第123章 いつもと違う募集
土曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーの上部に新しい告知が表示されていた。
【週末共同作戦】
【開催時間:本日 14:00~15:00】
【作戦区域:東部岩山】
【参加形式:自由参加】
【目標:区域内の複数任務を共同で達成する】
「共同作戦か」
悠真は告知を開いた。
通常のワールドボス戦とは違い、一体の巨大な敵を倒すことが目的ではないらしい。
作戦区域には複数の目標が設定され、参加したプレイヤーたちは状況に応じて各任務へ向かう。
ある場所では設備を守り、別の場所では機械獣を排除する。
任務ごとに評価される一方、区域全体の進行状況も記録されるようだった。
悠真は開催時刻を確認した。
まだ開始まで時間がある。
ロビーでは、すでに参加者を募集するチャットが流れていた。
『東側の防衛任務に行く人いる?』
『輸送任務があるならそっちに参加したい』
『前回の共同作戦、途中から敵が増えたよな』
『今回はどうなるんだろう』
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:今日の共同作戦、参加する?】
【KAI:参加するつもりだ。まだ内容を見ているところ】
【YUMA:僕も行こうと思う】
【KAI:なら、開始前に合流しよう】
悠真は参加登録を済ませた。
⸻
開始時刻が近づくと、作戦区域の概要が公開された。
【東部岩山・共同作戦】
【第一目標:補給拠点の確保】
【第二目標:輸送路の安全確保】
【第三目標:山岳設備の防衛】
【区域状況:詳細不明】
それぞれの目標には推奨人数が設定されていた。
補給拠点には比較的多くのプレイヤーが必要とされ、輸送路の安全確保には移動速度と索敵能力が重視されている。
山岳設備の防衛は、敵の侵入を防ぎながら一定時間設備を守る任務だった。
「どこに行く?」
KAIが尋ねた。
悠真は三つの目標を見比べた。
「最初は輸送路かな。道の状況を見てから決めたい」
「分かった。俺もそっちに行く」
作戦開始の通知が表示された。
二人は東部岩山へ転送された。
⸻
現地には、すでに多くのプレイヤーが集まっていた。
山の斜面には補給用の車両が並び、少し離れた場所ではNPCの作業員が設備の点検を進めている。
悠真は地図を開いた。
輸送路の一部に、黄色い警告表示が出ている。
【輸送路:通行注意】
【原因:未確認】
【推奨行動:現地確認】
「まず、ここを確認しよう」
二人は警告地点へ向かった。
道路そのものは通行できたが、斜面から小さな石が落ちてきていた。
大規模な崩落ではない。
しかし、輸送車両が通るには危険がある。
近くのNPCが、道路脇に簡易標識を設置していた。
「上の斜面を確認する必要があります。車両は一時的に別の経路へ回してください」
悠真は地図を見た。
迂回路はある。
ただし、距離は長く、途中に狭い区間もある。
「KAI、僕たちは斜面の下側を確認しよう。上は別の人たちが見ているみたいだ」
「了解」
二人は道路脇を移動し、落石の範囲と周囲の状況を確認した。
その途中、斜面の陰から機械獣が二体現れた。
「敵だ!」
KAIが前に出る。
悠真は周囲を確認し、輸送路から離れた位置へ敵を誘導した。
機械獣の動きは速くなかったが、狭い場所で戦えば道路脇の設備を壊す可能性がある。
二人は攻撃を重ね、短時間で敵を撃破した。
【現地確認:完了】
【確認事項:落石の危険あり】
【追加敵性反応:排除済み】
悠真は記録を送信した。
⸻
輸送路の確認を終えた二人は、次の目標へ向かおうとした。
そのとき、作戦区域全体に通知が流れた。
【区域状況更新】
【補給拠点:確保済み】
【輸送路:一部通行制限】
【山岳設備:敵性反応増加】
山岳設備の表示が黄色から赤へ変わっていた。
「敵が増えたみたいだな」
KAIが言った。
「うん。防衛の人数が足りないのかもしれない」
悠真は地図上の参加者分布を確認した。
補給拠点には多くのプレイヤーが集まっている。
輸送路には、通行制限の確認に向かったプレイヤーが残っていた。
一方、山岳設備には十分な人数が集まっていない。
「こっちを手伝おう」
二人は進路を変更した。
⸻
山岳設備に到着すると、複数の機械獣が施設の外周へ接近していた。
防衛に参加しているプレイヤーたちは、それぞれの位置で敵を迎撃している。
しかし、敵の一部が防衛線の隙間を抜け、設備の裏側へ回ろうとしていた。
「裏に行く敵がいる!」
悠真はすぐに追いかけず、地図を確認した。
裏側には、設備の制御装置がある。
敵がそこへ到達すれば、防衛任務そのものが難しくなる可能性があった。
「KAI、正面を頼む。僕は裏へ回る」
「分かった。無理はするなよ」
悠真は通路を走った。
裏側へ回った機械獣は二体。
一体は制御装置へ向かい、もう一体は追いかけてきたプレイヤーを攻撃していた。
悠真は制御装置へ向かう敵を優先した。
攻撃を当てて注意を引き、設備から離れた方向へ誘導する。
その間に、別のプレイヤーが追いついた。
二人で挟み込む形になり、機械獣を撃破する。
残る一体も、正面から回ってきたKAIたちによって倒された。
【山岳設備:防衛継続】
【設備耐久値:78%】
敵はまだ残っていたが、制御装置への侵入は防げた。
悠真は一度、周囲を見渡した。
プレイヤーたちは互いに声をかけながら、空いている場所へ移動している。
最初から全員が同じ場所に集まっていたわけではない。
状況が変わるたびに、必要な場所へ人が動いていた。
⸻
作戦終了まで、残り十数分。
山岳設備への攻撃は徐々に弱まった。
輸送路の危険箇所には臨時の補強が施され、補給拠点から必要な資材も運び込まれていた。
悠真たちは最後まで防衛を続けた。
そして、作戦終了の通知が表示された。
【週末共同作戦:終了】
【補給拠点:確保】
【輸送路:一部通行制限を継続】
【山岳設備:防衛成功】
【区域総合評価:A】
すべての問題が解決したわけではない。
輸送路には、引き続き点検が必要な区間が残っている。
それでも、補給拠点は確保され、山岳設備も守り切った。
作戦全体としては成功だった。
「最初に選んだ場所とは、全然違うところで戦っていたな」
KAIが言った。
「そうだね。でも、途中で状況が変わったから」
「最初から全部分かっていたわけじゃないしな」
悠真は頷いた。
今回の作戦では、敵の出現場所も、必要な人数も、最初から完全には分からなかった。
参加者たちは、見えている情報をもとに行動し、状況が変われば移動した。
誰か一人の判断ですべてが決まったわけではない。
それぞれが自分の見たものを報告し、足りない場所を補い合った結果だった。
⸻
ロビーへ戻ったあと、悠真は共同作戦の記録を確認した。
自分の個人評価はA。
特別に高い数値ではなかったが、輸送路の確認と山岳設備の防衛で、それぞれ貢献が記録されていた。
KAIの評価もAだった。
「今日は、いつもの任務とは違ったね」
悠真が言った。
「敵を倒すだけじゃなくて、どこを守るかも考えないといけなかったからな」
「うん。誰かが敵を倒していても、別の場所が空いていたら困るし」
二人は短く話したあと、KAIが先にログアウトした。
悠真も、記録を保存してログアウトした。
⸻
夕食の準備を手伝っていると、母親が尋ねた。
「今日は何をしていたの?」
「みんなで協力する作戦に参加したんだ。最初は道路の確認をしていたんだけど、途中で別の場所に敵が増えたから、そっちへ移動したよ」
「予定が変わったのね」
「うん。でも、最初に決めた場所だけを守っていたら、設備が危なかったかもしれない」
母親は、食卓に皿を並べた。
「周りの状況を見ることも必要なのね」
「そうだね。自分の任務だけ終わればいい、というわけじゃなかった」
悠真は今日の作戦を思い返した。
自分が何をするかを決めることは大切だ。
しかし、周りで何が起きているのかを知らなければ、選んだ行動が役に立つとは限らない。
そして、一度決めたことでも、状況が変われば考え直す必要がある。
悠真は夕食を食べながら、明日どんな任務を受けようか考えた。
まだ決めてはいない。
明日ログインしたとき、どんな募集があるかを見てから決めればいい。
今日と同じ一日になるとは限らないのだから。




