第115章 土曜日の選択
土曜日。
悠真は朝食を食べ、母親に今日の予定を伝えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:239,864】
平日よりも、ロビーにいるプレイヤーは多かった。
チャット欄では、朝からいくつもの話題が流れている。
『今日、東部の高難度任務に行く人いる?』
『装備の調整が終わったら参加する』
『森林地帯の探索、昨日から何か変わってるらしい』
『何が変わったんだ?』
『詳しくは知らない。現地のNPCが別の道を使っていたって』
悠真は最後のメッセージに目を止めた。
昨日、自分たちも森林地帯の旧観測路を調査した。
ただし、木材運搬の作業と旧観測設備の関係は分からなかった。
今日も同じ場所へ行けば、新しいことが分かるだろうか。
そう考えたものの、悠真はすぐには任務を選ばなかった。
まずはKAIとRIONに連絡する。
【YUMA:今日は何をする?】
【KAI:午前中なら遊べる】
【RION:僕も参加できる。午後は少し用事がある】
三人がそろって遊べる時間は、いつも同じではない。
悠真は任務一覧を開き、候補を探した。
⸻
最初に目に入ったのは、東部高地の機械獣討伐任務だった。
推奨人数は三人。
報酬は通常任務より多いが、敵の攻撃力も高い。
もう一つは、森林地帯の物資回収任務だった。
こちらは戦闘が少なく、指定された場所から部品を回収して帰還する内容だった。
「どっちにする?」
KAIが尋ねた。
悠真は二つの任務を見比べた。
「最初は討伐にしよう。そのあと、時間が残っていたら探索か輸送をやりたい」
RIONも賛成した。
三人は東部高地の任務を選択した。
【任務名:東部高地・機械獣討伐】
【主目標:指定機械獣の撃破】
【追加条件:周辺設備の損傷を抑える】
【制限時間:35分】
任務が開始されると、三体の機械獣が岩場の向こうから現れた。
一体は正面から接近し、もう一体は距離を取りながら射撃する。
残る一体は、岩場を回り込むように移動していた。
「先に遠距離の敵を止めたい」
RIONが言った。
「僕が正面を引きつける。悠真は回り込む敵を見てくれ」
KAIが前へ出た。
悠真は敵の位置を確認し、岩場の横へ移動した。
回り込んでいた敵は、悠真に気づくと進路を変えた。
悠真は攻撃を避けながら距離を保ち、敵が岩場の狭い通路へ入ったところで反撃した。
その間に、RIONが遠距離の敵を撃破する。
KAIも正面の敵を押し返し、三人は残る一体を囲む形になった。
戦闘は順調に進んだ。
しかし、最後の一体を追い詰めたとき、敵は急に向きを変え、近くの設備へ突進した。
「そっちに行った!」
悠真は追撃をやめ、設備の前へ移動した。
敵の攻撃を受け止めることはできなかったが、進路を変えさせることには成功した。
KAIが横から攻撃し、RIONの射撃が続く。
最後の機械獣が倒れると、任務完了の表示が出た。
【任務完了】
【主目標:達成】
【追加条件:達成】
【最終評価:A】
「最後、設備を狙ってきたな」
KAIが言った。
「倒すことに集中していたら、間に合わなかったかもしれない」
悠真は戦闘記録を保存した。
敵を倒せる状況でも、周囲を見ておく必要がある。
今回の任務では、そのことがはっきりと分かった。
⸻
ロビーに戻ると、RIONは装備を変更した。
「次は少し遠距離寄りにしてみる。さっきの任務、もう少し早く敵を倒せれば、設備への攻撃も減らせたと思う」
「試してみればいいんじゃない?」
悠真は答えた。
「ただ、攻撃力を上げる分、別のところが弱くなるかもしれないけど」
「そうなんだよね。そこも確認したい」
RIONは装備の比較画面を開いた。
一方、KAIはランキングを確認していた。
一位はKAI、二位はRION、三位はYUMA。
三人の順位に変化はない。
「ランキングを上げるなら、対戦もやっておきたいところだな」
KAIが言った。
悠真は時計を確認した。
まだ時間はある。
「じゃあ、次は三対三を一回やろう。そのあと、物資回収をやるか決めよう」
三人は対戦募集に参加した。
⸻
対戦が始まると、相手チームは中央の目標地点を確保しようとした。
KAIは近接戦闘で前線を押し上げ、RIONは後方から援護する。
悠真は中央へ向かったが、相手の一人がすぐに後退した。
以前なら、敵が弱っていると判断して追いかけていたかもしれない。
しかし、悠真は一度立ち止まった。
相手の後方には、もう一人の敵がいる。
こちらが追いかければ、中央の目標地点が空く可能性があった。
「中央を維持する。追わなくていい」
悠真が伝えると、KAIもすぐに反応した。
「了解。こっちは前を押さえる」
RIONは射撃位置を変え、中央へ近づこうとする敵を牽制した。
相手チームは一度後退したあと、今度は三人で中央へ攻め込んできた。
だが、悠真たちは目標地点から離れていなかった。
KAIが正面を受け止め、RIONが援護射撃を行い、悠真は空いた側面から攻撃した。
敵の一人が倒れ、残る二人も態勢を立て直すために後退した。
その間に、三人は目標地点の確保を進めた。
【対戦結果:勝利】
「今のは、追わなかったのがよかったな」
KAIが言った。
悠真は対戦記録を確認した。
相手を追わなかったから勝てた、と単純に決めつけることはできない。
ただ、中央を空けずにいたことで、相手の攻撃に対応できる位置を保てた。
今回の判断は、その状況に合っていた。
⸻
昼前。
三人は森林地帯の物資回収任務を選んだ。
【任務名:森林地帯・交換部品回収】
【主目標:指定部品の回収】
【追加条件:回収品の状態確認】
指定地点に到着すると、回収対象の部品が木箱に入れられていた。
悠真は箱の表示を確認した。
部品番号は一致している。
数量も一覧どおりだった。
しかし、箱の一つは蓋が開いた状態になっていた。
「これ、誰かが開けたのかな?」
RIONが尋ねた。
悠真は周囲を見た。
近くには作業用の工具が置かれ、NPCが別の設備を点検している。
箱の蓋が開いている理由までは分からなかった。
「中身を確認しよう。勝手に触ったりはしないで、任務の手順どおりに」
三人は担当NPCに報告した。
NPCは箱の中身を確認し、部品の数量と状態を調べた。
「部品はすべてそろっています。点検の際に開けたままになっていたようです。確認記録を更新します」
箱は再び閉じられ、輸送用の固定具が取り付けられた。
三人は回収品を運び、指定された場所へ納入した。
【任務完了】
【回収品:全数確認】
【破損:なし】
【最終評価:A】
「今日は、確認することが多いな」
RIONが言った。
「でも、今回は理由が分かったね」
悠真は答えた。
ただし、すべての出来事に理由が分かるわけではない。
昨日の旧観測設備もそうだった。
今日の箱は、担当NPCが点検のために開けたものだった。
同じように見える状況でも、実際の事情は違う。
悠真は、今回の任務記録を保存した。
⸻
昼食の時間が近づくと、RIONはログアウトすることにした。
KAIも別の予定があるため、いったん接続を切るという。
「午後はどうする?」
KAIが尋ねた。
悠真は任務一覧を見た。
まだ遊べる時間はあった。
ただ、午後に何をするかは決めていなかった。
「昼ご飯を食べてから考えるよ」
「分かった。また時間が合えば連絡する」
二人がログアウトすると、悠真はロビーに残った。
午前中だけでも、討伐、対戦、物資回収と、三種類の任務を経験した。
どれも大きな出来事ではなかった。
しかし、戦闘では設備を守ることを考え、対戦では味方との位置関係を確認し、物資回収では記録と現物を照合した。
同じゲームの中でも、必要な判断はそれぞれ違っていた。
悠真は一度ログアウトした。
⸻
昼食のあと、母親は悠真に尋ねた。
「午後もゲームをするの?」
「まだ決めていないよ。午前中は友達と遊んだし、午後は少し休んでから考える」
「そう。目が疲れていない?」
「少し休めば大丈夫だと思う」
母親は頷いた。
「疲れているなら、無理に続けなくてもいいからね」
「うん」
悠真は部屋でしばらく休み、午後の予定を考えた。
森林地帯の旧観測路には、まだ分からないことが残っている。
ただ、今日すぐに戻る必要はなかった。
別の任務を選んでもいいし、今日はここで終わりにしてもいい。
悠真は端末を手に取り、任務一覧をもう一度開いた。
今度は、まだ参加したことのない探索任務が目に入った。
【任務名:西部平原・補給路確認】
【主目標:補給路の通行状況を確認】
【推奨人数:1~2人】
悠真は少し考えたあと、任務の詳細を開いた。
西部平原。
以前、時間内に討伐できなかったワールドボスが現れた地域だった。
しかし、今回の任務は補給路の確認であり、ワールドボスに関する説明はない。
悠真は任務の目的を読み直した。
補給路の通行状況を確認し、必要な記録を提出する。
それだけだ。
「よし、これにしよう」
悠真は接続を再開した。
まだ知らない場所がある。
以前に訪れた場所にも、知らないことが残っている。
そして、同じ地域にあるからといって、すべてがひとつにつながっているとは限らない。
悠真は補給路確認の任務を開始した。




