第122章 予定どおりにはいかない
金曜日。
悠真は学校から帰ると、宿題を済ませてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:206,527】
ロビーには、昨日の装備検証イベントの結果が公開されていた。
攻撃力、継戦能力、機動性。
各項目の上位装備が表示されているが、総合評価は一つにまとめられていなかった。
悠真は結果を眺めたあと、装備の詳細画面を閉じた。
「今日は普通の任務にしよう」
昨日は装備を試すことに集中していた。
今日は、実際の任務で使ってみたかった。
ちょうど、北部の補給拠点へ部品を運ぶ任務が募集されていた。
【任務名:北部補給路・部品輸送】
【主目標:指定部品の輸送】
【追加条件:輸送車両の損傷を抑える】
【推定所要時間:25分】
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:部品輸送の任務に行かない?】
【KAI:いいぞ。今日は長時間の任務はしないつもりだ】
【YUMA:僕もそのつもり】
二人は任務を受注した。
⸻
輸送車両には、修理用の固定部品と動力装置の交換部品が積まれていた。
出発前、NPCの管理担当者が荷台を確認している。
「部品の数は合っています。ただ、途中の道路で点検作業が予定されています」
「通れなくなるんですか?」
悠真が尋ねた。
「状況によります。作業が終わっていれば通常の道を通れますが、まだ終わっていなければ迂回することになります」
「分かりました」
二人は車両に乗り込んだ。
出発してしばらくすると、道路の前方に作業用の標識が見えた。
点検車両が道の片側を塞いでいる。
【通行制限:継続中】
【通常経路:一時通行不可】
「迂回路に行こう」
悠真が地図を確認した。
しかし、迂回路の入口にも輸送車両が停車していた。
先行する車両が、路面の段差を越えるために誘導を受けているらしい。
「こっちも待つのか」
KAIが言った。
「みたいだね」
悠真は周囲を見た。
先行車両は荷物を多く積んでおり、無理に進めば車体を傷つける可能性がある。
自分たちの車両も同じ道を通る以上、急かしても仕方がない。
二人は車両を安全な場所に停め、順番を待った。
その間、道路脇でNPCの作業員が標識を移動させていた。
古い案内板の向きが、現在の迂回路と合っていないらしい。
悠真は管理担当者に確認した。
「標識を直す作業を手伝えますか?」
「ええ。ですが、輸送任務の車両から離れすぎないでください」
二人は近くの標識を指定された位置へ移動させた。
作業は短時間で終わった。
やがて先行車両が通過し、二人の車両にも進行許可が出た。
迂回路は少し狭かったが、誘導に従って進めば問題はなかった。
北部補給拠点に到着すると、担当者が荷物を受け取った。
部品の数と型番を確認し、受領記録を更新する。
【輸送完了】
【部品の不足:なし】
【車両の損傷:なし】
【最終評価:A】
「結局、予定より時間がかかったね」
悠真が言った。
「でも、失敗したわけじゃない」
KAIはそう答えた。
「うん。道が空いている前提で考えていたから、予定がずれただけだね」
悠真は任務記録を保存した。
出発前の予想は間違っていた。
けれど、予定がずれたことと、任務に失敗したことは同じではない。
状況を確認して、進める方法を選び直せばいい。
⸻
ロビーに戻ると、KAIが対戦任務の募集を見つけた。
【ランクマッチ:3対3】
【参加条件:なし】
【対戦時間:最大15分】
「一戦だけやるか?」
「うん」
二人は参加を申請した。
マッチングが成立し、三人目の味方として別のプレイヤーが加わった。
対戦が始まると、悠真たちは中央の目標地点へ向かった。
序盤は互角だった。
敵の一人が後退し、悠真の攻撃範囲から離れていく。
以前なら、追いかけて決着をつけようとしたかもしれない。
しかし、悠真は敵の移動先を見て、追撃を止めた。
中央の目標地点から離れれば、味方が数的不利になる可能性がある。
「俺は中央を維持する。KAI、左側を見て」
「分かった」
三人は位置を保ちながら、敵の動きを待った。
敵側は何度か攻め方を変えたが、目標地点を奪いきれなかった。
最後の数分、敵が一斉に中央へ集まった。
悠真はすぐに後退せず、味方が合流できる位置まで移動する。
KAIが側面から攻撃し、三人目の味方が敵の進路を塞いだ。
悠真も攻撃に加わり、目標地点を維持した。
【対戦終了】
【勝敗:勝利】
【個人評価:A】
「今のはよかったな」
KAIが言った。
「最初の敵を追いかけなかったから?」
「それもある。でも、最後に三人で動けたのが大きい」
悠真は対戦記録を確認した。
今回は勝った。
ただし、勝因を一つだけに決めることはできなかった。
目標地点を維持したこと。
味方と合流できる位置を選んだこと。
敵が集まったときに、ばらばらに戦わなかったこと。
それらが重なって、結果につながった。
「次も同じように勝てるとは限らないけどね」
悠真が言うと、KAIは笑った。
「だから、次もやるんだろ」
「まあ、そうだね」
⸻
その後、KAIはログアウトした。
悠真も、もう一つ任務を受けるか少し迷った。
ロビーには、長時間の防衛任務や、探索任務の募集が並んでいる。
どれも参加できないわけではない。
しかし、今日はすでに二つの任務と一戦の対戦を終えていた。
時計を見る。
夕食まで、まだ少し時間がある。
「もう一つくらいできそうだけど……」
悠真は募集画面をスクロールした。
そして、手を止めた。
今から任務を受ければ、途中で終わらせることになるかもしれない。
最後まで続けるためには、十分な時間を確保した方がいい。
「今日はここまでにしよう」
悠真はログアウトした。
⸻
現実世界。
悠真が端末を片づけていると、母親が部屋の前から声をかけた。
「今日はもう終わり?」
「うん。輸送任務と対戦を一回やったよ」
「楽しかった?」
「楽しかった。輸送任務は予定より時間がかかったけど、ちゃんと届けられたし」
「予定がずれたのね」
「道路が通れなくなっていて、迂回路も混んでいたんだ」
母親は少し考えてから尋ねた。
「そういうときは、どうするの?」
「状況を見て、待つか別の道を通るか決める。今回は待った方が安全だった」
「最初に考えた予定が、そのまま使えるとは限らないのね」
「うん」
悠真は机の上の端末を片づけた。
「でも、予定が変わったからって、全部やり直しになるわけじゃないよ」
母親は頷いた。
「そうね。変わったところを確認して、できることを考えればいいのね」
「そういうこと」
悠真は宿題の残りを確認した。
今日はもうゲームをしない。
明日、時間があれば、また遊べばいい。
予定どおりに進まないことはある。
それでも、そのたびに全部を諦める必要はない。
悠真は明日の準備を終えると、夕食の時間まで本を読むことにした。




