第128章 知らない相手
金曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーに対戦イベントの告知が表示されていた。
【イベント名:ランダムチーム対抗戦】
【対戦形式:3対3】
【チーム編成:自動】
【勝敗記録:通常ランキングに反映】
普段のランクマッチと違い、チームメンバーは自動的に決定される。
知り合い同士で参加することもできるが、必ず同じチームになるとは限らない。
悠真は説明を読み終えると、KAIに連絡した。
【YUMA:今日の対抗戦、参加する?】
【KAI:参加する。だが、チームが別になる可能性があるぞ】
【YUMA:うん。それも含めて試してみたい】
【KAI:分かった。ロビーで会ったら結果を教えてくれ】
悠真は参加登録を済ませた。
⸻
最初の対戦が始まった。
悠真のチームには、初めて見るプレイヤーが二人いた。
一人は遠距離型。
もう一人は防御性能の高い機体を使っている。
「よろしくお願いします」
悠真がチャットを送ると、二人から短い返事があった。
【味方A:よろしく】
【味方B:防御は任せて】
試合が始まる。
敵チームは、中央の目標地点へ向かっていた。
悠真は味方の位置を確認し、側面から接近する。
防御型の味方は中央に残り、遠距離型の味方が後方から射撃を行った。
最初の交戦では、連携に大きな問題はなかった。
しかし、敵の一人が後退し始めると、遠距離型の味方が追撃を始めた。
中央に残っていた防御型の味方も、その動きに合わせて前進する。
結果として、目標地点を守るプレイヤーがいなくなった。
敵チームはその隙に中央へ入り、目標地点を確保した。
「一度戻ろう!」
悠真がチャットを送った。
しかし、遠距離型の味方はすでに敵の攻撃を受けていた。
防御型の味方も、戻る途中で足止めされる。
悠真は援護に向かったが、三人が合流する前に目標地点を奪われた。
その後、何度か取り返そうとしたものの、敵の連携を崩すことができなかった。
【対戦終了】
【勝敗:敗北】
【個人評価:B】
悠真は記録を開いた。
敗因は一つではなかった。
敵を追いかけた味方。
中央を離れた防御型の味方。
二人が離れたあと、すぐに合流できなかった自分。
それぞれの行動には理由があったのかもしれない。
ただ、三人の動きが一つの目的につながっていなかった。
悠真は短く息を吐いた。
「難しいな……」
⸻
二戦目。
チームメンバーは全員入れ替わっていた。
今度は、近接型のプレイヤーと、機動力の高い機体を使うプレイヤーが味方だった。
試合開始前、悠真は簡単に役割を提案した。
【YUMA:中央を維持しながら、相手の動きを見ませんか?】
【味方A:了解。俺が正面を担当する】
【味方B:横から援護する】
試合が始まると、三人は比較的まとまって動いた。
敵は中央へ攻め込もうとしたが、正面の味方が接近を止め、悠真が側面から攻撃した。
機動型の味方は敵の後方へ回り込み、攻撃の向きを変えさせた。
大きな連携を必要とする場面では、短いチャットで確認を取った。
【YUMA:左側を警戒】
【味方B:了解】
【味方A:中央は維持できる】
三人は目標地点を守りながら、少しずつ敵の耐久値を削っていった。
終盤、敵の一人が大きく後退した。
機動型の味方が追撃しようとしたが、悠真はチャットを送った。
【YUMA:追わずに中央を維持しましょう】
一瞬の間があった。
その後、味方は追撃を止めた。
敵チームは再び中央へ向かってきたが、三人はすでに迎撃できる位置にいた。
最後の交戦に勝利し、目標地点を守り切った。
【対戦終了】
【勝敗:勝利】
【個人評価:A】
「助かりました」
試合終了後、機動型の味方がチャットを送ってきた。
【味方B:追いかけるところだった】
【YUMA:僕も、以前はよく追いかけていました】
【味方A:相手が戻ってくるなら、待っていた方がいいこともありますね】
悠真はその言葉を読んだ。
三人は初対面だった。
互いの戦い方も、得意なことも、詳しくは知らない。
それでも、短い確認を重ねることで、同じ方向へ動くことができた。
⸻
三戦目。
悠真は、少しずつランダムチーム対抗戦の感覚をつかみ始めていた。
しかし、次の試合は簡単ではなかった。
味方の一人は攻撃を優先し、もう一人は目標地点を守ろうとしていた。
二人の行動がかみ合わず、戦闘のたびに位置が離れていく。
悠真は何度か合流を促したが、相手チームの攻撃が激しく、思うように動けなかった。
途中、味方の一人が敵の攻撃を受けて倒された。
残る二人で立て直そうとしたが、人数差を埋めることはできなかった。
【対戦終了】
【勝敗:敗北】
【個人評価:B】
悠真は記録を見た。
二戦目のように、短い連絡だけで動きがそろうこともある。
一方で、連絡してもすぐには合わせられないこともある。
相手が何を考えているのか、どこまで状況を見ているのか。
それは、実際に一緒に戦ってみなければ分からない。
「同じチームになったからって、すぐに連携できるわけじゃないんだね」
悠真は小さく呟いた。
⸻
対抗戦を終えたあと、悠真はロビーでKAIを見つけた。
「どうだった?」
KAIが尋ねる。
「二勝二敗だったよ。味方が初めて会う人ばかりだったから、難しかった」
「俺も似たような感じだ。強い人が集まっていても、必ず勝てるわけじゃないな」
「うん。相手を倒すことに集中している人もいれば、目標地点を守ることを優先する人もいた」
「それぞれの考え方が違うんだろうな」
悠真は頷いた。
普段の対戦では、KAIやRIONと一緒に戦うことが多い。
二人の動きや判断には、ある程度慣れている。
しかし、初めて会う相手なら、そうはいかない。
何を得意としているのか。
どこまで攻めるつもりなのか。
危険なときに後退するのか、それとも攻撃を続けるのか。
分からないことが多い。
だからこそ、最初から相手の動きを決めつけず、短い連絡を取りながら確認していく必要があった。
⸻
夕方、悠真はログアウトした。
母親は、悠真が食卓の準備を手伝っているときに尋ねた。
「今日は何をしていたの?」
「知らない人たちとチームを組んで対戦したんだ」
「いつもの友達とは違うのね」
「うん。普段なら、KAIやRIONがどう動くか、ある程度分かるんだけど、初めて会う人だとそうはいかないんだ」
「それで、どうしたの?」
「最初に少し話して、誰がどこを担当するか決めたよ。でも、うまくいった試合もあれば、全然合わなかった試合もあった」
母親は頷いた。
「最初から相手のことが全部分かるわけではないものね」
「そうだね。だから、実際に動いているところを見て、少しずつ合わせていくしかないと思う」
悠真は今日の対戦を思い返した。
同じ目標を持っていても、そこへ向かう方法は人によって違う。
誰かの行動が、自分の予想と違うこともある。
そのたびに、相手が間違っていると決めつけるのではなく、今どう動いているのかを確かめる。
そして、自分の行動も調整していく。
それが、知らない相手と一緒に戦うということなのかもしれなかった。
悠真は食卓に料理を並べた。
明日も《クロスギア》にログインするつもりだった。
いつもの仲間と戦うのか。
一人で任務を受けるのか。
それとも、また知らないプレイヤーとチームを組むのか。
まだ決めてはいない。
そのときになってから、選べばよかった。




