第105章 動き出す準備
水曜日の放課後。
悠真は宿題を終えてから、《クロスギア》に接続した。
ロビーでは、通常任務の募集がいくつも流れていた。採掘拠点の護衛、森林地帯の討伐、装備の検証。どれも見慣れた内容だったが、掲示板の下部に新しい通知が表示されていた。
【地域作業依頼:旧設備管理路】
【作業内容:補強資材の搬入補助】
【参加条件:運搬車両の誘導および資材の仕分け】
【作業開始予定:本日】
【注意事項:現場責任者の指示に従うこと】
悠真は通知を開いた。
「ようやく搬入が始まるみたいだ」
KAIに連絡すると、すぐに返事があった。
【KAI:行こう。前から待っていた作業だしな】
その後、RIONもオンラインになった。
【RION:僕も参加できるよ。ただし、今日は少し早めに抜ける予定】
【YUMA:分かった。じゃあ、先に搬入を手伝おう】
三人は旧設備管理路へ向かった。
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現地では、補修班の作業員たちが運搬車両の到着を待っていた。
以前、資材を保管していた区画には、搬入順を示す案内板が設置されている。
【第一便:基礎補強材】
【第二便:固定部材】
【第三便:補助資材】
【受け入れ確認:各便ごとに実施】
責任者が三人に説明した。
「今日は第一便と第二便の受け入れを行う。資材を運ぶだけでなく、数量と規格の確認も必要だ。受け取ったものは、指定された場所へ運んでくれ」
「全部まとめて運ぶわけではないんですね」
悠真が尋ねた。
「そうだ。先に使うものと、後で使うものがある。順番を間違えると、作業場所が塞がったり、必要な部材を探す手間が増えたりする」
責任者は、保管区画の配置図を示した。
三人はそれぞれの役割を確認した。
KAIは車両の誘導、RIONは資材の数量確認、悠真は運搬先の表示と現物の照合を担当する。
しばらくして、最初の運搬車両が到着した。
積まれていたのは、空洞の周囲を補強するための基礎補強材だった。
悠真は荷札と配置図を見比べ、一つずつ運搬先を確認した。
【資材番号:照合済み】
【数量:一致】
【保管位置:指定区画】
作業員たちは資材を降ろし、指定された位置へ並べていった。
次の車両には、固定部材が積まれていた。
ところが、荷札に記された数量と、実際に積まれている数量が一致しなかった。
「ちょっと待って。記録より二つ少ない」
RIONが確認した。
KAIは車両の荷台をもう一度調べたが、残りの部材は見当たらなかった。
「積み忘れかな?」
悠真は、すぐに判断しなかった。
「まだ分からないよ。別の車両に載せた可能性もあるし、荷札の記録が古い可能性もある」
三人は責任者へ報告した。
責任者は搬入記録を調べ、出発地点の管理員に確認を依頼した。
しばらくして、回答が届いた。
【数量差異:確認中】
【現物受け入れ:一部保留】
【不足分:出発地点で再確認】
不足している固定部材は、別の場所に積まれている可能性があるという。
「じゃあ、ここにある分はどうするんですか?」
悠真が尋ねた。
「確認できた分だけ受け入れる。ただし、不足分がそろうまでは、固定部材を使う工程には入らない」
責任者は、数量が一致した資材だけを保管区画へ移すよう指示した。
作業は一時的に遅れたが、現物と記録の両方を確認したことで、誤った数量のまま受け入れることは避けられた。
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第一便と第二便の受け入れが終わると、責任者は補修計画を更新した。
【基礎補強材:受け入れ完了】
【固定部材:一部受け入れ】
【不足分:再確認中】
【補強作業:開始準備】
「今日はここまでだ。補助資材の搬入は、数量確認が終わってからになる」
責任者は三人に礼を言った。
「手伝ってくれて助かった。資材の確認が終われば、次の工程へ進める」
悠真は封鎖された通路を見た。
ようやく作業が始まるところまで来た。
しかし、空洞の周囲を補強する作業そのものは、まだ始まっていない。
資材の受け入れが終わったことと、安全に作業できる準備が整ったことは、別だった。
「明日も依頼が出るかな?」
悠真が尋ねると、責任者は答えた。
「不足分の確認次第だ。必要なら、追加の運搬を頼むことになる」
三人は了承し、ロビーへ戻った。
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「思ったより時間がかかったね」
KAIが言った。
「でも、何が足りないのかは分かった」
悠真は作業記録を確認した。
資材は一部受け入れられた。数量が合わないものは保留され、不足分の確認が始まっている。
「もし、数が合っていないのに、そのまま受け取っていたら?」
RIONが尋ねた。
「あとで使うときに足りなくなって、作業が止まるかもしれない。今、確認した方がいいと思う」
悠真は記録を保存した。
今日は敵と戦うこともなければ、珍しい装備を手に入れたわけでもない。
けれど、現場で何かを進めるためには、戦闘とは別の判断も必要だった。
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その後、RIONは予定通りログアウトした。
悠真とKAIは、短い討伐任務を一つだけ行うことにした。
相手は小型の機械獣が複数出現する区域だった。
悠真は敵の数を確認し、無理に一体ずつ追いかけず、KAIと合流できる位置を保った。
KAIが前方の敵を引きつけ、悠真が側面から攻撃する。
敵が散らばったときも、二人は追撃を急がず、互いの位置を確認しながら戦った。
任務は短時間で完了した。
【任務評価:A】
「さっきの資材運搬と同じで、順番が大事だったな」
KAIが言った。
「そうかな?」
「一人で全部やろうとすると、敵を追いかけすぎたり、位置が崩れたりする。役割を分けた方がうまくいく場面もあるってことだ」
悠真は少し考えた。
「確かに。何を自分でやって、何を味方に任せるかも考えないといけないね」
二人は試合記録を保存した。
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運営側では、旧設備管理路の資材搬入記録が更新されていた。
【第一便:受け入れ完了】
【第二便:一部受け入れ】
【数量差異:確認中】
【補強作業:開始準備】
資材の数量が一致しなかった原因は、まだ確定していない。
現地の責任者は、出発地点の記録と現物を照合する手続きを進めていた。
空洞の周囲の補強作業は、必要な資材がそろい、安全な作業手順が確認されてから開始される予定だった。
通信設備の記録には、新しい情報は追加されていない。
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夜、悠真は母親に今日の作業について話した。
「古い通路の補修資材が届いたんだ。でも、荷札の数と実際の数が違っていて、一部は受け取りを保留したよ」
「それで、作業は進んだの?」
「全部は進まなかったけど、確認できた分は受け取れた。足りないものは、どこにあるのか調べているんだって」
母親は頷いた。
「急いで全部受け取るより、確認してから進めた方がいい場合もあるのね」
「うん。あとで足りないことが分かったら、もっと時間がかかるかもしれないから」
悠真は翌日の準備を済ませた。
旧設備管理路の補修は、まだ始まっていない。
けれど、資材は現地へ運ばれ、数量の確認も進んでいる。
止まっていたように見えた作業が、少しずつ次の段階へ移っていた。
悠真は端末を充電器につないだ。
不足している部材が見つかれば、次の作業へ進めるかもしれない。
見つからなければ、別の方法を考えることになるだろう。
どちらになるかは、まだ分からなかった。




