第106章 足りないものの行方
木曜日の放課後。
悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーの任務掲示板に見慣れた通知が表示されていた。
【地域作業依頼:旧設備管理路】
【作業内容:不足資材の確認および追加搬入】
【参加条件:運搬補助・資材照合】
【作業予定:本日】
悠真は詳細を開いた。
昨日、数量が合わなかった固定部材について、出発地点での再確認が終わったらしい。
【確認結果:一部資材の積載先変更】
【追加搬入:実施予定】
【残りの数量:現地到着後に照合】
「見つかったんだ」
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:旧設備管理路の追加搬入依頼が出てるよ】
【KAI:昨日の続きか。行こう】
【YUMA:RIONにも聞いてみる】
RIONは少し遅れて返事をした。
【RION:今日は参加できるよ。ただ、長時間は難しいから、搬入が終わったら抜けるね】
三人は旧設備管理路へ向かった。
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現場では、補修班の作業員たちが資材の受け入れ準備を進めていた。
昨日の配置図には、新しい記号が追加されている。
【固定部材:追加搬入待ち】
【基礎補強材:受け入れ済み】
【作業区画:整理完了】
責任者は三人を迎えると、運搬車両の到着地点を示した。
「不足していた部材は、別の補修現場向けの荷物に混ざっていた。出発地点で見つかったので、こちらへ回してもらうことになった」
「じゃあ、昨日の数が合わなかったのは、積み忘れじゃなかったんですね」
悠真が尋ねた。
「結果としては、そうだ。ただ、最初の記録だけでは分からなかった。現物と記録を照合したから見つかったんだ」
責任者は続けた。
「今日は追加分を受け取って、すでに保管している部材と合わせて数量を確認する。問題がなければ、補強作業の準備を進められる」
やがて運搬車両が到着した。
KAIが車両を誘導し、RIONが荷札を確認する。悠真は昨日の記録を開き、今回の搬入分と照らし合わせた。
部材は指定された数量に達していた。
【固定部材:数量一致】
【規格:照合済み】
【受け入れ:完了】
「これで、資材はそろったんですね」
悠真が言うと、責任者は頷いた。
「必要量は確保できた。次は、現地の状態をもう一度確認してから、補強作業に入る」
資材がそろったからといって、すぐに作業が始まるわけではない。
作業員たちは補強材の配置を再確認し、運搬経路に障害物がないか調べ始めた。
悠真たちは、資材を指定された区画へ移し終えると、作業員の邪魔にならない場所へ下がった。
⸻
しばらくして、責任者が現地確認の結果を伝えた。
「補強に必要な資材はそろった。ただ、空洞の周辺は地面の状態が均一ではない。補強する範囲と作業順序を、現地の状態に合わせて調整する必要がある」
「じゃあ、まだ通れるようにはならないんですか?」
悠真が尋ねた。
「まだだ。補強が終わって、安全を確認するまでは通路を開放できない」
悠真は封鎖区域を見た。
以前、東側の通路が少しだけ開いたことはあった。しかし、今回の空洞周辺は別の作業区画として管理されている。そちらが開放されたからといって、この場所も安全だとは限らない。
「分かりました。今日はここまでですね」
「そうだ。搬入は助かった。作業が始まったら、また補助を頼むことがあるかもしれない」
三人は依頼の完了を確認し、ロビーへ戻った。
【任務評価:A】
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「昨日の問題は解決したけど、まだ先があるんだな」
KAIが言った。
「資材が足りない問題と、実際に作業できるかどうかは別だったね」
悠真は、今日の記録を見直した。
昨日は不足していた部材の所在が分からなかった。今日は別の補修現場に回されていたことが判明し、必要な数量をそろえることができた。
けれど、空洞の周囲を補強するには、地面の状態を確認しながら作業を進めなければならない。
一つの問題が解決しても、次の問題がなくなるわけではない。
「次は、補強作業そのものか」
KAIが言った。
「うん。でも、僕たちができるのは、依頼が出たときに手伝うことくらいだよ。現場の人たちが決めることまで、勝手に判断するわけにはいかないし」
悠真は任務記録を閉じた。
その後、RIONは予定通りログアウトした。
悠真とKAIは、ロビーで短い装備検証の募集を見つけた。
【訓練依頼:防御装備比較】
【内容:同一攻撃に対する被ダメージ測定】
【参加人数:二名】
「これ、少しやってみる?」
悠真が尋ねた。
「いいぞ。昨日まで使っていた装備と比べてみよう」
二人は訓練区画へ移動した。
同じ攻撃を受けても、防御装備の構成によって、ダメージや動作への影響は異なった。
防御を厚くすれば被害は抑えやすい。しかし、装備が重くなると移動や回避に影響が出る。
悠真は数回の測定結果を記録し、装備を変更してもう一度試した。
「数字だけなら、こっちの装備の方がいい。でも、実際の戦闘で動きにくくなるなら、必ずしも使いやすいとは限らないね」
「敵の攻撃を全部受けるつもりなら別だけどな」
KAIが答えた。
「そんな戦い方はしたくないよ」
悠真は笑った。
二人は検証を終え、記録を保存した。
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運営側では、旧設備管理路の進捗が更新されていた。
【必要資材:確保】
【数量差異:解消】
【現地確認:実施中】
【補強作業:開始前】
【通路開放:未定】
不足していた部材は、別の補修現場向けの荷物に混ざっていたことが確認された。
一方、空洞周辺の地面については、現地確認と作業手順の調整が続いている。
資材の問題が解決したことと、通路の安全が確保されたことは、別の段階として記録されていた。
通信設備の記録に変化はない。
旧設備管理路の調査と、過去の通信記録をめぐる調査との間に、新しい関係を示す情報もなかった。
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夜、悠真は母親に今日の出来事を話した。
「昨日足りなかった部材、別の現場に回されていたんだって。今日、追加で届いて、必要な数はそろったよ」
「それなら、工事は始まるの?」
「現地の確認がまだ必要なんだ。地面の状態によって、補強する範囲や順番を変えるらしい」
母親は少し考えてから尋ねた。
「必要なものが全部そろっていても、すぐには始められないことがあるのね」
「うん。材料があることと、安全に作業できることは違うから」
「そうね。準備が終わったと思っても、最後に確認しなければ分からないこともあるものね」
悠真は頷いた。
今日の任務では、敵を倒したわけでも、新しい場所を発見したわけでもない。
それでも、昨日まで分からなかった部材の行方が判明し、必要な数量がそろった。
旧設備管理路の補強作業は、ようやく開始前の確認段階まで進んだ。
次に何が見つかるのか。
それとも、何も見つからず、予定通り補強だけが進むのか。
今の時点では、まだ分からなかった。




