第103章 月曜日の通知
月曜日の放課後。
悠真は学校から帰ると、先に宿題を済ませた。
週末に遊んだ分、今日は少し早めに休憩を取ろうと思っていた。宿題を終え、明日の時間割を確認してから、ようやく端末を起動する。
《クロスギア》のロビーには、週末の賑わいが少し落ち着いた雰囲気があった。
オンライン人数は二十万人を下回っている。ランキング戦の募集はまだ多いものの、週末限定の参加者がログアウトした影響もあるようだった。
悠真はフレンド一覧を開いた。
KAIはオンラインだった。
RIONは、まだ接続していない。
【YUMA:今日は何か変わったことがある?】
【KAI:大きな告知はないな。通常任務をいくつか見ていたところだ】
【YUMA:じゃあ、先に一つやろう】
二人は任務掲示板を確認した。
そのとき、地域情報に新しい通知が表示された。
【旧設備管理路・東側区画】
【補強資材:追加確保】
【搬入準備:進行中】
【作業開始:未定】
【通路開放:未定】
「資材がまた増えたみたいだな」
KAIが言った。
「見に行ってみようか」
悠真は地図を開き、旧設備管理路へ向かった。
⸻
現地では、補修班の作業員たちが資材の受け入れ準備を進めていた。
保管区画には、前回より多くの資材が並べられている。種類ごとに置き場所が分けられ、数量を記録するNPCが端末を操作していた。
悠真は責任者に話しかけた。
「資材が追加で届いたんですか?」
「一部は確保できた。まだ全部ではないが、補強に必要な資材は少しずつ集まっている」
「もうすぐ作業が始まるんですか?」
責任者はすぐには答えなかった。
「資材の数量だけでなく、品質や規格も確認しなければならない。必要な数がそろっていても、使える状態でなければ意味がないからな」
作業員の一人が、運ばれてきた金属部材の寸法を測っていた。
別の作業員は、保管記録と現物の数量を照合している。
「これも確認作業なんですね」
悠真が言うと、責任者は頷いた。
「そうだ。現場に運んでから規格が違うと分かれば、また戻さなければならない。事前に確認しておけば、その手間を減らせる」
悠真は保管区画を見渡した。
資材が増えたことで、補修作業は以前より現実的になっているように見えた。
しかし、作業開始の通知はまだ出ていない。
「俺たちに手伝えることはありますか?」
「今は資材の確認が中心だ。数量が確定して、搬入の順番が決まれば、運搬を頼むかもしれない」
悠真たちは、作業員の確認が終わるまで現場の邪魔にならない場所にいた。
しばらくして、責任者が端末に記録を保存した。
【受け入れ確認:一部完了】
【規格確認:継続中】
【補強作業:開始待ち】
新しい発見はなかった。
通路の奥も、空洞の周辺も、以前と同じ状態だった。
それでも、作業の準備は少しずつ進んでいた。
⸻
「じゃあ、次は普通の任務をやろう」
悠真が言った。
KAIと二人で選んだのは、山間部の観測装置を点検する任務だった。
観測装置は、周辺の地形変化や道路の状態を記録するために設置されている。最近、複数の地点からデータが届かなくなったため、現地で装置の動作を確認することになった。
悠真たちは指定地点へ向かった。
最初の装置は正常に動いていた。
二つ目の装置では、電力は供給されていたが、記録されたデータの更新が止まっていた。
【観測装置:稼働中】
【電力供給:正常】
【データ更新:停止】
【原因:未確認】
「電源は入っているのに、記録が更新されていないんだ」
悠真は装置の外側を確認した。
目立った損傷はない。周囲のケーブルにも、すぐに分かるような異常は見つからなかった。
「修理はできないのかな?」
KAIが尋ねた。
悠真は任務の説明を読み直した。
今回の目的は、指定地点の点検と異常の報告だ。内部の修理は、専門の管理班が担当することになっている。
「今は原因を決めつけずに、分かったことだけ報告しよう」
二人は装置の状態を記録し、管理班へ送信した。
残りの地点も点検したが、装置の状態はそれぞれ異なっていた。
一つは正常に動作し、もう一つは電力が供給されていない。
同じ任務で調べた装置でも、異常の内容は一つではなかった。
【点検記録:送信完了】
【任務評価:A】
「全部同じ原因とは限らないんだね」
悠真が言った。
「同じ結果に見えても、途中の状態が違うことはあるからな」
KAIが答えた。
悠真は記録を保存した。
何かが止まっているとき、すぐに一つの原因を考えたくなることがある。
けれど、確認してみれば、電力の問題なのか、記録の問題なのか、それとも別の問題なのかは分かれていく。
まず状態を確認する。
それから、必要な対応を考える。
今日の任務は、その順番を確かめるようなものだった。
⸻
ロビーへ戻ると、RIONがオンラインになっていた。
【RION:ごめん、少し遅くなった。何かやっていた?】
【YUMA:観測装置の点検任務。もう終わったところ】
【RION:それなら、短いランキング戦を一回やらない?】
三人は参加可能な試合を探した。
対戦相手は、中央の目標地点を守ることに慣れたチームだった。
試合開始後、悠真たちは中央へ向かったが、相手はすぐには攻めてこなかった。
一人が遮蔽物の後ろで待機し、残りの二人が左右の通路を押さえている。
「中央に入ろうとすると、両側から狙われるな」
KAIが言った。
悠真は敵の配置を確認した。
正面から進めば、相手の射線に入る。
かといって、遠回りをすれば、相手に中央を確保される可能性がある。
「RION、右側から少し圧力をかけて。KAIは中央の手前で待って。俺は左側を確認する」
三人はすぐに動いた。
RIONが右側で射撃を始めると、相手の一人が遮蔽物を移動した。
その瞬間、中央を守っていた敵の位置がわずかにずれた。
悠真は左側から中央へ入り、KAIと合流した。
三人が一度に突撃したわけではない。
相手の配置が変わった瞬間に、それぞれの位置を少しずつ調整したのだった。
しかし、相手も対応してきた。
中央を守る敵が後退し、別の一人が悠真の進路を塞いだ。
悠真は無理に追わず、KAIの位置を確認した。
「一度戻ろう。相手が守りを固めている」
KAIが応じ、RIONも射撃を止めて合流した。
その後、三人は別の通路から目標地点へ進み、終盤に中央を確保した。
試合は僅差だったが、最後まで目標地点を維持し、勝利した。
【試合結果:勝利】
「今日は相手の配置を変えさせてから動けたね」
RIONが言った。
「うん。最初から正面突破することだけ考えていたら、難しかったと思う」
悠真は試合記録を保存した。
前に経験した失敗が、今回の判断に役立った。
ただし、同じ方法が次の試合でも使えるとは限らない。
相手が別の配置を取れば、別の方法を考える必要がある。
悠真は、それを少しずつ覚えていた。
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運営側では、旧設備管理路の補修資材に関する記録が更新された。
【補強資材:一部確保】
【規格確認:継続中】
【搬入順序:未確定】
【補強作業:開始待ち】
観測装置の点検記録も、担当する管理班へ引き継がれていた。
装置ごとに状態が異なるため、それぞれの確認結果が個別に保存されている。
旧設備管理路の調査と、山間部の観測装置の不具合を結びつける情報はなかった。
それぞれの作業は、それぞれの担当者によって進められていた。
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夜、悠真は母親に今日のことを話した。
「古い通路の補修資材が増えたよ。でも、まだ使えるかどうかの確認が終わっていないんだって」
「必要なものが届いても、すぐに使えるとは限らないのね」
「うん。規格が違ったら、使えないこともあるみたい」
母親は夕食の食器を片づけながら言った。
「準備って、物を集めるだけじゃないのね」
「そうだね。使えるか確認して、順番を決めて、それから作業するんだと思う」
悠真は、明日の学校の準備を確認した。
今日は補修作業が始まらなかった。
それでも、必要な資材は増え、確認作業も進んでいる。
ゲームの世界では、何かが完成するまでに、表からは見えにくい作業がいくつもある。
悠真は端末を充電器につないだ。
明日、また新しい通知が届くかもしれない。
届かなければ、別の任務をやればいい。
すべての場所が同じ速さで変化するわけではない。
そして、変化が見えない時間にも、進められることはあった。




