第117章 変わっていく街
日曜日。
悠真が《クロスギア》にログインすると、ロビーのオンライン人数は平日よりも多かった。
【オンラインプレイヤー:246,512】
チャット欄には、ワールドボスの攻略募集や対戦相手を探す書き込みが流れている。
悠真は少し眺めたあと、KAIに連絡した。
【YUMA:今日は遊べる?】
【KAI:午前中なら大丈夫だ】
【YUMA:じゃあ、何かやろう】
【KAI:北部旧市街で新しい任務が出ている。街の設備点検らしい】
悠真は任務一覧を開いた。
【任務名:北部旧市街・公共設備点検】
【主目標:指定設備の稼働状況確認】
【追加条件:異常記録の提出】
【推奨人数:1~3人】
公共設備の点検は、以前にも経験したことがある。
ただし、今回は旧市街の中央区画が対象だった。
悠真はKAIと合流し、任務を開始した。
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北部旧市街の中央区画には、以前よりも多くのNPCが行き交っていた。
荷物を運ぶ作業車両が道路を走り、店の前では商品を並べるNPCが作業をしている。
建物の壁には修理された跡があり、路地の一角では作業員が古い配管を交換していた。
「ここ、前に来たときより賑やかじゃない?」
悠真が言うと、KAIは周囲を見回した。
「そうだな。人が増えたというより、作業しているNPCが増えた感じがする」
二人は最初の点検地点へ向かった。
対象は、道路脇に設置された公共照明だった。
設備の表示を確認すると、電源は正常に供給されている。
しかし、照明の点灯記録には、短い停止時間が何度か記録されていた。
悠真は記録を開いた。
【設備状態:稼働中】
【過去の稼働記録:一時停止あり】
【現在の異常:未確認】
「今は普通に点いているね」
KAIが照明を見上げた。
「うん。記録には停止があるけど、原因は分からないみたい」
二人は周辺の配線と設備の外観を確認した。
目立った破損はない。
任務の指示に従って、過去の停止記録と現在の稼働状態を報告した。
次の点検地点へ向かう。
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二つ目の設備は、区画内の小さな排水施設だった。
入口には点検担当のNPCが立っていた。
「現在、排水路の清掃を行っています。内部の確認は作業終了後にお願いします」
悠真は任務画面を確認した。
点検の予定時間は表示されていたが、作業終了時刻は確定していない。
「先に別の場所を調べてもいいですか?」
「はい。こちらの設備は、作業が終わり次第確認できます」
悠真とKAIは、いったん別の点検地点へ向かった。
三つ目の設備は、区画内の案内表示装置だった。
電源は入っている。
しかし、表示されている道路案内の一部が、現在の通行状況と一致していなかった。
画面には、すでに通行できなくなった路地が表示されている。
近くのNPCに尋ねると、数日前に路地の修理が始まり、通行経路が変更されたという。
「案内表示の更新が遅れているんですね」
悠真が言うと、NPCは記録を確認した。
「はい。修理後の確認は終わっていますが、案内装置への反映がまだ済んでいないようです。担当部署へ報告しておきます」
悠真は表示内容と実際の通行状況を記録した。
設備が壊れているわけではない。
電源も入り、画面も正常に動いている。
ただ、表示される情報が古かった。
悠真はその違いを任務記録に残した。
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二人が排水施設へ戻ると、清掃作業は終わっていた。
点検担当NPCが、内部の確認結果を説明した。
「排水路の一部に落ち葉や土砂がたまっていました。清掃は完了しています。現在、水の流れに問題はありません」
悠真は排水路の出口を確認した。
水は流れている。
目立った異常も見つからなかった。
「じゃあ、設備自体は正常なんですね」
「はい。ただし、清掃前には流れが弱くなっていました。今後も定期的に確認する必要があります」
悠真はその内容を記録した。
【排水施設:稼働正常】
【清掃:完了】
【今後の対応:定期点検】
三つの設備を確認したところで、任務は完了となった。
【任務完了】
【設備確認:3件】
【異常記録:提出済み】
【最終評価:A】
「今日は、壊れているものがなかったね」
KAIが言った。
「案内表示は、情報が古かったけどね」
「設備が動いていることと、正しい状態で使えることは別か」
悠真は頷いた。
照明は点灯していた。
排水施設も正常に動いていた。
案内表示装置も、画面そのものに問題はなかった。
それでも、点検するべきことは残っていた。
⸻
任務を終えた二人は、ロビーへ戻らず、北部旧市街を少し歩いてみることにした。
任務の範囲外ではあるが、街の中を移動するだけなら問題はない。
広場では、NPCたちが荷物を並べていた。
以前は空いていた建物の一階に、新しい店舗ができている。
その隣では、作業員が古い看板を取り外していた。
「店が増えたのかな」
悠真が言った。
「前の店が移動しただけかもしれないぞ」
KAIが答えた。
二人は近くのNPCに話を聞いた。
新しい店舗は、別の区画から移転してきたものだった。
以前の場所では道路の修理が始まり、作業の妨げにならないよう、店舗の位置を変更したらしい。
「じゃあ、この街が大きくなったわけじゃないんだね」
「場所が変わっただけでも、見える景色は変わるんだな」
KAIは新しい店舗の看板を眺めた。
悠真は、広場の向こうに見える道路を見た。
道を修理する人がいる。
案内表示を更新する人がいる。
荷物を運ぶ人がいて、店舗を移す人もいる。
プレイヤーが任務を受けていない間にも、街ではさまざまな作業が続いていた。
その一つひとつが、必ずしも大きな変化につながるわけではない。
けれど、何も変わっていないように見える街でも、少しずつ状況は動いている。
⸻
昼前、悠真はロビーへ戻った。
KAIは午後に別の予定があるため、ここでログアウトするという。
「今日は対戦はやらないのか?」
「うーん。少し考えたけど、今日は設備点検だけでもいいかな」
「珍しいな」
「たまにはね」
KAIは笑い、ログアウトした。
悠真は一人でロビーに残り、ランキングを確認した。
順位に大きな変化はない。
そのあと、任務一覧を開いたが、新しく参加したいと思う任務は見つからなかった。
以前なら、せっかくログインしたのだから何かもう一つやろうと考えたかもしれない。
しかし、今日はすでに十分遊んでいた。
悠真はログアウトを選択した。
【接続終了】
画面が切り替わる。
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昼食のあと、悠真は母親と一緒に近所へ買い物に出かけた。
帰り道、工事中の道路を見かけた。
作業員が交通整理をし、別の作業員が路面を確認している。
歩行者は、案内に従って反対側の通路を通っていた。
悠真は足を止め、しばらく様子を見た。
「どうしたの?」
母親が尋ねた。
「いや、ゲームの中でも、似たようなことがあったから」
「道路の工事?」
「うん。道が通れなくなったり、案内が変わったりするんだ」
母親は工事現場を見た。
「使う人がいるから、直す人も必要なのね」
「そうだね。直している間は、通り方も変えないといけないし」
二人は案内された通路を通り、買い物を続けた。
帰宅すると、悠真は買ってきたものを片づけ、明日の学校の準備を始めた。
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夜。
悠真はベッドに横になりながら、今日の任務を思い返した。
照明の停止記録。
排水路の清掃。
古い案内表示。
どれも、派手な戦闘とは関係のない出来事だった。
それでも、街を使い続けるためには必要な作業だった。
ゲームの中では、プレイヤーが敵を倒す場面が目立つ。
ランキングに載るのも、戦闘で大きな成果を上げたプレイヤーだ。
けれど、街が動き続けるためには、戦闘以外の仕事もある。
悠真はそう考えながら、端末の電源を切った。
明日は月曜日。
また学校が始まる。
次にログインしたとき、北部旧市街の景色が今日と同じかどうかは分からない。
案内表示が更新されているかもしれないし、別の場所で新しい作業が始まっているかもしれない。
それを確かめるのは、また別の日でよかった。
悠真は目を閉じた。




