第116章 残された道
西部平原。
悠真が任務を開始すると、乾いた風が草地を吹き抜けた。
【任務名:西部平原・補給路確認】
【主目標:補給路の通行状況を確認】
【追加条件:異常箇所の記録】
【制限時間:30分】
地図には、平原を横断する二本の道が表示されていた。
一本は現在も使われている主要道路。
もう一本は、北側の丘を回り込む旧補給路だった。
今回の任務では、両方の道を確認する必要がある。
悠真は地図を拡大した。
「旧補給路も使えるのかな」
任務説明には、通行可能かどうかを現地で確認するよう書かれている。最初から通行できないと決まっているわけではないらしい。
悠真はまず、主要道路へ向かった。
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主要道路には、荷物を積んだ作業車両が走っていた。
道幅は十分にあり、路面にも目立った損傷はない。
ただし、道路の脇には小さな標識が立っていた。
【前方:路面点検区間】
悠真が近づくと、点検担当のNPCが測定器を使って路面を調べていた。
「この先は通行できますか?」
悠真が尋ねると、NPCは作業を続けながら答えた。
「通常の作業車両であれば通行可能です。ただし、路肩の一部に沈下が見られるため、指定された範囲から外れないようにしてください」
悠真は路面を確認した。
中央部分は問題なさそうだったが、端の方には細い亀裂が走っている。
「この亀裂は、いつからあるんですか?」
「正確な発生時期は分かりません。前回の点検記録には、現在と同じ状態は記載されていませんでした」
NPCは記録を開き、今回の測定結果を追加した。
原因はまだ分からない。
しかし、通行できる範囲は確認されている。
悠真は、その内容を任務記録に入力した。
【主要道路:通行可能】
【路肩:一部要注意】
【原因:調査継続】
次に、旧補給路へ向かった。
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旧補給路は、主要道路から北へ分岐していた。
入口には古い標識が残っていたが、道の先は草木に覆われている。
悠真は入口付近から様子を確認した。
地面には車輪の跡が残っていた。
ただし、最近のものかどうかは判断できない。
少し進むと、道の中央に倒木が横たわっていた。
その先には、崩れた土砂が積もっている。
悠真は倒木の手前で止まった。
「これは、車では通れないな」
任務には、障害物を撤去する指示はない。
悠真は安全な位置から倒木と土砂の状態を記録した。
【旧補給路:車両通行不可】
【障害物:倒木、土砂堆積】
【撤去作業:未実施】
そのとき、少し離れた場所から作業員NPCが歩いてきた。
「この道を調べているのですか?」
「はい。補給路の状態を確認しています」
NPCは倒木を見てから、道の奥へ視線を向けた。
「以前は、資材を運ぶために使っていた道です。ただ、現在は主要道路を使うことが多くなっています」
「この道は、もう使わないんですか?」
「完全に廃止されたわけではありません。状況によっては、整備して再び使う可能性もあります。ただし、現時点では通行できません」
NPCはそう答え、手元の記録を確認した。
「倒木と土砂の状態を報告していただければ、管理担当が今後の対応を検討するでしょう」
悠真は頷いた。
道が残っていることと、今すぐ使えることは別だった。
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悠真は旧補給路の入口に戻り、任務記録を更新した。
主要道路は、注意事項を守れば通行できる。
旧補給路は、障害物があるため車両では通れない。
どちらも確認できた。
任務の残り時間は十分にあったが、追加で調べられる範囲は限られている。
悠真は地図を開き、旧補給路の先を確認した。
道は北側の丘を回り込んだあと、地図上では小さな補給拠点へ続いていた。
しかし、その拠点までの区間は、現在の任務の調査範囲に含まれていない。
悠真は少し迷った。
ここまで来たのだから、先まで見てみたい気持ちはある。
だが、倒木と土砂がある状態で、任務の指示を超えて進む理由はなかった。
「今回はここまでだね」
悠真は記録を提出した。
【任務完了】
【主要道路:確認済み】
【旧補給路:通行不可を確認】
【異常箇所:報告済み】
【最終評価:A】
画面には、通常の任務報酬が表示された。
特別なアイテムも、追加の情報もなかった。
それでも、現地の状況を確認するという目的は達成できていた。
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ロビーに戻った悠真は、今回の記録を保存した。
西部平原の旧補給路。
地図上では、まだ先へ続いている。
しかし、現地では倒木と土砂によって通行が止まっていた。
以前、別の場所で古い道を調査したときも、地図上の情報と実際の状態が一致しないことがあった。
道があるからといって、いつでも使えるとは限らない。
反対に、現在使われていない道でも、将来また必要になる可能性はある。
悠真は、今回の任務記録にそれ以上の意味を加えなかった。
旧補給路が使われなくなった詳しい理由も、今後整備されるかどうかも、まだ分からない。
その判断をするのは、管理担当NPCたちの仕事だった。
悠真はロビーで装備を確認し、短い訓練任務に参加した。
午後の残り時間は、装備の操作感を確かめながら過ごした。
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夕方。
悠真がログアウトすると、母親が夕食の準備をしていた。
「今日はどうだった?」
「補給路を調べる任務をやったよ。今使っている道は通れたけど、古い道は倒木と土砂で通れなかった」
「じゃあ、古い道はもう使えないの?」
「今はね。でも、完全に廃止されたわけじゃないみたい。必要になったら整備する可能性もあるって」
母親は手を止めた。
「使っていないからといって、すぐになくすわけではないのね」
「うん。ただ、使えるようにするには、調べたり直したりしないといけないんだと思う」
「直すにも時間や人手が必要だものね」
悠真は頷いた。
ゲームの中では、道も設備も、最初から完成した状態で存在し続けるわけではない。
使う人がいて、点検する人がいて、必要なら修理する人もいる。
そして、使わなくなったものを残すかどうかも、状況によって変わる。
悠真は夕食を食べ終えると、明日の予定を確認した。
今日は土曜日だった。
十分に遊べたし、まだ気になる任務も残っている。
けれど、全部を今日のうちに済ませる必要はない。
悠真は端末を充電器につなぎ、母親に「おやすみ」と声をかけた。
翌日、何をするかは、また明日考えればよかった。




