第108章 変わっていく街
土曜日の朝。
悠真が目を覚ましたとき、窓の外はすでに明るくなっていた。
朝食を済ませ、宿題の残りを確認してから、《クロスギア》に接続する。
週末のロビーは平日よりも賑やかだった。任務募集の一覧には、通常任務に加えて、複数人で参加できる探索依頼も並んでいる。
悠真はKAIとRIONに連絡した。
【YUMA:今日は何をする?】
【KAI:戦闘系なら何でもいいぞ】
【RION:探索任務も見てみたい。最近、行っていない場所が多いからね】
悠真は掲示板を開き、北部旧市街の依頼を見つけた。
【探索任務:旧市街物流区画】
【任務内容:物流設備の稼働状況確認】
【調査項目:搬送路・保管区画・案内設備】
【任務評価:調査記録および報告内容により判定】
「これにしよう。戦闘が目的じゃないみたいだけど」
「たまにはいいだろう」
KAIが答えた。
三人は任務を受け、北部旧市街へ向かった。
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物流区画には、古い建物と新しい設備が混在していた。
道路脇には、今も稼働している搬送車両が走っている。一方、建物の奥には、使用されなくなった搬送装置や閉鎖された保管区画も残っていた。
案内役のNPCが三人を迎えた。
「現在、この区画では設備の整理を進めています。すべての設備が停止しているわけではありません。稼働中のものと、休止中のものを区別して確認してください」
「動いているように見えても、使われているとは限らないんですね」
悠真が尋ねた。
「そのとおりです。定期的に動作する設備もありますが、実際の搬送に使われているかどうかは、別途確認する必要があります」
案内役は最初の調査地点を示した。
そこには、荷物を運ぶための古い搬送装置が設置されていた。
装置の表示灯は点灯していたが、搬送台には何も載っていない。
RIONが操作盤を確認した。
「電源は入っている。でも、搬送指示は出ていないみたいだ」
KAIは装置の周囲を調べた。
「故障しているわけじゃないのか?」
「今の状態だけでは分からないね」
悠真は案内役に確認した。
NPCは記録を調べ、答えた。
「この装置は定期点検のために電源を維持しています。現在の物流経路では使用していません」
三人は記録を残した。
【設備A:通電中】
【搬送指示:なし】
【現在の運用:対象外】
【故障判定:該当せず】
「これなら、異常がないことを報告すればいいんだね」
悠真が言った。
「そうだね。動いていないからといって、壊れているとは限らない」
RIONが答えた。
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次の調査地点は、保管区画だった。
入口の表示には、保管中の資材の一覧が記されている。
しかし、実際に棚を確認すると、一部の区画が空になっていた。
悠真は一覧と現物を照合した。
「ここも、記録と違うな」
KAIが棚の奥を覗いた。
「別の場所に移したんじゃないか?」
「その可能性はあるけど、まだ分からないよ」
三人は勝手に資材を移動させず、管理員に報告した。
管理員は端末を操作し、記録を確認した。
「この資材は、先週、別の保管区画へ移動しています。ただし、一覧の更新が一部遅れていたようです」
「じゃあ、資材がなくなったわけではないんですね」
「はい。移動先は確認できています。表示を更新しておきます」
【保管記録:更新待ち】
【現物の所在:確認済み】
【紛失:確認されず】
悠真は報告内容を保存した。
現物が見当たらなかった理由は、盗難でも紛失でもなかった。
ただ、管理記録が現状に追いついていなかっただけだった。
もっとも、記録が更新されていない状態では、別の担当者が同じ資材を探し続けることになる。
正しい情報を残すことにも意味があった。
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最後の調査地点は、区画の端にある案内設備だった。
古い案内板の隣に、新しい表示端末が設置されている。
新しい端末には、現在の搬送経路と使用中の保管区画が表示されていた。
一方、古い案内板には、現在の経路とは異なる番号が残っている。
「この番号、今の地図にはないね」
RIONが言った。
悠真は案内板の記録を確認した。
古い番号の一部は、すでに廃止された物流経路に使われていたらしい。ただし、案内板そのものは撤去されず、現在も設備の一部として残されている。
「使われていない案内板を、まだ置いているんだ」
KAIが言った。
案内役のNPCは答えた。
「すべての旧設備を撤去するには、確認と作業が必要です。現在の運用に支障がないものは、撤去の優先順位が低くなる場合があります」
悠真は古い案内板と新しい表示端末を見比べた。
古いものが残っているからといって、それが現在も使われているとは限らない。
反対に、使われていないように見えるものでも、記録や管理上の役割を持っている場合がある。
三人は案内設備の状態を報告し、任務を完了した。
【任務評価:A】
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ロビーへ戻ると、KAIが探索記録を確認していた。
「今日は、故障している設備はなかったな」
「うん。でも、記録が古かったり、使われていない設備が残っていたりした」
悠真は調査内容を整理した。
通電していても、現在の物流には使われていない装置。
現物がなくなったように見えて、実際には別の場所へ移動していた資材。
現在の経路では使われていない、古い案内板。
三つの問題は、それぞれ理由が異なっていた。
「見た目だけで判断すると、間違えることがあるんだね」
RIONが言った。
「だから、記録も確認する。でも、記録だけを信じるのも駄目なんだと思う」
悠真は調査結果を保存した。
「現物と記録を比べて、違っていたら理由を確認する。理由が分からなかったら、分からないまま報告する」
「それなら、余計なことを決めつけずに済むな」
KAIが答えた。
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午後、三人は短い戦闘任務に参加した。
今度は、森林地帯に出現する機械獣の群れを討伐する依頼だった。
探索任務とは違い、敵の動きに対応しなければならない。
悠真は前方の敵に攻撃を仕掛けたが、別の一体が側面から回り込んできた。
以前なら、目の前の敵を倒すことに集中しすぎていたかもしれない。
しかし、悠真は攻撃を中断して位置を変え、KAIと合流した。
RIONの遠距離攻撃が敵の進路を制限し、KAIが前方を押さえる。
三人は互いの位置を確認しながら戦い、最後の機械獣を倒した。
【任務評価:A】
「探索の後だと、敵の動きも少し違って見えるな」
KAIが言った。
「どういうこと?」
「戦闘中に見えるものだけじゃなくて、周りの状況も見るようになったってことだ」
悠真は少し考えた。
確かに、目の前に現れた敵だけを見ていては、別の敵の動きや味方の位置を見落とすことがある。
「まだ、全部できるわけじゃないけどね」
「最初から全部できるやつなんていないだろ」
KAIはそう答えた。
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運営側では、北部旧市街物流区画の調査結果が保存されていた。
通電中の搬送装置は、点検用に電源が維持されていた。
保管資材の所在は確認され、更新が遅れていた管理記録も修正された。
古い案内板には廃止された経路番号が残っていたが、現在の物流運用に直接使われているわけではなかった。
いずれも、現時点では個別の設備管理上の問題として扱われていた。
旧設備管理路の補強作業については、引き続き現地確認と作業手順の調整が進められている。
両者を結びつける新しい情報はなかった。
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夕方、悠真は母親に今日の探索任務について話した。
「古い設備を調べたんだけど、見た目だけじゃ分からないことが多かったよ」
「例えば?」
「電源が入っていても、今は使っていない装置があったり、物がなくなったように見えて、実際は別の場所に移動していたり」
母親は頷いた。
「見えたことと、その理由は別なのね」
「うん。理由が分からないときに、勝手に決めつけないことも大事だと思った」
「それは、ゲームの中だけじゃなくて、いろいろなことに言えるかもしれないね」
悠真は笑った。
その後、翌日の予定を確認し、必要な準備を済ませた。
ゲームの世界には、使われなくなった設備も、古い記録も、現在の生活の中に残っている。
すべてに特別な意味があるわけではない。
ただ、今の状態だけでは分からないものがあるなら、調べてみる価値はある。
そして、調べても分からないことは、分からないまま残しておけばいい。
悠真は端末を充電器につないだ。
明日は何をしようか。
まだ決めていなかった。




