第124章 見えない差
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーは昨日の共同作戦の話題で賑わっていた。
【オンラインプレイヤー:241,693】
週末ということもあり、平日より多くのプレイヤーが接続している。
『昨日の共同作戦、A評価だった』
『山岳設備の防衛に行ったけど、結構ぎりぎりだったぞ』
『輸送路の方は最後まで通行制限が残ったらしい』
『全部解決しなくても成功になるんだな』
『目標ごとに評価が違うからじゃないか?』
悠真はチャットを読みながら、昨日の作戦記録を開いた。
補給拠点は確保された。
山岳設備も守られた。
輸送路には通行制限が残った。
それでも、区域全体の評価はAだった。
すべてを完全に解決することだけが、成功の条件ではないらしい。
ただし、何を残してもいいというわけでもない。
今回の作戦では、輸送路の危険箇所を確認し、制限を継続する判断が行われていた。
危険が残っていることを確認せずに、無理に通行させる方が問題だったのだろう。
悠真は記録を閉じた。
今日は別のことをしようと思った。
⸻
ロビーの募集一覧に、対戦イベントの告知が表示されていた。
【週末模擬戦】
【形式:3対3】
【参加条件:なし】
【勝敗記録:通常ランキングに反映】
【連続参加:可能】
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:模擬戦の募集があるよ】
【KAI:見た。今日は何戦かやるつもりだ】
【YUMA:僕も参加する】
【KAI:RIONにも声をかけておく】
しばらくすると、RIONから返信が来た。
【RION:参加する。ただし、今日は遠距離装備を変更している。いつもと同じ動きにはならないと思う】
【YUMA:分かった。僕も昨日とは違う装備を使ってみる】
三人は参加登録を済ませた。
⸻
最初の対戦相手は、近接型のプレイヤーを中心としたチームだった。
試合が始まると、相手は中央の目標地点を無視して、悠真たちへ一気に接近してきた。
「正面から来るのか」
KAIが敵の攻撃を受け止める。
RIONは距離を取り、射撃を開始した。
悠真は側面へ回り、敵の動きを見た。
相手の攻撃は激しかったが、三人の連携は十分ではなかった。
先頭の敵が攻撃を仕掛けるたびに、後方の二人との距離が開いていく。
悠真は、その隙間を狙った。
KAIが正面を抑え、RIONが援護する。
悠真は後方の敵へ攻撃を加え、相手の陣形を崩した。
そのまま目標地点を確保し、試合に勝利した。
【対戦結果:勝利】
【個人評価:A】
「相手は攻撃力が高かったな」
KAIが言った。
「でも、三人が同時に動いていたわけじゃなかった」
悠真は対戦記録を見た。
相手の攻撃そのものは強かった。
しかし、攻撃の強さと、チームとしての動きやすさは別だった。
⸻
二戦目。
今度の相手は、距離を保ちながら戦うチームだった。
戦闘開始直後、RIONが射撃を試みたが、相手はすぐに遮蔽物へ移動した。
悠真たちが前進すると、相手は後退する。
追いかければ、別の方向から攻撃を受ける可能性があった。
「簡単には近づかせてくれないね」
悠真が言った。
「なら、無理に追う必要はない」
KAIは中央の目標地点を指した。
三人は陣形を崩さず、目標地点を維持することにした。
相手は何度か攻撃を仕掛けてきたが、決定的なダメージを与えられなかった。
そのうち、敵の一人が側面へ大きく回り込んだ。
悠真はすぐに追撃せず、味方の位置を確認した。
RIONが敵の進路を見ている。
KAIも中央を維持できる位置にいる。
ならば、今は目標地点を離れる必要はない。
悠真は攻撃を受け流しながら、相手が戻ってくるのを待った。
最後は、敵の陣形が崩れた瞬間に三人で前進し、勝利を収めた。
【対戦結果:勝利】
【個人評価:A】
「さっきとは全然違う戦い方だったね」
悠真が言った。
「相手が変われば、こっちも変えないといけないからな」
KAIが答えた。
⸻
三戦目。
今度は、相手の動きが読みにくかった。
前に出ると思えば後退し、目標地点を狙うと思えば急に方向を変える。
悠真は相手の動きを予測し、何度か攻撃を仕掛けた。
しかし、そのたびに相手は予想とは違う動きを見せた。
「……あれ?」
一度、悠真は敵の退路を塞ごうとして、味方から離れすぎた。
その瞬間、敵の一人が方向を変え、悠真を狙ってきた。
悠真は防御したが、続く攻撃を受けて耐久値が大きく減少した。
「YUMA、戻れ!」
KAIの声が響く。
悠真は攻撃を続けず、後退した。
だが、相手は追撃をやめなかった。
RIONが援護射撃を行い、悠真はその隙に陣形へ戻った。
それでも、序盤に失った耐久値の差は大きかった。
終盤、三人は目標地点を取り返そうとしたが、相手の連携を崩せず、敗北した。
【対戦結果:敗北】
【個人評価:B】
悠真は画面を見つめた。
「最初の動きに引っ張られたな」
KAIが言った。
「うん。相手が次に何をするか、決めつけていた」
悠真は記録を再生した。
敵は、悠真が予想した行動を取らなかった。
それ自体は、相手が間違っているわけではない。
むしろ、こちらが予測に頼りすぎていた。
「動きを読むのは大事だけど、読んだとおりに動くとは限らないんだね」
「そういうことだ」
KAIが答えた。
悠真は敗北記録を保存した。
⸻
三人はもう一戦だけ行い、その後は対戦を終えることにした。
最後の試合は勝利だったが、悠真は三戦目のことを考えていた。
相手の行動を予測する。
予測した動きに合わせて、自分の行動を決める。
それ自体は間違いではない。
ただし、予測が外れたときに、すぐに修正できなければ危険になる。
次に何をするかを決める前に、今の状況をもう一度確認する。
それができていれば、あの場面で味方から離れすぎることもなかったかもしれない。
悠真はランキングを開いた。
【総合ランキング】
【1位:KAI】
【2位:RION】
【3位:YUMA】
順位は変わっていなかった。
今日の対戦で負けたからといって、すぐに順位が変わるわけではない。
反対に、勝ったからといって、必ず順位が上がるわけでもない。
記録は一つの結果を示している。
それだけで、すべてが分かるわけではなかった。
⸻
昼過ぎ。
悠真は一度ログアウトし、休憩を取った。
少し横になってから、再び端末の前に座る。
午後は、短い探索任務を一つだけ受けることにした。
【任務名:森林地帯・巡回調査】
【主目標:指定区域の巡回】
【追加条件:異常を発見した場合は記録する】
現地へ到着すると、森林の小道に倒木があった。
通行そのものはできるが、車両が通るには少し狭い。
悠真は周囲を確認し、近くにいたNPCへ報告した。
「ここは、しばらく車両を通さない方がよさそうです」
NPCは倒木を確認した。
「そうですね。撤去の準備ができるまでは、徒歩での通行に切り替えましょう」
悠真は記録を送信した。
その後も指定区域を巡回し、任務を終えた。
【任務完了】
【異常報告:1件】
【最終評価:A】
特別な敵との戦闘はなかった。
新しい装備を試すこともなかった。
それでも、任務としては成立していた。
悠真は報酬を受け取り、ロビーへ戻った。
⸻
夕方、悠真はログアウトした。
母親は、悠真がリビングへ来ると尋ねた。
「今日はずいぶん長く遊んでいたわね」
「午前中は対戦をして、午後は少し休んでから探索任務をやったんだ」
「対戦はどうだった?」
「二回勝って、一回負けたよ」
「負けたときは、何があったの?」
悠真は少し考えた。
「相手がどう動くか予想していたんだけど、思ったとおりに動かなかった。それで、味方から離れすぎたんだ」
「そうだったの」
「相手の動きを考えることは必要だけど、予想が外れたときに、すぐに動き直せないと困るんだね」
母親は頷いた。
「考えることと、実際に起きたことを確認することは、別なのね」
「うん」
悠真は今日の対戦を思い返した。
予測は、次の行動を決めるために役立つ。
しかし、現実の動きが予測と違ったとき、予測にこだわり続けても状況は変わらない。
そのときに必要なのは、間違っていたと認めることだけではない。
今、何が起きているのかを確認し、次の行動を選び直すことだ。
悠真は明日の学校の準備を済ませた。
今日は、いつもより少し長く遊んだ。
だから、明日はログインする時間を短くしてもいい。
何をするかは、明日になってから決めればいい。
悠真は端末を片づけ、夕食の席へ向かった。




