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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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114/341

第114章 同じ場所に戻る理由

金曜日の放課後。


悠真は宿題を終えると、いつものように《クロスギア》へ接続した。


ロビーには、昨日と同じように任務募集が並んでいた。森林地帯の討伐、北部旧市街の物資輸送、南部の設備点検。高難度任務の一覧にも、新しい募集がいくつか追加されている。


悠真はしばらく一覧を眺めてから、森林地帯の探索任務を選んだ。


【任務名:森林地帯・旧観測路調査】

【主目標:指定地点の状況確認】

【追加条件:調査記録の提出】

【推奨人数:1~3人】


以前、森林地帯の観測設備を点検したことがある。


今回の任務は、その設備とは別の場所を調査するものだった。


「この辺り、前にも来たことがあるな」


悠真は地図を開いた。


同じ森林地帯でも、以前通った道とは少し離れている。地図には古い観測路が表示されていたが、現在の通行状況は詳しく記載されていなかった。


KAIから連絡が届いた。


【KAI:今日は何をする?】

【YUMA:森林地帯の旧観測路を調べる任務。来る?】

【KAI:いいぞ。少し探索してみよう】


二人は任務に参加した。


⸻


森林地帯の入口には、木材を運ぶNPCたちがいた。


道の脇には切り出された木材が積まれ、作業車両が何度も往復している。


以前来たときには見かけなかった光景だった。


「ここ、前より作業しているNPCが増えた気がする」


悠真が言うと、KAIは周囲を確認した。


「別の場所から運んできたのかもしれないな」


二人は近くの作業員NPCに声をかけた。


「この道、前から使っていたんですか?」


NPCは木材の束を固定しながら答えた。


「以前から一部は使っていました。ただ、最近は北側の作業地点への運搬が増えています。通行する車両が増えたので、道の状態を確認しながら使っています」


それ以上の説明はなかった。


二人が通ろうとしている旧観測路は、木材の運搬に使われる道とは途中で分かれている。


悠真は地図に現在位置を記録し、調査地点へ向かった。


⸻


旧観測路は、ところどころ地面が露出していた。


道の端には古い標識が残っていたが、表面の文字は薄れている。


二人は標識の前で立ち止まった。


【旧観測路】

【区間番号:一部判読不能】


「番号が読めないな」


KAIが標識を調べた。


悠真も近くの地面を確認したが、特別な痕跡は見つからなかった。


任務の指示には、標識の状態と通行状況を記録するよう書かれている。


二人は周辺を歩き、道幅、路面の崩れ、通行を妨げる障害物の有無を確認した。


途中、道の一部が低くなっている場所があった。


地面には細い亀裂が走っている。


悠真はその場で足を止めた。


「ここ、車両を通すのは危なそうだね」


KAIは少し離れた場所から地面を見た。


「歩いて確認するだけなら問題なさそうだけど、報告はしておいた方がいい」


二人は安全な範囲から状況を記録した。


亀裂の幅や長さは、見ただけでは正確に判断できない。地面の内部まで確認したわけでもない。


悠真は、調査結果の備考欄に記入した。


【路面状況:一部に亀裂あり】

【車両通行:要確認】

【原因:不明】


原因を推測で埋める必要はなかった。


⸻


調査地点に到着すると、古い観測設備の基礎部分が見えた。


周囲には低い石壁があり、その内側に金属製の支柱が残っている。


設備そのものは見当たらない。


悠真は任務の指示を確認した。


今回の目的は、旧観測路と周辺設備の現状を記録することだ。設備を起動したり、部品を持ち帰ったりする指示はない。


「何か残っているかな」


KAIが石壁の内側を調べた。


悠真は地面に落ちていた金属片を見つけたが、表面には文字も番号も残っていなかった。


それは古い固定部品のようにも見えたが、用途を特定できる状態ではない。


「これ、持って帰る?」


KAIが尋ねた。


悠真は任務の指示をもう一度読んだ。


「今回は記録だけでいいみたい。勝手に動かさない方がいいと思う」


二人は金属片の位置を記録し、周囲の写真データを保存した。


石壁の外側には、別の道が続いていた。


ただし、その道は今回の調査範囲に含まれていない。


悠真は少し気になったものの、地図に位置だけを記録して、先へ進むことはしなかった。


調べられる場所があるからといって、すべてを同時に調べる必要はない。


今回の任務には、確認すべき範囲が決められていた。


⸻


帰り道、二人は再び木材を運ぶ作業員たちとすれ違った。


作業員の一人が、車両の進路を確認しながら別のNPCに指示を出している。


「次の運搬は、先に路面の状態を確認してからにしてください。昨日通れた場所でも、今日は同じとは限りません」


悠真は、その言葉を聞いて足を止めた。


昨日通れた場所でも、今日は同じとは限らない。


ゲームの地図は、道の形や目的地を表示してくれる。


けれど、現地の状況まで常に固定されているわけではない。


道を使うNPCが増えれば、作業の順番も変わる。


設備を点検する人がいれば、通行を待たなければならないこともある。


悠真は、今日見たことを調査記録に追加した。


【周辺状況:木材運搬作業を確認】

【旧観測路との関係:不明】


木材運搬の作業と旧観測設備が直接関係している証拠はない。


同じ地域にあるというだけで、ひとつの出来事としてまとめる必要はなかった。


二人は任務を完了し、ロビーへ戻った。


【任務完了】

【調査記録:提出済み】

【未確認事項:記録のみ】

【最終評価:A】


⸻


ロビーに戻ると、KAIは別の任務を探し始めた。


悠真は今回の調査記録を見直した。


路面の亀裂。


古い標識。


設備の基礎と金属片。


どれも、現時点ではそれ以上のことは分からない。


「何かすごい発見があると思った?」


KAIが尋ねた。


「少しはね。でも、何も分からないところも多かった」


「それでも任務は終わっただろ」


「うん。分からないことを、分からないまま記録するのも仕事なんだね」


KAIは少し笑った。


「ゲームの中でも、全部の謎をその場で解けるわけじゃないってことか」


悠真は地図を閉じた。


以前の自分なら、古い設備を見つけると、その先に何があるのか気になって、できるだけ調べようとしたかもしれない。


今でも興味はある。


ただ、任務の目的と、自分が知りたいことは、必ずしも同じではない。


今日は調査範囲の記録を終えた。


その先を調べる機会があるかどうかは、また別の話だった。


⸻


その後、悠真は短時間の対戦任務に参加した。


今回はKAIと二人で組む二対二の形式だった。


対戦相手の一人は、開始直後から悠真を狙ってきた。


悠真は相手の攻撃を避けながら距離を取ったが、相手は深追いしてくる。


以前なら、ここで相手を倒すことに集中していたかもしれない。


しかし、悠真はKAIの位置を確認した。


KAIはもう一人の敵と交戦している。


悠真が相手を引きつけている間に、KAIは敵の攻撃をかわし、反撃の機会を作っていた。


悠真は相手を追い払おうとせず、KAIのいる方向へ移動した。


二人が合流すると、敵の連携が崩れた。


悠真が正面から攻撃を受け止め、KAIが側面から反撃する。


先に一人を倒したことで、残った相手にも対応しやすくなった。


【対戦結果:勝利】


「今の、前だったら追いかけていたかもな」


KAIが言った。


「相手を倒せそうだと思うと、つい集中しちゃうんだよね」


「でも、今回はこっちに戻ってきた」


悠真は対戦記録を保存した。


敵を追いかけることが、いつも間違いというわけではない。


ただ、相手に注意を向けすぎて、味方の位置を見失うこともある。


今回は、相手を倒すことよりも、二人で戦える位置に戻ることを優先した。


それが結果につながった。


⸻


夜、母親は悠真が翌日の準備をしているのを見て、声をかけた。


「今日は早く終わったのね」


「うん。調査任務のあと、対戦を一回やっただけ」


「調査はどうだった?」


「古い観測設備があったけど、何に使われていたかは分からなかった。道の一部も傷んでいたから、記録して報告したよ」


「それで終わり?」


「うん。今回の任務は、調べたことを記録するところまでだったから」


母親は、机の上に置かれた教科書を見た。


「気になることが残っていても、今日はそこまでにすることがあるのね」


「そうだね。全部を調べようとしたら、時間がいくらあっても足りないし」


悠真は明日の持ち物を確認し、教科書を鞄に入れた。


ゲームの中には、まだ知らない場所がたくさんある。


今まで通った場所にも、気づいていないものが残っているかもしれない。


それでも、ひとつの任務で全部を知る必要はない。


今日できることを終えて、次の機会を待つ。


悠真は端末を充電器につなぎ、明日の予定を確認した。


明日は土曜日だ。


少し長く遊べるかもしれない。


ただし、何をするかは、明日ログインしてから決めることにした。

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