第114章 同じ場所に戻る理由
金曜日の放課後。
悠真は宿題を終えると、いつものように《クロスギア》へ接続した。
ロビーには、昨日と同じように任務募集が並んでいた。森林地帯の討伐、北部旧市街の物資輸送、南部の設備点検。高難度任務の一覧にも、新しい募集がいくつか追加されている。
悠真はしばらく一覧を眺めてから、森林地帯の探索任務を選んだ。
【任務名:森林地帯・旧観測路調査】
【主目標:指定地点の状況確認】
【追加条件:調査記録の提出】
【推奨人数:1~3人】
以前、森林地帯の観測設備を点検したことがある。
今回の任務は、その設備とは別の場所を調査するものだった。
「この辺り、前にも来たことがあるな」
悠真は地図を開いた。
同じ森林地帯でも、以前通った道とは少し離れている。地図には古い観測路が表示されていたが、現在の通行状況は詳しく記載されていなかった。
KAIから連絡が届いた。
【KAI:今日は何をする?】
【YUMA:森林地帯の旧観測路を調べる任務。来る?】
【KAI:いいぞ。少し探索してみよう】
二人は任務に参加した。
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森林地帯の入口には、木材を運ぶNPCたちがいた。
道の脇には切り出された木材が積まれ、作業車両が何度も往復している。
以前来たときには見かけなかった光景だった。
「ここ、前より作業しているNPCが増えた気がする」
悠真が言うと、KAIは周囲を確認した。
「別の場所から運んできたのかもしれないな」
二人は近くの作業員NPCに声をかけた。
「この道、前から使っていたんですか?」
NPCは木材の束を固定しながら答えた。
「以前から一部は使っていました。ただ、最近は北側の作業地点への運搬が増えています。通行する車両が増えたので、道の状態を確認しながら使っています」
それ以上の説明はなかった。
二人が通ろうとしている旧観測路は、木材の運搬に使われる道とは途中で分かれている。
悠真は地図に現在位置を記録し、調査地点へ向かった。
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旧観測路は、ところどころ地面が露出していた。
道の端には古い標識が残っていたが、表面の文字は薄れている。
二人は標識の前で立ち止まった。
【旧観測路】
【区間番号:一部判読不能】
「番号が読めないな」
KAIが標識を調べた。
悠真も近くの地面を確認したが、特別な痕跡は見つからなかった。
任務の指示には、標識の状態と通行状況を記録するよう書かれている。
二人は周辺を歩き、道幅、路面の崩れ、通行を妨げる障害物の有無を確認した。
途中、道の一部が低くなっている場所があった。
地面には細い亀裂が走っている。
悠真はその場で足を止めた。
「ここ、車両を通すのは危なそうだね」
KAIは少し離れた場所から地面を見た。
「歩いて確認するだけなら問題なさそうだけど、報告はしておいた方がいい」
二人は安全な範囲から状況を記録した。
亀裂の幅や長さは、見ただけでは正確に判断できない。地面の内部まで確認したわけでもない。
悠真は、調査結果の備考欄に記入した。
【路面状況:一部に亀裂あり】
【車両通行:要確認】
【原因:不明】
原因を推測で埋める必要はなかった。
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調査地点に到着すると、古い観測設備の基礎部分が見えた。
周囲には低い石壁があり、その内側に金属製の支柱が残っている。
設備そのものは見当たらない。
悠真は任務の指示を確認した。
今回の目的は、旧観測路と周辺設備の現状を記録することだ。設備を起動したり、部品を持ち帰ったりする指示はない。
「何か残っているかな」
KAIが石壁の内側を調べた。
悠真は地面に落ちていた金属片を見つけたが、表面には文字も番号も残っていなかった。
それは古い固定部品のようにも見えたが、用途を特定できる状態ではない。
「これ、持って帰る?」
KAIが尋ねた。
悠真は任務の指示をもう一度読んだ。
「今回は記録だけでいいみたい。勝手に動かさない方がいいと思う」
二人は金属片の位置を記録し、周囲の写真データを保存した。
石壁の外側には、別の道が続いていた。
ただし、その道は今回の調査範囲に含まれていない。
悠真は少し気になったものの、地図に位置だけを記録して、先へ進むことはしなかった。
調べられる場所があるからといって、すべてを同時に調べる必要はない。
今回の任務には、確認すべき範囲が決められていた。
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帰り道、二人は再び木材を運ぶ作業員たちとすれ違った。
作業員の一人が、車両の進路を確認しながら別のNPCに指示を出している。
「次の運搬は、先に路面の状態を確認してからにしてください。昨日通れた場所でも、今日は同じとは限りません」
悠真は、その言葉を聞いて足を止めた。
昨日通れた場所でも、今日は同じとは限らない。
ゲームの地図は、道の形や目的地を表示してくれる。
けれど、現地の状況まで常に固定されているわけではない。
道を使うNPCが増えれば、作業の順番も変わる。
設備を点検する人がいれば、通行を待たなければならないこともある。
悠真は、今日見たことを調査記録に追加した。
【周辺状況:木材運搬作業を確認】
【旧観測路との関係:不明】
木材運搬の作業と旧観測設備が直接関係している証拠はない。
同じ地域にあるというだけで、ひとつの出来事としてまとめる必要はなかった。
二人は任務を完了し、ロビーへ戻った。
【任務完了】
【調査記録:提出済み】
【未確認事項:記録のみ】
【最終評価:A】
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ロビーに戻ると、KAIは別の任務を探し始めた。
悠真は今回の調査記録を見直した。
路面の亀裂。
古い標識。
設備の基礎と金属片。
どれも、現時点ではそれ以上のことは分からない。
「何かすごい発見があると思った?」
KAIが尋ねた。
「少しはね。でも、何も分からないところも多かった」
「それでも任務は終わっただろ」
「うん。分からないことを、分からないまま記録するのも仕事なんだね」
KAIは少し笑った。
「ゲームの中でも、全部の謎をその場で解けるわけじゃないってことか」
悠真は地図を閉じた。
以前の自分なら、古い設備を見つけると、その先に何があるのか気になって、できるだけ調べようとしたかもしれない。
今でも興味はある。
ただ、任務の目的と、自分が知りたいことは、必ずしも同じではない。
今日は調査範囲の記録を終えた。
その先を調べる機会があるかどうかは、また別の話だった。
⸻
その後、悠真は短時間の対戦任務に参加した。
今回はKAIと二人で組む二対二の形式だった。
対戦相手の一人は、開始直後から悠真を狙ってきた。
悠真は相手の攻撃を避けながら距離を取ったが、相手は深追いしてくる。
以前なら、ここで相手を倒すことに集中していたかもしれない。
しかし、悠真はKAIの位置を確認した。
KAIはもう一人の敵と交戦している。
悠真が相手を引きつけている間に、KAIは敵の攻撃をかわし、反撃の機会を作っていた。
悠真は相手を追い払おうとせず、KAIのいる方向へ移動した。
二人が合流すると、敵の連携が崩れた。
悠真が正面から攻撃を受け止め、KAIが側面から反撃する。
先に一人を倒したことで、残った相手にも対応しやすくなった。
【対戦結果:勝利】
「今の、前だったら追いかけていたかもな」
KAIが言った。
「相手を倒せそうだと思うと、つい集中しちゃうんだよね」
「でも、今回はこっちに戻ってきた」
悠真は対戦記録を保存した。
敵を追いかけることが、いつも間違いというわけではない。
ただ、相手に注意を向けすぎて、味方の位置を見失うこともある。
今回は、相手を倒すことよりも、二人で戦える位置に戻ることを優先した。
それが結果につながった。
⸻
夜、母親は悠真が翌日の準備をしているのを見て、声をかけた。
「今日は早く終わったのね」
「うん。調査任務のあと、対戦を一回やっただけ」
「調査はどうだった?」
「古い観測設備があったけど、何に使われていたかは分からなかった。道の一部も傷んでいたから、記録して報告したよ」
「それで終わり?」
「うん。今回の任務は、調べたことを記録するところまでだったから」
母親は、机の上に置かれた教科書を見た。
「気になることが残っていても、今日はそこまでにすることがあるのね」
「そうだね。全部を調べようとしたら、時間がいくらあっても足りないし」
悠真は明日の持ち物を確認し、教科書を鞄に入れた。
ゲームの中には、まだ知らない場所がたくさんある。
今まで通った場所にも、気づいていないものが残っているかもしれない。
それでも、ひとつの任務で全部を知る必要はない。
今日できることを終えて、次の機会を待つ。
悠真は端末を充電器につなぎ、明日の予定を確認した。
明日は土曜日だ。
少し長く遊べるかもしれない。
ただし、何をするかは、明日ログインしてから決めることにした。




