第129章 変わらない場所
土曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーには週末らしい賑わいが戻っていた。
【オンラインプレイヤー:239,816】
任務募集の一覧には、討伐、輸送、探索、防衛と、さまざまな種類の任務が並んでいる。
悠真はしばらく一覧を眺めたあと、森林地帯の探索任務を選んだ。
【任務名:森林地帯・巡回探索】
【主目標:指定区域の調査】
【追加条件:発見した異常を記録する】
【推定所要時間:20分】
今日は、KAIやRIONと一緒ではなく、一人で行動するつもりだった。
最近は共同作戦や対戦が続いていた。
少し違うことをしてみたかったのだ。
悠真は任務を受注した。
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転送先は、森林地帯の北側だった。
低い草が広がり、その向こうには岩場と細い道が見える。
任務の指定区域は三か所。
一つ目は、森林の入口にある観測地点。
二つ目は、岩場の近くにある古い案内標識。
三つ目は、指定区域の奥にある小さな作業施設だった。
悠真は地図を確認し、まず観測地点へ向かった。
そこには、NPCの作業員が一人いた。
「調査に来たのか?」
「はい。観測地点の確認です」
「なら、装置の表示を見てくれ。今のところ動いているが、記録の更新時刻が少し古い」
悠真は装置を確認した。
電源は入っている。
表示も正常だった。
ただし、最新の記録は数時間前で止まっていた。
「表示自体は正常ですね」
「そうなんだ。原因はまだ分からない。こちらでも確認する予定だ」
悠真は状態を記録し、次の地点へ向かった。
⸻
岩場の近くには、古い案内標識が立っていた。
標識の文字は薄れているが、現在の主要道路と、以前使われていた道の方向が記されている。
悠真は周囲を見回した。
古い道は草に覆われ、入口の一部が崩れていた。
通行できるかどうかは分からない。
標識の支柱にも傷みが見られたが、今すぐ倒れそうな状態ではなかった。
悠真は表示された調査項目に従い、標識の状態を記録した。
【案内標識:設置確認】
【表示状態:一部判読困難】
【通行状況:旧道入口に障害あり】
特別な発見はなかった。
しかし、任務の目的は、何か珍しいものを見つけることだけではない。
指定された場所の現状を確認し、分かったことを記録する。
悠真は最後の地点へ向かった。
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作業施設は、森林の奥にある小さな建物だった。
入口の扉は閉じている。
外側には資材置き場があり、木材や金属部品が整理されていた。
悠真が近づくと、NPCの作業員が建物の裏から出てきた。
「何か用か?」
「巡回調査です。施設の状態を確認しています」
「そうか。外側なら見てもいい。ただ、内部は今、点検中だから入れないぞ」
「分かりました」
悠真は建物の外周を確認した。
壁に大きな損傷はない。
資材置き場にも、目立った異常は見られなかった。
ただし、建物の脇に置かれた運搬台車が一台、通路を少し塞いでいた。
「この台車は移動させる予定ですか?」
「午後から資材を運ぶ予定だから、その前に動かすつもりだ」
悠真は頷いた。
自分で勝手に移動させる必要はない。
作業員が予定を把握しているなら、その情報を記録すればいい。
悠真は確認結果を送信した。
【巡回調査:完了】
【確認地点:3か所】
【重大な異常:なし】
【要確認事項:2件】
【最終評価:A】
任務は終了した。
⸻
ロビーへ戻ると、悠真は少し考えた。
まだ時間はある。
もう一つ任務を受けてもいい。
しかし、先ほどの探索では、戦闘は一度もなかった。
今日は少し戦いたい気分でもあった。
悠真は森林地帯の討伐任務を選んだ。
【任務名:森林地帯・機械獣討伐】
【主目標:指定機械獣の撃破】
【追加条件:周辺設備の保全】
転送されると、指定された機械獣が二体、林の中を移動していた。
悠真は装備を確認した。
昨日まで試していた高出力型ではなく、普段使っている安定型だ。
攻撃力は控えめだが、長く戦うときには扱いやすい。
一体目は、接近してきたところを迎撃した。
二体目は、少し離れた場所から攻撃を仕掛けてきた。
悠真は木々の間を移動しながら、敵の攻撃を避ける。
何度か反撃を重ね、最後は距離を詰めて撃破した。
【討伐数:規定数達成】
【周辺設備の損傷:なし】
【最終評価:A】
悠真は報酬を受け取った。
特別な戦いではなかった。
けれど、探索任務とは違い、自分の操作で敵を倒す感覚を楽しめた。
「今日はこれくらいでいいかな」
悠真はロビーへ戻り、装備の耐久値を確認した。
問題はない。
ただ、もう一つ任務を受けるほどの理由もなかった。
悠真はログアウトした。
⸻
午後。
悠真は母親と一緒に、近所の店へ買い物に出かけた。
必要な食材を選び、帰り道に少し遠回りして歩く。
途中、小さな公園を通りかかった。
子供たちが遊具の周りを走り回っている。
その中の一人が、転びそうになりながらも立ち直り、再び友達を追いかけていった。
悠真はその様子を少し眺めた。
母親が声をかける。
「どうしたの?」
「ううん。何でもない」
二人はそのまま歩き続けた。
帰宅すると、悠真は買ってきた食材を冷蔵庫へ入れた。
それから、少しだけ本を読んだ。
ゲームにログインしていない時間にも、することはいろいろある。
そして、どれか一つを選んだからといって、ほかのことがなくなるわけではない。
⸻
夕方、悠真は再び《クロスギア》のことを考えた。
午前中の探索任務では、特別なものは見つからなかった。
機械獣の討伐も、普段どおりだった。
それでも、今日は十分に楽しめた。
毎回、新しい敵や珍しい設備を見つける必要はない。
何も変わっていないように見える場所でも、実際に歩いてみれば、その日の状態を確認できる。
そして、いつもと同じ任務でも、操作する自分の気分や、選ぶ行動は少しずつ違っている。
悠真は机の上に端末を置き、明日の予定を確認した。
宿題は残っていない。
学校の準備も終わっている。
明日も時間があれば遊べるだろう。
ただし、何をするかはまだ決めていない。
そのときになってから、また考えればいい。
悠真は本を閉じ、夕食の時間まで部屋を片づけることにした。




