第112章 攻略された場所
水曜日の放課後。
悠真は宿題を終えてから、《クロスギア》に接続した。
ロビーを開くと、昨日参加を見送った高難度防衛任務の表示が目に入った。
【任務名:南部動力施設防衛】
【任務状態:攻略済み】
【最終評価:S】
【記録更新:本日】
悠真は詳細を開いた。
複数のプレイヤーが参加し、動力施設と補助電源設備を守り切ったらしい。攻略記録には、敵の出現位置や攻撃の傾向、参加者の役割分担が掲載されていた。
「もう終わっていたんだ」
少しだけ残念だった。
昨日は時間を考えて参加しなかった。今日なら挑戦できると思っていたが、任務はすでに攻略されている。
もっとも、攻略済みになったからといって、任務そのものが消えたわけではない。通常の再挑戦が可能になるかどうかは、別の条件によって決まる。
悠真は再挑戦の表示を確認した。
【再挑戦:可能】
【報酬:初回攻略報酬を除き通常報酬】
【記録:個人別に保存】
「なるほど。初回報酬はなくても、普通に遊べるんだ」
悠真は攻略記録を読み始めた。
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攻略したチームは、最初から全員で敵を攻撃する方法を取っていなかった。
前半は施設の防衛を優先し、補助電源設備の近くに敵が集まったときだけ、攻撃役が移動して対応している。
敵の耐久値を削ることよりも、施設が破壊されないようにすることを重視した戦い方だった。
悠真は記録を読み終え、KAIに連絡した。
【YUMA:昨日の動力施設防衛、攻略されていたよ】
【KAI:見た。S評価らしいな】
【YUMA:再挑戦はできるみたい。やってみる?】
【KAI:いいぞ。攻略記録があるなら、実際に試してみよう】
RIONにも声をかけると、参加できるという返事が届いた。
三人は募集に参加し、必要人数が集まるまでロビーで待機した。
やがて、別のプレイヤーが二人加わり、任務が開始された。
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南部動力施設の内部には、複数の設備が並んでいた。
中央の動力施設と、その周囲に設置された補助電源設備。
任務開始と同時に、敵の出現地点と防衛対象が表示された。
【主目標:動力施設を防衛】
【副目標:補助電源設備を維持】
【制限時間:45分】
攻略記録を読んでいた悠真は、最初の敵が現れたとき、すぐには攻撃しなかった。
敵は正面から施設へ進んでくる。
KAIが前方へ出て、敵の注意を引きつけた。
RIONは後方から射撃し、悠真は施設の状態を確認する。
ところが、最初の波が終わる前に、別の方向から小型の敵が現れた。
「右側にも出た!」
別のプレイヤーが叫んだ。
悠真は中央の敵を攻撃しようとしていたが、すぐに動きを止めた。
KAIが前方を押さえている。RIONも射撃を続けている。
ここで自分まで正面へ出る必要はない。
「右側を見てくる。施設の近くに入られる前に止めよう」
悠真は側面へ移動し、小型の敵を迎え撃った。
敵を倒し終えるころ、正面の敵も処理されていた。
【第一波:撃退】
【動力施設:損傷軽微】
【補助電源設備:正常】
「今のところ、順調だな」
KAIが言った。
悠真は攻略記録を思い出した。
敵を倒すことだけに集中せず、施設へ向かう敵を優先して止める。
単純なようで、戦闘中に判断し続ける必要があった。
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第二波では、敵の数が増えた。
正面から進む大型機械獣に加え、遠距離から施設を狙う敵も現れた。
RIONが遠距離攻撃を仕掛けたが、大型機械獣の動きに阻まれ、射線が通らなくなった。
「大型が邪魔で、奥を狙えない!」
悠真は周囲を確認した。
大型を正面から押し返すには時間がかかる。しかし、遠距離の敵を放置すれば、補助電源設備が攻撃され続ける。
「KAI、大型を少しだけ右へ誘導できる?」
【KAI:やってみる】
KAIは大型機械獣の攻撃を受け止めながら、施設から離れる方向へ移動した。
大型が動いたことで、RIONの射線が開いた。
RIONは遠距離の敵を攻撃し、悠真も別の角度から援護する。
大型機械獣がKAIを追いかけたため、悠真は攻撃の隙を見て合流し、二人で撃退した。
【第二波:撃退】
【動力施設:損傷あり】
【補助電源設備:正常】
しかし、動力施設には少しずつ損傷が蓄積していた。
「このままだと、最後まで持つか分からないな」
KAIが言った。
悠真は施設の耐久値と、残り時間を確認した。
まだ余裕はある。
ただし、同じ戦い方を続ければいいとは限らなかった。
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第三波が始まる前、チームは短い確認を行った。
一人のプレイヤーが、施設の損傷を抑えるため、敵をもっと早く倒すべきだと提案した。
別のプレイヤーは、防衛対象から離れすぎない方がいいと主張した。
どちらにも理由があった。
悠真は攻略記録を開き、敵の出現位置を確認した。
「次の波で遠距離の敵が出るなら、先にそっちを止めたい。でも、全員が移動すると大型が施設に近づくかもしれない」
RIONが答えた。
「僕が遠距離の敵を狙う。KAIは大型を引きつけて、悠真は状況を見ながら援護してくれる?」
「分かった」
チームは役割を決め、第三波に備えた。
敵が出現すると、予想どおり、遠距離の敵が後方に現れた。
RIONが射撃を始める。
KAIは大型の進路を施設から逸らし、悠真は側面から接近する小型の敵を迎え撃った。
すべてが予定どおりに進んだわけではない。
大型が急に方向を変え、KAIが一度押し戻される場面もあった。
しかし、悠真たちは互いの位置を確認しながら対応した。
最後の敵が倒れたとき、動力施設の耐久値は残っていた。
【第三波:撃退】
【動力施設:防衛成功】
【補助電源設備:維持】
その後も、チームは施設の状態を確認しながら戦闘を続けた。
制限時間が終了すると、任務完了の通知が表示された。
【任務完了】
【主目標:達成】
【副目標:達成】
【最終評価:A】
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ロビーへ戻ると、KAIが記録を確認した。
「攻略記録を読んでいたから、もっと簡単にいくと思ったんだけどな」
「相手の動きが完全に同じとは限らないからね」
悠真は今回の戦闘記録を開いた。
攻略済みの任務でも、敵の出現位置や動きが毎回完全に同じとは限らない。さらに、参加するプレイヤーの装備や判断も異なる。
今回のチームは施設を守り切ったが、動力施設には損傷が残り、初回攻略チームと同じS評価には届かなかった。
「でも、攻略記録は役に立ったよ。何を守るべきか、先に考えられたから」
RIONが言った。
「うん。全部をそのまま真似するんじゃなくて、状況に合わせて使うんだね」
悠真は記録を保存した。
昨日、任務に参加しなかったことは、今日の挑戦を妨げなかった。
初回攻略報酬は得られなかったが、任務そのものは残っていた。
そして、一度攻略された場所であっても、自分たちが同じ結果を出せるとは限らなかった。
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その後、三人はロビーで少し休憩した。
KAIは別の戦闘任務を探し、RIONは装備の調整を始めた。
悠真はランキングを確認した。
順位に変化はなかった。
一位のKAIは近接戦闘で安定した記録を残し、二位のRIONは遠距離戦闘で高い成果を維持している。
悠真は二人と違う任務にも参加し、さまざまな状況を経験していた。
自分に足りないものが何なのか、まだ明確に説明できるわけではない。
ただ、今回の任務では、攻略記録を読むことと、実際の戦場で判断することが別だと感じた。
「次は、別の任務もやってみようかな」
悠真が言うと、KAIは頷いた。
「やりたいものを選べばいい。全部を同じように攻略する必要はないだろ」
三人はそれぞれ、次に参加する任務を探し始めた。
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運営側では、南部動力施設防衛の再挑戦記録が保存されていた。
初回攻略チームはS評価を獲得していたが、悠真たちのチームはA評価だった。
悠真は攻略記録を参照し、敵の出現位置と施設の損傷状況を確認しながら戦闘していた。
一方、実際の戦闘では、敵の移動や味方の配置に応じて、当初の予定を変更している。
攻略済みの任務に参加したことと、攻略済みの手順をそのまま再現したことは、同じではなかった。
旧設備管理路の進捗に、新しい通知はなかった。
現地の補強作業は、引き続き準備段階にある。
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夜、悠真は母親に今日の任務について話した。
「昨日参加しなかった高難度任務、今日やってみたよ。もう攻略されていたけどね」
「それでも、遊べたの?」
「うん。再挑戦はできた。でも、最初に攻略した人たちと同じ評価にはならなかった」
「どうして?」
「敵の動きも違うし、参加する人たちも違うから。攻略記録を読んでも、実際に同じようにできるとは限らないんだ」
母親は頷いた。
「前に誰かがうまくできた方法でも、自分が同じ結果を出せるとは限らないのね」
「そう。でも、記録があると、何を考えればいいか分かりやすくなるよ」
母親は夕食の準備をしながら言った。
「それなら、記録を参考にしながら、自分で考えることも必要なのね」
「うん。今日はそれが少し分かった気がする」
悠真は翌日の準備を済ませた。
攻略された任務は、もう新しいものではない。
それでも、参加する人が違えば、戦い方も結果も変わる。
同じ場所に戻っても、同じ経験になるとは限らない。
悠真は端末を充電器につなぎ、明日の予定を確認した。
明日はまた、別の任務を選ぶことになるだろう。




