第121章 変わっていく順位
木曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーにはいつもより多くの任務募集が並んでいた。
【オンラインプレイヤー:209,184】
通常任務のほかに、期間限定の装備検証イベントが始まっている。
参加者が一定数に達すると、検証結果が公開される仕組みらしい。
悠真は詳細を開いた。
【イベント名:戦闘装備検証週間】
【参加条件:なし】
【検証内容:攻撃性能・継戦能力・機動性】
【報酬:検証記録、装備調整用データ】
「装備の比較か」
ちょうど、以前から試してみたい組み合わせがあった。
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:装備検証イベントが始まっているよ】
【KAI:見た。俺は近接装備の検証をするつもりだ】
【YUMA:じゃあ、僕も別の組み合わせを試そうかな】
【KAI:同じ条件で比べるなら、訓練場がいいぞ】
【YUMA:分かった】
二人は訓練場へ移動した。
⸻
悠真が選んだのは、攻撃力を少し高めた中距離装備だった。
以前使っていた安定型よりも、一撃の威力が高い。
その代わり、連続攻撃を行うとエネルギー消費が増える。
訓練用の標的を設定し、同じ距離から攻撃を開始した。
最初の数回は、威力の差がはっきり出た。
高出力型は短時間で標的の耐久値を削る。
しかし、攻撃を続けると、エネルギー残量が急速に減少した。
一方、安定型は一撃の威力こそ低いものの、攻撃を継続できる時間が長かった。
「短い戦闘なら、こっちの方が有利そうだね」
悠真が言った。
「でも、相手が一度距離を取ったらどうなる?」
KAIはそう尋ねた。
悠真は標的の移動設定を変更した。
今度は、標的が一定の間隔で移動し、攻撃可能な時間が短くなる。
高出力型は、攻撃できる瞬間に大きなダメージを与えられた。
ただし、攻撃を外したときの損失も大きい。
安定型は威力が低いものの、攻撃の機会を逃しても立て直しやすかった。
二人は条件を変えながら、何度か検証を繰り返した。
最後に、悠真は記録をまとめた。
高出力型は短時間で決着をつけられる状況に向いている。
安定型は、戦闘が長引いたり、攻撃の機会が限られたりする状況で使いやすい。
どちらが優れているかは、相手や任務の条件によって変わる。
「これなら、任務ごとに使い分けられそうだ」
悠真は検証記録を保存した。
⸻
訓練場を出ると、ランキングが更新されていた。
【総合ランキング】
【1位:KAI】
【2位:RION】
【3位:YUMA】
順位は変わっていない。
しかし、詳細を見ると、三人の評価には違いがあった。
KAIは近接戦闘の成績が高い。
RIONは遠距離攻撃の命中率とダメージ効率に優れている。
悠真は複数の任務形式で安定した成績を残していた。
総合順位だけを見れば、三人は近い位置にいる。
だが、細かな項目では、それぞれ得意分野が違っていた。
悠真はRIONにメッセージを送った。
【YUMA:装備検証イベント、参加した?】
【RION:今やっているところ。遠距離装備を比較している】
【YUMA:どう?】
【RION:高威力型は命中させられれば強い。でも、相手の動きが変わると安定しない】
【YUMA:やっぱり、条件によって変わるんだね】
【RION:そういうこと。数字だけでは決められない】
悠真はその返事を読み、訓練場で作成した記録をもう一度開いた。
同じ装備でも、戦闘条件が違えば結果は変わる。
装備の性能だけでなく、どのように使うかも重要だった。
⸻
その後、三人は通常の討伐任務に参加した。
森林地帯の奥に、機械獣の群れが確認されたという。
【任務名:森林地帯・機械獣群討伐】
【主目標:指定機械獣の撃破】
【追加条件:周辺設備の損傷を抑える】
現地に到着すると、複数の機械獣が古い作業設備の周辺を移動していた。
攻撃を仕掛ける前に、悠真は周囲を確認した。
設備の近くで大きな攻撃を使えば、敵だけでなく周囲の構造物にも被害が出る可能性がある。
「RION、遠くから動きを見られる?」
「できる。KAIは近づきすぎないようにして」
RIONが射撃位置を確保し、敵の動きを観察する。
KAIは先頭の機械獣を引きつけ、設備から離れた場所へ誘導した。
悠真は二人の位置を見ながら、敵が移動する方向を調整した。
最初の一体を倒すと、残りの機械獣が別々の方向へ散った。
悠真はすぐには追わなかった。
一体を追いかければ、別の敵が設備へ向かう可能性がある。
「先に右側を止めよう。RION、そっちは任せる」
「了解」
三人は役割を分けて対応した。
戦闘は予定より少し長引いたが、周辺設備への被害を抑えながら、すべての敵を倒すことができた。
【任務完了】
【討伐数:規定数達成】
【周辺設備の損傷:なし】
【最終評価:A】
「今のは、装備よりも位置取りが大きかったな」
KAIが言った。
「装備を変えたからって、全部解決するわけじゃないね」
悠真は記録を保存した。
検証で得た知識は役に立った。
しかし、それだけで戦闘が決まったわけではない。
三人の位置関係や、敵の動きに合わせた判断も必要だった。
⸻
任務終了後、RIONは別の予定があるためログアウトした。
KAIも装備の調整を終えると、今日はここまでにすると言った。
悠真はロビーに残り、イベントの参加者一覧を確認した。
短時間で何度も検証を行うプレイヤーもいれば、一つの装備を使い続けて記録を取っているプレイヤーもいた。
同じイベントでも、取り組み方は違っていた。
ランキングの順位だけを目指す人もいる。
装備の使い勝手を知りたい人もいる。
いつも使っている機体を、少しでも扱いやすくしたい人もいる。
悠真は自分の記録を見た。
総合ランキングは三位。
それでも、装備のすべての項目で三位というわけではない。
得意なこともあれば、まだ試していないこともある。
悠真はイベント画面を閉じた。
「少しずつ試せばいいか」
⸻
夕食前、悠真はログアウトした。
母親は、悠真が食卓の準備を手伝っているときに尋ねた。
「今日は何をしていたの?」
「新しい装備を試していたんだ。同じ装備でも、相手の動きや戦闘時間によって結果が変わるんだよ」
「じゃあ、一番強い装備を決めるのは難しいのね」
「うん。短い戦闘なら強い装備が便利だけど、長く戦うなら別の装備が使いやすいこともある」
母親は食器を並べながら言った。
「使う場所によって、向いているものが違うのね」
「そうだね」
悠真は頷いた。
ランキングを見ると、順位が気になることはある。
KAIは一位で、RIONは二位、自分は三位。
けれど、順位だけでは分からないことも多かった。
どんな任務に向いているのか。
何を得意としているのか。
どのような状況で力を発揮できるのか。
それらは、実際に試してみなければ分からない。
悠真は明日の学校の準備を終え、机の上に検証記録を置いた。
次にログインしたら、今日とは違う条件でも試してみよう。
そう考えながら、彼は端末の電源を切った。




