第126章 選ばなかった任務
水曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーに新しい高難度任務が追加されていた。
【任務名:南部動力施設・緊急防衛】
【制限時間:40分】
【主目標:動力施設の防衛】
【追加目標:補助電源の稼働維持】
【推奨戦力:高】
任務の詳細には、敵の種類が一部未確認と記されていた。
悠真は少し考えた。
以前、同じ施設の防衛任務に参加したことがある。
あのときはKAIとRIONと一緒に挑戦し、A評価で終わった。
今回は敵の構成が違うらしい。
もう一度挑戦するには、ちょうどいい機会かもしれない。
しかし、募集欄を見ると、参加者はまだ少なかった。
「……どうしようかな」
悠真は任務の詳細を閉じ、通常任務の一覧を開いた。
その中に、森林地帯の機械獣討伐があった。
【任務名:森林地帯・機械獣討伐】
【推定所要時間:15分】
【主目標:指定機械獣の撃破】
【追加条件:周辺作業区域への侵入を防ぐ】
こちらなら、時間を調整しやすい。
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:今日は森林地帯の討伐任務にしようと思う】
【KAI:高難度の防衛任務はやらないのか?】
【YUMA:少し気になっているけど、今日は短い任務にしておく】
【KAI:分かった。俺もそっちに行く】
悠真は通常任務を受注した。
⸻
森林地帯では、NPCの作業員たちが資材を運んでいた。
機械獣が現れたのは、その作業区域から少し離れた場所だった。
悠真は敵の位置を確認し、KAIと役割を分けた。
KAIが前に出て敵を引きつける。
悠真は側面から攻撃し、敵が作業区域へ向かわないように進路を調整した。
機械獣は二体。
一体を倒すと、もう一体が急に方向を変えた。
悠真は追撃を止め、敵の移動先を確認した。
敵は作業区域ではなく、森林の奥へ向かっている。
「KAI、こっちへ誘導する」
「了解」
二人は敵を作業区域から遠ざけながら攻撃を続けた。
やがて機械獣は動きを止めた。
【任務完了】
【討伐数:規定数達成】
【作業区域への侵入:なし】
【最終評価:A】
「短い任務でも、気を抜けないね」
悠真が言った。
「敵がどこへ向かうか分からないからな」
KAIは装備の耐久値を確認した。
大きな損傷はない。
二人は報酬を受け取り、ロビーへ戻った。
⸻
ロビーに戻ると、南部動力施設の防衛任務には、少しずつ参加者が集まっていた。
悠真は募集欄を開いた。
参加者は増えている。
しかし、任務はまだ開始されていなかった。
「人数が集まってきたね」
「そうだな」
KAIが答えた。
「今から参加する?」
悠真は任務の詳細をもう一度確認した。
残り時間を考えれば、挑戦できないわけではない。
ただ、敵の構成は未確認で、必要な準備も十分とは言えなかった。
それに、今日は短い任務を選ぶと決めていた。
「今日はやめておくよ」
悠真は募集画面を閉じた。
「また今度、時間があるときに参加する」
「分かった。俺はもう少し装備を調整しておく」
KAIは訓練場へ移動した。
悠真はロビーに残り、別の募集を眺めた。
高難度任務は、いつでも挑戦できるとは限らない。
参加者が集まらない日もある。
敵の情報が不足していることもある。
それでも、今すぐ参加しなければならないわけではなかった。
⸻
しばらくすると、動力施設の任務開始が告知された。
【南部動力施設・緊急防衛】
【参加者:18名】
【任務開始】
悠真は告知を開いた。
参加者が転送され、任務が始まったらしい。
詳細画面には、施設の耐久値や補助電源の状態が表示されていた。
最初の数分は、敵の接近を防げていた。
しかし、十分ほど経過したところで、補助電源の耐久値が急激に低下した。
【補助電源:損傷】
【施設防衛:継続中】
「裏側から攻められたのかな」
悠真は記録を見ながら呟いた。
ただ、表示されている情報だけでは、詳しい状況までは分からない。
やがて、任務の途中経過が更新された。
【補助電源:停止】
【主目標:防衛継続】
補助電源は停止したが、動力施設そのものはまだ守られている。
任務は続いていた。
悠真はそのまま記録を見ていたが、途中で画面を閉じた。
今から参加できるわけではない。
結果が出れば、記録は公開される。
今できることは、それを待つことだった。
⸻
夕方。
悠真はログアウトする前に、動力施設の防衛任務の結果を確認した。
【任務終了】
【主目標:達成】
【追加目標:未達成】
【最終評価:B】
施設の防衛には成功した。
しかし、補助電源を守り切ることはできなかったらしい。
詳細記録には、後半に敵の攻撃が集中したと記されていた。
悠真は記録を保存した。
「やっぱり、簡単ではなかったんだな」
参加していれば、自分も別の判断をしていたかもしれない。
補助電源を守ることを優先したかもしれないし、施設全体の防衛を重視したかもしれない。
けれど、実際にその場にいなかった以上、どちらが正しかったかは分からない。
結果だけを見て、参加者の判断を決めつけることもできなかった。
悠真は画面を閉じた。
⸻
夕食のあと、母親が尋ねた。
「今日は何をしていたの?」
「森林地帯の討伐任務をやったよ。それから、高難度の防衛任務が募集されていたけど、参加しなかった」
「やりたくなかったの?」
「やりたくないわけじゃないよ。少し気になっていたけど、今日は短い任務にしておこうと思ったんだ」
母親は頷いた。
「参加できることと、参加することは別なのね」
「うん。参加しようと思えばできたけど、今日はやめておいた」
「その任務は、もうできないの?」
「また募集されるかもしれないし、同じ施設の任務が出ることもあると思う」
悠真は今日のことを振り返った。
目の前に機会があれば、参加したくなることはある。
特に、自分がまだ十分に経験していない任務なら、なおさらだ。
しかし、すべての機会に応じる必要はない。
今の自分にできることと、今やることを分けて考えてもいい。
悠真は食器を片づけ、自分の部屋へ戻った。
明日も《クロスギア》にはログインするつもりだった。
ただ、何をするかは、まだ決めていない。
ロビーを見てから選べばいい。
今日選ばなかった任務が、明日も募集されているとは限らない。
それでも、今日の選択が間違いだったと決まるわけではなかった。




