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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第127章 残された記録

木曜日。


悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーに新しい通知が届いていた。


【南部動力施設・緊急防衛】

【任務記録:公開】

【主目標:達成】

【追加目標:未達成】

【最終評価:B】


昨日の任務について、参加者の戦闘記録が一部公開されていた。


悠真は詳細を開いた。


敵は序盤、施設の正面から攻撃していた。


参加者たちは防衛線を維持し、主目標を守っていた。


ところが、途中から敵の一部が側面へ回り込んだ。


補助電源の周辺に敵が集まり始めたとき、何人かのプレイヤーが防衛線を離れ、補助電源の援護へ向かっていた。


その間、正面の防衛人数が減った。


残ったプレイヤーたちは施設を守るために後退し、敵の進入を防いだものの、補助電源は停止した。


「そういう流れだったんだ」


悠真は記録を最後まで確認した。


補助電源を守るために動いたプレイヤーが、間違っていたとは限らない。


もし援護に向かわなければ、もっと早く補助電源が停止していた可能性もある。


一方で、防衛線を維持する人数が減ったことも、結果に影響していた。


公開記録だけでは、現場のすべての判断を再現することはできない。


悠真は記録を保存した。


次に同じ任務へ参加するとき、何を優先するか。


その答えは、まだ決められなかった。


⸻


ロビーでKAIと合流すると、彼も同じ記録を見ていた。


「昨日の防衛任務、見たか?」


「うん。補助電源を守ろうとして、正面の人数が減ったみたいだね」


「俺なら、正面に残っていたかもしれない」


「でも、補助電源を放っておいたら、もっと早く止まっていたかもしれないよ」


KAIは少し考えた。


「確かに。結果だけを見て、どっちが正しかったとは言えないな」


「うん。敵がどこから攻めてくるか分かっていたら、別の動きもできたと思うけど」


悠真は昨日の任務記録を閉じた。


「今日は何をする?」


KAIが尋ねた。


「新しい任務を探そう。昨日のことを考えるのもいいけど、今日は実際に戦ってみたい」


「分かった」


二人は任務一覧を開いた。


⸻


二人が選んだのは、北部の輸送施設で行われる防衛任務だった。


【任務名:北部輸送施設・防衛支援】

【主目標:輸送施設の防衛】

【追加目標:搬入口の確保】

【推定所要時間:25分】


任務を開始すると、施設の周囲には複数のNPC作業員がいた。


輸送車両が搬入口へ向かっているが、その前方には機械獣の反応が確認されている。


悠真は地図を開いた。


搬入口は二つある。


正面の搬入口は広く、車両が通りやすい。


一方、東側の搬入口は狭いが、別の道路へ直接つながっている。


「敵は正面から来ているみたいだね」


悠真が言った。


「なら、俺が正面を抑える。お前は東側を確認してくれ」


「分かった」


KAIは正面へ向かった。


悠真は東側の搬入口へ移動した。


そこには、まだ敵の姿はなかった。


しかし、NPCの作業員が車両を待機させていた。


「正面が混雑しています。東側からも輸送を続けたいのですが、周囲の安全を確認できていません」


悠真は周囲を確認した。


東側の道路には障害物があり、車両が通るには少し狭い。


ただし、徒歩での移動には問題がなかった。


悠真は道路の奥まで進み、機械獣の反応がないことを確認した。


「こちらは今のところ安全です。ただ、障害物があるので、車両を通す前に確認が必要です」


NPCは記録を受け取った。


「分かりました。搬入口の周辺を整理します」


その直後、正面から敵の反応が増えた。


悠真は急いで戻った。


⸻


正面の防衛線では、KAIが三体の機械獣を引きつけていた。


敵は施設へ接近しようとしているが、KAIが進路を塞いでいる。


「YUMA、右側から一体抜けた!」


別のプレイヤーの声が聞こえた。


悠真は右側を確認した。


機械獣が防衛線を迂回し、搬入口へ向かっている。


悠真はその進路を遮るように移動した。


攻撃を仕掛けると、機械獣は悠真へ向きを変えた。


その隙に、近くのプレイヤーが側面から攻撃した。


機械獣は倒れた。


しかし、正面の敵はまだ残っている。


悠真はKAIの位置を確認し、正面へ合流した。


二人はそれぞれの敵を引きつけ、施設から離れた場所へ誘導する。


残ったプレイヤーたちも防衛線を維持し、敵を一体ずつ撃破していった。


やがて、最後の機械獣が倒れた。


【主目標:達成】


【追加目標:達成】


【搬入口:確保】


【最終評価:A】


任務は成功した。


⸻


ロビーへ戻ると、KAIが言った。


「東側を先に確認しておいてよかったな」


「うん。もし正面が混雑してから調べていたら、車両を通すのに時間がかかったかもしれない」


悠真は任務記録を確認した。


今回は、敵がどこから攻めてくるかをすべて予測できていたわけではない。


実際、敵の一体は防衛線を迂回していた。


それでも、東側の状況を事前に確認していたため、施設全体の動きを考える余裕があった。


「でも、最初から全部分かっていたわけじゃないよね」


悠真が言った。


「そうだな。途中で敵が抜けたときは、対応するしかなかった」


KAIは装備の耐久値を確認した。


「事前に確認できることと、その場で対応することは別だな」


「うん」


悠真は頷いた。


準備をしておけば、すべてが予想どおりに進むわけではない。


それでも、準備があれば、予想外のことが起きたときに選べる行動が増える。


⸻


その後、二人は訓練場へ移動した。


悠真は、昨日の防衛任務で気になった状況を再現してみることにした。


訓練設定で、正面から攻撃する敵と、側面へ回り込む敵を同時に出現させる。


最初は、悠真が一人で両方に対応した。


正面の敵を攻撃している間に、側面の敵が目標地点へ接近する。


側面へ移動すれば、今度は正面の敵が前進してくる。


「一人だと、両方を完全に抑えるのは難しいね」


悠真が言った。


「だから、複数人で役割を分けるんだろ」


KAIはそう答えた。


次に、二人で役割を分けた。


KAIが正面を抑え、悠真が側面を確認する。


敵の数が増えると、やはり簡単ではなかった。


一度、悠真は側面の敵を追いすぎて、正面の状況を確認できなくなった。


その間に、正面の敵がKAIを押し込んだ。


二人は訓練を中断し、配置を変更した。


今度は、悠真が側面の敵を倒すことだけに集中せず、一定の距離を保ちながら正面の状況も確認できる位置を選んだ。


それでも、すべての敵を完全に止めることはできなかった。


ただ、先ほどよりも長く目標地点を維持できた。


「これなら、少しは使えそうだね」


悠真が言った。


「実際の任務だと、敵の動きも地形も違う。これで全部うまくいくとは限らないけどな」


「分かってる。配置を考えるための参考にはなるよ」


悠真は訓練記録を保存した。


昨日の防衛任務で何が起きたのか、完全に理解できたわけではない。


それでも、似た状況を試してみることで、何が難しいのかは少し分かった。


⸻


夕方。


悠真はログアウトし、リビングへ向かった。


母親が、学校の宿題は終わったかと尋ねる。


「終わったよ。今日は防衛任務をやって、それから訓練場でいろいろ試したんだ」


「うまくできた?」


「最初は難しかった。でも、配置を変えたら少しよくなったよ」


「一度でうまくいかなくても、変えられるところを探せばいいのね」


「うん。ただ、訓練場でできても、実際の任務で同じようにできるとは限らないけど」


母親は笑った。


「それなら、また実際に試してみればいいのね」


悠真は頷いた。


訓練場で試したことは、まだ一つの参考にすぎない。


実際の任務では、敵の動きも、味方の行動も、周囲の状況も変わる。


それでも、何も考えずに挑むより、試しておいた方が役に立つことはある。


悠真は夕食の準備を手伝いながら、次に防衛任務へ参加するときのことを考えた。


次も同じ状況になるとは限らない。


けれど、今日試したことが、どこかで役に立つかもしれない。


そのときに必要なのは、訓練で覚えた動きをそのまま繰り返すことではなく、目の前の状況を見て使い方を考えることだった。

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