘になるとは限らない。
悠真はKAIに、もう一度同じ任務を受けてみるか尋ねた。
『今から?』
『うん。二人でやったら、どうなるか見てみたい』
『いいぞ。ただし、同じ結果になるとは限らないからな』
『分かってる』
二人は北部輸送路の任務を受けた。
今回も、最初の機械獣は二体だった。
悠真が一体を引き受け、KAIがもう一体へ向かう。
KAIは近接装備を使い、短い時間で敵の耐久値を削っていった。
悠真の方は、距離を保ちながら攻撃を続けている。
数分後、二体とも撃破した。
【追加の機械獣を確認】
【出現地点:北側分岐路】
同じ表示だった。
二人は地図を確認し、北側分岐路へ向かった。
今度の機械獣は、前回より早く攻撃を始めた。
悠真が注意を引こうとしたが、機械獣は途中で向きを変え、KAIへ突進した。
「そっちに行った!」
『見えてる!』
KAIは攻撃を避けた。
悠真は側面から攻撃を当てる。
機械獣は一度後退し、再び二人へ向かってきた。
KAIが正面で攻撃を受け止め、悠真が距離を取って反撃する。
今度は一人で戦った時よりも、早く撃破できた。
【任務完了】
【評価:A】
悠真は結果画面を見た。
「今回は早かったね」
『二人だったからな』
「でも、最初にそっちへ向かうとは思わなかった」
『俺も最初から分かってたわけじゃない』
KAIは戦闘記録を開いた。
『こいつ、攻撃対象を切り替えることがあるみたいだな』
「前回は僕を追ってきたよ」
『今回は俺が近づいたからかもしれないし、別の条件があったのかもしれない』
「そうだね」
二人は記録を確認した。
機械獣が攻撃対象を変更した時刻。
それぞれの機体との距離。
攻撃を受けた回数。
情報は残っている。
しかし、何が決定的な原因だったのかは分からなかった。
『もう一回やるか?』
KAIが尋ねた。
悠真は時計を確認した。
まだ時間はある。
けれど、同じ任務を何度も繰り返しても、必ず新しいことが分かるわけではない。
「今日はここまでにする。次に受けた時、また違う動きがあったら確認するよ」
『分かった』
二人はロビーへ戻った。
ランキングを確認すると、順位は変わっていなかった。
一位、KAI。
二位、RION。
三位、YUMA。
悠真は画面を閉じた。
今日は特別な報酬を得たわけではない。
新しい任務が解放されたわけでもない。
ただ、同じ任務を二度受けて、異なる戦闘を経験した。
それだけだった。
それでも、以前の記録をそのまま次の戦闘に当てはめればいいわけではないことは分かった。
記録は参考になる。
だが、記録に書かれた行動が、次も必ず繰り返されるとは限らない。
悠真はログアウトした。
部屋の外では、母親が夕食の準備をしていた。
「今日はどうだった?」
「同じ任務を二回やったよ」
「二回も?」
「うん。一回目と二回目で、敵の動きが違ったんだ」
「同じ敵なのに?」
「同じ種類だけど、動きが少し違った。二回目はKAIと一緒だったから、それも関係しているかもしれない」
母親は野菜を切りながら答えた。
「一緒にいる人が違えば、状況も変わるものね」
「うん。でも、それだけが理由かどうかは分からない」
「そうなんだ」
母親はそれ以上、理由を決めつけなかった。
悠真は自分の机に座った。
明日も、同じ任務が募集されているかもしれない。
その時には、また違う戦闘になるかもしれない。
あるいは、今日とほとんど変わらないかもしれない。
今の段階では、どちらとも言えなかった。
悠真は明日の準備を済ませ、ランドセルを玄関の近くに置いた。
同じ場所に戻ることはできる。
同じ任務を受けることもできる。
以前の経験を使うこともできる。
けれど、次に何が起きるのかまで、すべて決まっているわけではない。
悠真はそのことを覚えておこうと思った。




