第119章 選ばなかった任務
火曜日。
悠真は学校から帰ると、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:206,481】
ロビーには、いつもどおり任務募集が並んでいた。
悠真はランキングを確認してから、参加可能な任務を開いた。
高難度任務が二つ。
通常討伐がいくつか。
そして、北部旧市街の設備調査には、新しい募集が追加されていた。
【任務名:北部旧市街・旧設備追加調査】
【状態:参加者募集中】
【対象:管理記録未確認設備】
【備考:現地確認の範囲は任務開始時に指定】
昨日、自分が確認した設備の一つが対象になっている。
悠真は詳細を開いた。
管理記録が途中で途切れていた、あの建物だ。
「もう追加調査をするんだ」
少し気になった。
しかし、任務の募集人数は二人までで、予定時間も四十分と表示されていた。
今日は母親から、夕食前に一度ログアウトするよう言われている。
悠真は時計を確認した。
参加すること自体はできる。
ただ、調査の進み方によっては、予定時間を超える可能性もある。
悠真は募集画面を閉じた。
「今日は、別の任務にしよう」
⸻
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:今日は何かやる?】
【KAI:高難度の設備防衛が出ている。参加するなら今からでも間に合うぞ】
【YUMA:何分くらい?】
【KAI:制限時間は45分。準備を含めると、少し余裕を見た方がいい】
【YUMA:今日は夕食前にログアウトする約束だから、別のものにするよ】
【KAI:分かった。じゃあ短い任務にしよう】
二人は通常の森林地帯討伐を選んだ。
【任務名:森林地帯・機械獣討伐】
【主目標:指定機械獣の撃破】
【制限時間:20分】
任務が始まると、二体の機械獣が現れた。
一体は近距離で攻撃し、もう一体は少し離れた位置から援護している。
KAIが近距離の敵を引きつけ、悠真は遠距離の敵へ向かった。
敵は後退しながら攻撃してきたが、悠真は無理に距離を詰めなかった。
射撃を避け、岩場を利用しながら少しずつ位置を変える。
やがてKAIが近距離の敵を倒し、二人で残る一体を攻撃した。
【任務完了】
【最終評価:A】
「これなら、ちょうどいい時間だったな」
KAIが言った。
悠真は任務記録を保存した。
高難度任務を選ばなかったからといって、何もできなかったわけではない。
今日は短い任務を一つ終えた。
それで十分だった。
⸻
ロビーへ戻ると、RIONから連絡が届いていた。
【RION:今、旧設備の追加調査が始まったみたいだ】
【YUMA:そうなんだ。昨日の建物かな?】
【RION:たぶん。募集内容を見る限り、そうだと思う】
悠真は任務一覧を開き、追加調査の表示を確認した。
【任務状態:進行中】
【参加受付:終了】
すでに調査チームが出発していた。
悠真は詳細を見たが、現地の情報はまだ公開されていない。
「どうなったんだろう」
気にはなった。
しかし、参加しなかった以上、今すぐ結果を知る方法はない。
悠真は別の任務を探そうとしたが、時計を見て手を止めた。
もう少し遊べる時間はある。
ただ、今から新しい任務に参加すると、終了時間が読めない可能性もあった。
「今日は、ここまでにしようかな」
悠真はログアウトを選択した。
【接続終了】
⸻
夕食の準備をしていた母親は、悠真が予定より少し早く部屋から出てきたことに気づいた。
「今日はもう終わり?」
「うん。短い任務を一つやっただけ」
「もっと遊びたかったんじゃないの?」
悠真は少し考えた。
「気になる任務はあったよ。昨日調べた古い設備の追加調査。でも、時間がかかりそうだったから、今日は参加しなかった」
母親は手を止めた。
「参加できるのに、しなかったのね」
「うん。途中で終わりにするのも嫌だったし、夕食の時間に間に合わなくなるかもしれないから」
母親は頷いた。
「それなら、今日はそれでよかったんじゃない?」
「そう思う。明日も募集があるかもしれないし、なくても仕方ないかな」
悠真は食器を並べるのを手伝った。
⸻
夕食後、悠真は学校のプリントを整理した。
明日の授業に必要なものを鞄に入れ、宿題の残りがないことを確認する。
机の端には、《クロスギア》の攻略記録をまとめたメモが置かれていた。
以前の任務で気づいたことや、次に試してみたい装備の組み合わせが書かれている。
悠真はその中に、新しい項目を一つ追加した。
「時間を見て任務を選ぶ」
書いてから、少し笑った。
当たり前のことかもしれない。
けれど、ゲームの中では、気になるものを見つけると、つい先へ進みたくなる。
今すぐ参加しなければ、次の機会がないかもしれない。
そう思うこともあった。
しかし、すべての機会に参加できるわけではない。
選ばなかった任務が、必ず消えてしまうわけでもない。
そして、今日参加しなかったからといって、明日も同じ判断をする必要はなかった。
明日の予定や、そのときの状況によって、また考えればいい。
悠真はメモを閉じた。
⸻
その夜、運営側では北部旧市街の追加調査が進められていた。
調査チームは、管理記録が途切れていた建物の外部を確認し、入口周辺の設備番号を照合していた。
内部の状態については、まだ確定した情報がない。
現地の管理担当NPCからも、追加の記録は提出されていなかった。
調査は継続中。
それ以上の結論は出ていない。
一方、悠真の接続記録には、通常討伐の完了と、その後のログアウトが保存されていた。
彼が追加調査に参加しなかった理由までは、記録だけでは分からない。
時間の都合だったのか。
別の任務を選びたかったのか。
それとも、単に今日は遊ぶ気分ではなかったのか。
行動の記録は残っても、その理由が一つに決まるとは限らなかった。
⸻
翌日の準備を終えた悠真は、端末を充電器につないだ。
明日、旧設備の調査結果が公開されているかもしれない。
新しい任務が出ている可能性もある。
もちろん、何も変わっていないこともあるだろう。
悠真は、今の時点で答えを決める必要はないと思った。
今日は参加しなかった。
それだけだった。
彼は部屋の明かりを消し、ベッドに入った。
明日、また遊びたくなったらログインすればいい。
そのとき何を選ぶかは、明日の自分が決めればよかった。




