第104章 予定にない依頼
火曜日の放課後。
悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーに見慣れない任務が追加されていた。
【臨時依頼:森林集落・補給品の再整理】
【依頼元:森林集落補給管理所】
【目的:保管品の分類および搬送準備】
【推奨人数:1~3人】
【報酬:作業量に応じて変動】
悠真は任務の詳細を開いた。
通常の輸送任務とは違い、目的地へ運ぶ荷物はまだ確定していない。補給管理所にある保管品を分類し、別の地域へ送るものと、集落に残すものを分ける作業らしい。
【備考:他の作業の進行状況によって、分類内容が変更される場合があります】
「これ、何を運ぶか決まっていないんだね」
悠真はKAIに連絡した。
【YUMA:補給管理所の臨時依頼がある。やってみる?】
【KAI:いいよ。少し変わった任務だな】
二人は依頼を受け、森林集落へ向かった。
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補給管理所の倉庫には、大小さまざまな箱が並んでいた。
工具、金属部品、道路補修用の資材、観測機材の交換部品。箱には分類番号が付けられているものもあれば、以前の記録が不完全で、内容を確認する必要があるものもあった。
管理員が二人を出迎えた。
「今日は保管品の整理を手伝ってほしい。最近、複数の地域から資材の依頼が来ている。現在の在庫と照らし合わせて、搬送できるものを確認したいんだ」
「全部を送り出すわけではないんですね?」
悠真が尋ねた。
「そうだ。集落で使う予定のものまで送ってしまえば、こちらの作業が止まる。必要な量を残したうえで、余裕のあるものを振り分ける」
管理員は端末を操作し、分類画面を表示した。
【分類項目】
【A:現在の作業に使用】
【B:他地域への搬送候補】
【C:用途・数量の再確認】
【D:保管継続】
「まずは記録と現物を照合してくれ。判断できないものは、無理に分類しなくていい」
悠真とKAIは作業を始めた。
最初の箱には、道路補修用の固定具が入っていた。記録上の数量と現物は一致しており、森林集落で使う予定もなかったため、搬送候補に分類された。
次の箱には、観測機材の交換部品が入っていた。
こちらは記録上、予備品として保管されていたが、集落の管理員が近日中に使用する予定を立てていた。
悠真は、搬送候補ではなく、現在の作業に使用する分類を選んだ。
「同じ種類の部品でも、使う予定があるかどうかで変わるんだね」
KAIが言った。
「うん。余っているように見えても、すぐ使う予定があるなら残しておかないと」
作業は順調に進んだ。
しかし、古い木箱を開けたところで、二人は手を止めた。
中には金属製の小さな部品がいくつも入っていたが、箱のラベルは半分剥がれ、分類番号も読み取れない。
端末には、以前の保管記録が表示された。
【品目:一部欠損】
【数量:記録不一致】
【用途:未確認】
「これ、どこに分ければいいんだろう」
KAIが部品を手に取った。
悠真は、形状だけで判断するのをやめた。
「とりあえず、用途の再確認にしよう。見た目が似ていても、別の部品かもしれない」
二人は木箱の内容と数量を記録し、管理員へ確認を依頼した。
管理員は部品を確認したあと、保管台帳を調べ始めた。
「助かるよ。こういうものは、分からないまま送ると、受け取った側でも使えない可能性があるからな」
悠真たちは残りの箱を分類し、作業を終えた。
【分類作業:完了】
【搬送候補:確定】
【用途確認が必要な品目:管理員へ引き継ぎ】
【任務評価:A】
搬送候補に分類された資材は、午後の輸送車両に積み込まれることになった。
ただし、確認が必要な部品は倉庫に残されたままだった。
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「こういう仕事もあるんだな」
倉庫を出ながら、KAIが言った。
「敵と戦うわけでもないし、遠くへ運ぶわけでもないけどね」
「でも、間違えて送ったら、あとで困る人が出るんだろう?」
悠真は頷いた。
「分からないものを、分かったことにしないのも大事なんだと思う」
二人はロビーへ戻った。
その後、RIONもオンラインになり、三人で通常の討伐任務を一つ受注した。
今回の相手は、森林地帯に出現する中型の機械獣だった。
敵は高い耐久力を持っていたが、攻撃パターンは比較的単純だった。正面への突進と、前脚を使った広範囲攻撃を繰り返してくる。
悠真たちは距離を保ち、攻撃の前兆を確認しながら戦った。
途中、機械獣が大きく後退した。
悠真は敵を追おうとしたが、RIONの位置が少し離れていることに気づいた。
「一度、合流しよう!」
三人が陣形を整えると、機械獣は再び突進してきた。
KAIが正面から攻撃を受け流し、RIONが側面から射撃する。悠真は敵の動きを見ながら、攻撃が止まる瞬間に接近した。
数分後、機械獣は停止した。
【討伐任務:成功】
【任務評価:A】
派手な戦闘ではなかったが、三人の連携は安定していた。
悠真は報酬を受け取り、次の任務を探そうとした。
そのとき、地域情報に通知が表示された。
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【旧設備管理路・東側区画】
【補強資材:一部確保】
【規格確認:一部完了】
【不足資材:調整中】
【搬入計画:再調整】
「また更新されたね」
RIONが通知を確認した。
悠真は現地へ向かうことにした。
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旧設備管理路では、補修班の責任者が新しい搬入計画を確認していた。
資材の保管場所には、前日までに確保された部材が並んでいる。しかし、作業開始を示す表示はまだなかった。
「搬入計画が変わったんですか?」
悠真が尋ねた。
「そうだ。必要な資材のうち、一部は別の補修現場でも使うことになった。こちらに回せる数量を調整している」
「じゃあ、資材が足りなくなったんですか?」
「一時的にはそうなる。ただし、すぐに不足分を追加手配するか、作業の順序を変えるかは、もう少し確認してから決める」
責任者は補修計画を見せてくれた。
一部の資材が別の現場へ回されるため、当初の予定通りには進められなくなったらしい。
しかし、それだけで補修そのものが中止になったわけではない。
「別の現場も、同じように必要としているんですね」
悠真が言った。
「そうだ。こちらだけを優先すれば、別の場所で困る者が出ることもある。どちらの作業にも必要なものだから、全体を見て調整する必要がある」
悠真は頷いた。
旧設備管理路の作業は、ここだけで完結しているわけではなかった。
資材を集めるにも、別の地域で何が必要とされているかを考えなければならない。
「俺たちにできることはありますか?」
「今はない。計画が確定すれば、搬入や運搬を依頼することもあるだろう」
三人は責任者に挨拶し、現地を離れた。
通路の封鎖は続いていた。
空洞の内部も、奥にあるかもしれない構造も、まだ確認できていない。
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運営側では、補給管理所の分類作業と旧設備管理路の補修計画が、それぞれ更新されていた。
補給管理所では、用途が不明な部品が確認待ちとして保管され、搬送候補の資材だけが輸送準備へ回されている。
旧設備管理路では、他地域との資材調整に伴い、搬入計画が再検討されていた。
どちらも、現在の地域運営に関する通常の処理だった。
旧設備管理路の調査について、新たな構造や通信設備との関係を示す情報は追加されていない。
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夜、悠真は母親に今日の任務について話した。
「今日は倉庫の中の物を分類したんだ。別の場所に送るものと、残しておくものを分けたよ」
「必要なものを、必要な場所に残す仕事なのね」
「うん。余っているように見えても、使う予定があるものは送れないんだって」
母親は頷いた。
「物がたくさんあれば、それで全部解決するわけではないのね」
「そうだね。どこで何に使うかも考えないといけないみたい」
悠真は夕食を終え、明日の準備をした。
旧設備管理路の補修は、また予定の調整が必要になった。
けれど、それは誰かが何もしていないからではなかった。
別の地域にも作業があり、同じ資材を必要としている人がいる。
すべてを一つの場所へ集めれば解決する、というわけではない。
悠真は、今日見た倉庫の光景を思い出した。
何を送るかだけでなく、何を残すか。
その判断にも、情報が必要だった。
端末を充電器につなぎ、悠真は部屋の明かりを消した。




