第107章 予定どおりにはいかない
金曜日の放課後。
悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーには週末を前にしたプレイヤーたちが集まり始めていた。
任務掲示板には、通常任務のほかに、期間限定の護衛任務が追加されている。
【地域護衛任務:北部補給路】
【任務内容:補給車両の護衛および到着確認】
【危険度:中】
【推奨人数:三名】
悠真は詳細を確認し、KAIとRIONを誘った。
【YUMA:北部補給路の護衛任務、どう?】
【KAI:参加する】
【RION:僕も大丈夫】
三人は編成を組み、任務へ向かった。
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補給路の出発地点には、資材を積んだ車両が二台並んでいた。
今回の目的地は、北部の整備拠点。
車両には交換用の駆動部品や工具が積まれており、到着後は整備担当のNPCが受け取りを行う予定だった。
現場の管理員が説明する。
「途中の分岐路で道路点検が行われている。通行可能かどうかは、現地の確認が終わるまで確定しない。案内が出たら、それに従ってくれ」
「もし、通れなかったら?」
悠真が尋ねた。
「迂回路を使う。ただし、迂回路にも別の車両が通る予定がある。状況によっては待機してもらうことになる」
三人は説明を確認し、車両の護衛を開始した。
前方をKAI、後方をRION、悠真は車両の近くを移動する。
道中では小型の機械獣が数体現れたが、三人は車両から離れすぎないように注意しながら撃退した。
しばらく進むと、分岐路の手前で車両が停止した。
【道路点検:継続中】
【主経路:一時通行停止】
【迂回路:使用調整中】
「また待機か」
KAIが周囲を確認した。
悠真は地図を開いた。
迂回路は存在している。しかし、そこを通るには車両の進行方向を変更し、狭い区間を抜けなければならない。
「先に進めるかどうか、まだ分からないね」
「管理員の指示を待つしかないか」
RIONも同意した。
三人は待機地点で周囲を警戒した。
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数分後、道路点検の担当者から連絡が届いた。
主経路では、路面の一部に亀裂が見つかったらしい。すぐに大規模な修繕が必要という段階ではないものの、重量のある補給車両を通すには追加確認が必要だった。
一方、迂回路では別の運搬車両が先に通行する予定になっていた。
【迂回路:先行車両通過待ち】
【予想待機時間:不明】
「時間が分からないんだ」
悠真が表示を見ながら言った。
「先行車両がいつ出発するか、まだ決まっていないんだろうな」
KAIは焦る様子もなく、周囲を確認した。
待機地点のそばには、路肩の案内標識が傾いていた。護衛任務の対象ではなかったが、NPCの道路管理員が標識の位置を確認している。
悠真は少し迷ってから、管理員に声をかけた。
「何か手伝えることはありますか?」
管理員は三人を見て答えた。
「標識の固定具が緩んでいる。予備の固定具はあるが、交換には少し時間がかかる。補給車両の護衛が優先なら、無理に手伝う必要はない」
悠真は車両の位置を確認した。
護衛対象は安全な待機地点にいる。今すぐ出発する状況でもなかった。
「車両から離れすぎない範囲なら、手伝えそうです」
三人は管理員の指示を受け、標識の固定作業を補助した。
KAIが標識を支え、RIONが固定具を確認する。悠真は交換用の部材を運んだ。
作業そのものは難しくなかったが、標識が正しい向きを保つように調整する必要があった。
固定が終わると、管理員は標識の位置を確認した。
「これなら問題ない。助かったよ」
【補助作業:完了】
悠真たちは車両のもとへ戻った。
護衛対象に異常はなかった。
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その後、迂回路を通る先行車両が出発した。
通路が空くまでには、さらに時間がかかった。
ようやく通行許可が出ると、三人は補給車両を誘導して迂回路へ進んだ。
狭い区間では速度を落とし、車両同士がすれ違える場所で一度停止した。
予定より時間はかかったものの、大きな問題は起きなかった。
北部整備拠点に到着すると、NPCの整備担当者が資材を受け取った。
【補給品:数量確認済み】
【受け渡し:完了】
【任務評価:A】
「思ったより時間がかかったね」
RIONが言った。
「でも、無理に主経路を通ろうとしなくてよかった」
悠真は任務記録を確認した。
道路の亀裂は、補給車両を通す前に確認する必要があった。迂回路も、先行車両が通過するまでは使えなかった。
結果として、出発前の予定よりも遅れた。
しかし、補給品は無事に届けられた。
「最初から予定どおりに進まないこともあるんだな」
KAIが言った。
「うん。予定を立てることと、予定どおりに進むことは別だからね」
悠真はそう答えた。
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任務を終えた三人は、いったんロビーに戻った。
RIONは翌日の予定を確認し、少し早めにログアウトした。
悠真とKAIは、短時間だけランク戦に参加することにした。
今回の対戦は三対三。
相手チームは開始直後から中央の目標地点を確保し、二人を左右に分けて動かしてきた。
悠真は最初、右側の敵を追いかけようとした。
しかし、敵は距離を取りながら後退している。
以前の対戦なら、そのまま追撃していたかもしれない。
悠真は一度立ち止まり、味方の位置を確認した。
KAIは中央付近で敵一人を引きつけている。もう一人の味方は、左側の目標地点へ向かっていた。
「KAI、右側は追わない。中央に戻るよ」
【KAI:了解】
悠真は追撃をやめ、中央へ戻った。
敵は一度、悠真を追いかけるように動いたが、中央の目標地点を維持する二人を放置することはできなかった。
相手の隊形が崩れた瞬間、KAIが前進する。
悠真はその動きに合わせて攻撃を仕掛けた。
味方も左側から合流し、三人で敵の一人を追い込んだ。
試合は接戦になったが、最後は目標地点の確保時間の差で悠真たちが勝利した。
【ランク戦:勝利】
「さっきの護衛任務が役に立ったのか?」
KAIが尋ねた。
「どうだろう。ただ、相手が動いたからって、すぐに追いかける必要はないって思ったんだ」
悠真は対戦記録を保存した。
敵の動きに反応するだけでは、相手が望む方向へ誘導されることもある。
何を守り、どこに味方がいるのか。
それを確認してから動くことも、戦い方の一つだった。
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運営側では、その日の任務記録が整理されていた。
北部補給路では、道路点検による通行停止と迂回路の待機が発生した。プレイヤーたちは護衛対象を維持したまま、待機中に別の補助作業を行い、最終的に補給品を届けていた。
ランク戦では、悠真が敵の後退を追いかけず、中央の目標地点へ戻る判断をした。
二つの記録は、それぞれ異なる任務として保存された。
旧設備管理路では、必要な資材がそろっていたものの、空洞周辺の確認と作業手順の調整が続いている。
補強作業の開始時刻は、まだ確定していなかった。
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夜、悠真は母親に今日のことを話した。
「護衛任務で、道路点検のせいでかなり待たされたんだ。でも、迂回路が空くまで待って、ちゃんと届けられたよ」
「途中で急いで進もうとは思わなかったの?」
「少しは思ったよ。でも、重い車両を通していいか分からない道を無理に進むより、確認を待った方がいいと思った」
母親は頷いた。
「待つことも、何もしないこととは違うのね」
「うん。状況が変わるまで待つのも、必要な判断だと思う」
母親は悠真の顔を見た。
「ゲームをしているときも、ずっと集中しているでしょう。今日はもう十分遊んだんじゃない?」
悠真は時計を確認した。
確かに、予定していた時間を少し過ぎていた。
「そうだね。今日はここまでにするよ」
端末を終了し、明日の準備を始める。
ゲームの中では、道路の亀裂が見つかり、補給路が一時的に止まり、迂回路の通行を待つことになった。
すべてが最初の予定どおりに進んだわけではない。
それでも、必要な確認を行い、できることを済ませれば、目的地へたどり着くことはできる。
悠真は明日の予定を確認してから、部屋の明かりを消した。




