第111章 選ばなかった任務
火曜日の放課後。
悠真は宿題を終えると、《クロスギア》に接続した。
ロビーには、昨日より多くの任務が並んでいた。新しい高難度任務の募集もあれば、短時間で終わる補給依頼もある。ランキングの更新通知も表示されていた。
悠真は最初にランキングを確認した。
【総合ランキング】
1位 KAI
2位 RION
3位 YUMA
順位に大きな変化はなかった。
KAIは近接戦闘で高い勝率を維持している。RIONは遠距離戦闘の命中率と支援効率が安定していた。悠真は複数の任務形式に参加しているため、総合的な記録では二人に続く位置にいる。
悠真はランキング画面を閉じた。
順位が気にならないわけではない。
けれど、毎回ランキングだけを意識して遊ぶつもりもなかった。
今日は何をするか。
それを決める方が先だった。
⸻
KAIからメッセージが届いた。
【KAI:新しい高難度防衛任務が出てる。参加するか?】
悠真は任務の詳細を開いた。
【任務名:南部動力施設防衛】
【任務形式:高難度】
【制限時間:45分】
【主目標:動力施設の防衛】
【副目標:補助電源設備の維持】
【推奨人数:4~6名】
敵の攻撃を受けながら、動力施設と補助電源設備を守る任務だった。
悠真は参加条件と想定時間を確認した。
「今日は高難度か……」
KAIに返事をする前に、もう一つの任務が目に入った。
【任務名:山岳整備路の物資運搬】
【任務形式:通常】
【主目標:交換部品の搬送】
【副目標:経路の状態報告】
【推奨人数:2~3名】
どちらも参加できる。
ただし、高難度任務は長時間になる可能性があり、途中で抜けることも簡単ではない。一方、物資運搬なら比較的短時間で終えられる。
悠真は少し考えた。
今日は学校で大きな問題もなく、体調も悪くない。高難度任務に参加する余裕はあるだろう。
それでも、長い任務を必ず選ばなければならない理由はなかった。
【YUMA:今日は物資運搬にするよ。そのあと時間があれば、別の任務もやろう】
【KAI:了解。じゃあ、俺もそっちに行く】
悠真は募集を開き、KAIと一緒に参加した。
⸻
山岳整備路は、斜面に沿って続く細い道路だった。
運搬する部品は、山の中腹にある整備拠点で使用する予定だった。
出発地点の管理員が説明した。
「途中に二つの分岐がある。通常経路が通行可能なら、そのまま進んでくれ。通行できない場合は、迂回路へ案内する」
悠真は地図を確認した。
通常経路は短いが、途中に急な斜面がある。迂回路は距離が長いものの、道幅が広く、車両が通りやすい構造になっていた。
「どっちを使うかは、現地で決めるんですね」
「そうだ。出発時点では通常経路を使う予定だが、途中の状況によって変更する可能性がある」
二人は運搬車両を護衛しながら出発した。
⸻
最初の分岐に到着すると、通常経路の入口に作業員が立っていた。
「この先で斜面の点検を行っている。徒歩での通行は可能だが、現在の車両重量では安全確認が終わっていない」
管理員から、迂回路を使うよう指示が届いた。
KAIが地図を確認した。
「迂回すると、かなり遠回りになるな」
「でも、車両を通していいか分からないんだから、仕方ないね」
悠真は運搬経路を更新した。
車両は分岐を曲がり、迂回路へ進んだ。
道幅は広かったが、途中に資材を積んだ別の車両が停車していた。運転手は、荷物の固定状態を確認しているところだった。
管理員が状況を確認し、通行できるようになるまで待機することになった。
「また待ち時間か」
KAIが言った。
「でも、ここで無理に追い越すよりはいいと思う」
悠真は周囲を見回した。
待機地点には、道路の状態を示す案内板が設置されていた。表示の一部が古く、現在の迂回路番号と一致していない。
悠真は案内板の番号と、手元の地図を見比べた。
「この案内板、今の経路番号と違うね」
KAIも確認した。
「古い番号が残っているのか?」
「そうかもしれない。でも、今の車両の通行には影響していないみたいだ」
悠真は管理員に報告した。
管理員は記録を確認し、案内板の表示更新を依頼した。
【案内表示:更新依頼】
【通行への影響:なし】
【車両待機:継続】
数分後、先行車両の点検が終わった。
運搬車両は再び動き始め、山中の整備拠点へ到着した。
交換部品の数量を確認し、受け渡しを終える。
【物資運搬:完了】
【経路報告:完了】
【任務評価:A】
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ロビーへ戻ると、KAIが高難度任務の募集状況を確認した。
「まだ募集しているな。今からでも参加できそうだ」
悠真も募集人数を確認した。
必要人数は集まりつつあったが、任務開始までは少し時間がある。
「参加するか?」
KAIが尋ねた。
悠真は制限時間と、今日の残り時間を確認した。
「今日はやめておくよ。物資運搬は終わったけど、今から参加したら、終わる時間が読めないから」
「分かった。俺も別の任務を探すか」
KAIは高難度任務の募集を閉じた。
悠真は、最初に見つけた高難度防衛任務の詳細をもう一度開いた。
参加しなかったからといって、任務が消えるわけではない。
明日も募集があるかもしれないし、別のプレイヤーたちが先に攻略するかもしれない。
どちらになっても、今すぐ決める必要はなかった。
⸻
悠真はロビーで装備の調整を始めた。
物資運搬で使用した装備は、移動速度と防御力を重視した構成だった。
高難度防衛任務に参加するなら、敵の攻撃を受け止めるための装備に変更する必要がある。
悠真は防御性能を高めた装備と、回避性能を重視した装備を比較した。
防御重視の構成は、敵の攻撃を受けても耐えやすい。一方、回避重視の構成は、攻撃を受ける前に位置を変えやすい。
どちらが適しているかは、任務の敵や目標によって異なる。
悠真は装備の数値を記録し、次回の検証用に保存した。
「準備だけしておくのも悪くないな」
彼は小さく呟いた。
その後、KAIと短い訓練を行い、装備変更による動作の違いを確かめた。
新しい装備を使いこなすには、実際の戦闘でも試す必要がある。
ただ、今日はそこまで進める必要はなかった。
⸻
運営側では、悠真の当日の行動記録が整理されていた。
高難度防衛任務の募集を確認した後、悠真は通常の物資運搬を選択した。
任務は完了し、装備の比較と短時間の訓練を行った後、追加の高難度任務には参加していない。
記録には、任務の選択、接続時間、装備変更、訓練結果が保存されていた。
ただし、選ばなかった任務について、悠真が何を考えていたかを記録だけで完全に判断することはできない。
旧設備管理路では、空洞周辺の補強に向けた準備が続いていた。
資材は確保されているが、現地の安全確認と作業手順の調整が終わっていない。
新しい進捗通知は、まだ表示されていなかった。
⸻
夜、悠真は母親に今日のことを話した。
「今日は高難度の任務もあったんだけど、普通の運搬任務にしたよ」
「難しい方を選ばなかったの?」
「うん。運搬が終わったあとに参加すると、時間が遅くなりそうだったから」
母親は夕食の皿を並べながら尋ねた。
「参加できるときでも、参加しないことがあるのね」
「そうだね。できるかどうかと、今やる必要があるかどうかは違うと思う」
「それなら、明日でもいいことは明日に回せばいいわね」
悠真は頷いた。
「明日、時間があれば挑戦するよ。もう攻略されているかもしれないけど」
「誰かが先に終わらせていたら?」
「そのときは、別の任務をやればいいよ」
母親は笑った。
「ずいぶん気楽になったのね」
悠真も笑った。
以前なら、面白そうな任務を見つけると、できるだけ早く参加しようとしていたかもしれない。
けれど、ゲームには多くの任務がある。
すべてを同時に遊ぶことはできないし、今日参加しなかった任務が、明日も同じ状態で残っているとは限らない。
それでも、一つの任務を選ばなかっただけで、遊び方がなくなるわけではなかった。
悠真は夕食を終え、明日の準備を済ませた。
今日選んだ任務は、特別な戦闘もない普通の運搬だった。
けれど、無理に難しい任務へ進まず、今の予定に合うものを選ぶことも、自分でゲームを続けていくための判断だった。
明日は明日で、また別の選択がある。




