第120章 確認されたもの
水曜日。
悠真は学校から帰り、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:205,927】
ロビーを開くと、昨日気になっていた北部旧市街の追加調査について、新しい記録が公開されていた。
【任務名:北部旧市街・旧設備追加調査】
【調査状態:完了】
【公開記録:一部】
【追加調査:未定】
悠真は詳細を開いた。
調査チームは、建物の入口周辺と外部の設備番号を確認したらしい。
しかし、建物内部の設備状態については、まだ確認されていなかった。
公開された記録には、短い説明が添えられていた。
【外部設備番号:照合完了】
【管理記録:一部欠損】
【内部設備:未確認】
【現時点での異常:特定できず】
「結局、中は分からなかったんだ」
悠真は記録を読み直した。
昨日、自分が確認したときと、分かっていることは大きく変わっていない。
ただ、外部の設備番号が照合されたことで、管理記録の一部が整理されたらしい。
それでも、内部設備の状態は分からないままだった。
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:旧設備の調査結果が出ていたよ】
【KAI:何か見つかったか?】
【YUMA:外の設備番号は確認できたみたい。でも、中の状態はまだ分からないって】
【KAI:じゃあ、まだ追加調査が必要かもしれないな】
【YUMA:そうだね】
悠真は記録を保存した。
⸻
今日は、別の任務を選ぶことにした。
任務一覧を確認していると、森林地帯の輸送任務が目に入った。
【任務名:森林地帯・補修資材輸送】
【主目標:指定資材の納入】
【追加条件:納入数量の確認】
【推奨人数:1~3人】
悠真は募集画面を開いた。
KAIも参加できるという。
二人は必要な装備を整え、任務を開始した。
⸻
森林地帯の資材置き場には、木材や固定部品、補修用の金属板が並べられていた。
管理担当NPCが、今回運ぶ資材の一覧を提示する。
「こちらの資材を、北側の補修拠点まで運んでください。到着後、数量を確認してから納入をお願いします」
悠真は一覧を見た。
木材が十二本。
固定部品が二十個。
金属板が六枚。
数量は明確だった。
二人は積み込みを手伝い、一覧と現物を照合した。
すべて一致している。
作業車両が出発した。
⸻
補修拠点へ向かう道は、以前も通ったことがある。
ただし、今回は途中の分岐点に新しい案内表示が設置されていた。
【北側補修拠点:右折】
【旧作業路:通行制限中】
悠真は表示を確認した。
以前は旧作業路への案内もあったが、現在は通行制限が表示されている。
「こっちの道、使えなくなったのかな」
KAIが言った。
「理由は分からないけど、今は右へ行くように書いてあるね」
運転担当NPCも、案内に従って右折した。
悠真は旧作業路の方向を一度だけ見たが、車両はそのまま補修拠点へ向かった。
任務の目的は、資材を届けることだ。
通行制限の理由を調べることではない。
⸻
補修拠点に到着すると、作業員NPCが資材の受け取り準備をしていた。
しかし、木材を確認したところで、担当者が手を止めた。
「すみません。こちらの木材は、指定された長さと一致していますか?」
悠真は積荷の表示を確認した。
一覧には、長さの異なる二種類の木材が記載されている。
ところが、積荷の箱には、種類を示す表示しかなかった。
「箱の中で分かれているんですか?」
「はい。ただ、表示が見えにくくなっています」
KAIが箱の側面を確認した。
木材は長さごとに分けられていたが、表示の一部が擦れて読みにくくなっていた。
二人は箱を開け、木材の長さを一本ずつ確認した。
数量は一致している。
種類ごとの内訳も、一覧と同じだった。
「木材自体は問題ないね」
悠真が言った。
「そうですね。表示を修正してから受け取ります」
担当者は箱の表示を更新した。
そのあと、固定部品と金属板も確認された。
すべての資材が受領されると、任務完了の通知が表示された。
【任務完了】
【納入数量:一致】
【資材の破損:なし】
【最終評価:A】
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ロビーへ戻ると、KAIは装備の調整を始めた。
悠真は今回の任務記録を確認した。
積荷の数量は、最初から正しかった。
ただ、表示が読み取りにくかったため、受け取り側で確認が必要になった。
もし表示だけを見て受け取りを済ませていたら、後から種類の違いが問題になった可能性もある。
一方、木材を確認した結果、数量や種類に問題がなかったことも分かった。
悠真は記録を保存した。
「今日は、このあとどうする?」
KAIが尋ねた。
悠真は時計を確認した。
まだ時間はある。
「短い戦闘任務を一つやりたいな」
二人は森林地帯の討伐任務を選んだ。
今度は、確認や輸送ではなく、戦闘そのものが目的だった。
⸻
任務開始直後、敵は二方向から現れた。
KAIは近くの敵を引きつけ、悠真は少し離れた場所にいる敵の動きを確認した。
敵の一体が後退すると、悠真は追撃しようとした。
しかし、相手は岩場の向こうへ移動している。
その先に何があるかは見えない。
悠真は一度立ち止まり、KAIの位置を確認した。
「先にこっちを片づけよう」
KAIも同意した。
二人は目の前の敵を倒し、そのあと岩場の向こうへ進んだ。
残っていた敵は一体だけだった。
周囲を確認してから攻撃を仕掛け、短時間で撃破した。
【任務完了】
【最終評価:A】
「今の、追いかけなくて正解だったな」
KAIが言った。
「うん。先に目の前の敵を倒した方が、安全だったと思う」
悠真は記録を保存した。
追いかけること自体が悪いわけではない。
ただ、相手の位置だけを見て動くと、周囲の状況を見落とすことがある。
今回は、先に近くの敵を倒す方がよかった。
悠真はその違いを覚えておくことにした。
⸻
夕方、悠真はログアウトした。
母親が夕食の準備をしていると、悠真が部屋から出てきた。
「今日はどうだった?」
「資材を運ぶ任務をやったよ。木材の表示が読みにくくなっていて、受け取りのときに確認が必要だった」
「中身は間違っていたの?」
「ううん。数量も種類も合っていたよ。ただ、表示が分かりにくかったから、確認してから受け取ったんだ」
母親は頷いた。
「表示が正しく読めないと、中身が合っていても困ることがあるのね」
「そうだね。だから、確認してから表示を直したんだと思う」
悠真は食卓の準備を手伝った。
⸻
夜、悠真は机に向かい、明日の学校の準備を済ませた。
そのあと、端末の画面を少しだけ確認した。
北部旧市街の旧設備について、新しい情報はまだ出ていない。
追加調査が行われるかどうかも、決まっていなかった。
悠真は画面を閉じた。
分からないことが残っているからといって、毎日そのことを考え続ける必要はない。
新しい情報が出れば、そのときに確認すればいい。
今は、今日の任務を終えた。
それで十分だった。
悠真は端末を充電器につなぎ、ベッドに入った。
明日も学校がある。
次にログインしたとき、また新しい任務が見つかるかもしれない。
何も変わっていないかもしれない。
どちらでも、またそのときに考えればよかった。




