第102章 それぞれの休日
日曜日の朝。
悠真が目を覚ましたとき、窓の外はすでに明るくなっていた。
昨日はランキング戦を二回行い、そのあと旧設備管理路の様子も確認した。疲れが残っているわけではなかったが、今日は急いでゲームを起動する気分でもなかった。
朝食を食べ、母親に頼まれた買い物を済ませる。
帰宅してから宿題の残りを確認し、ようやく自分の時間になった。
「今日はゲームをするの?」
母親が尋ねた。
「うん。でも、少し休んでからにする」
「分かったわ。お昼までには一度、休憩してね」
悠真は頷き、自分の部屋へ戻った。
ゲームをしたい気持ちはある。
けれど、今すぐ始めなければならない理由はなかった。
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昼前、悠真は《クロスギア》に接続した。
日曜日のロビーは、平日よりも賑やかだった。
期間限定の募集が増え、普段は別々の任務をしているプレイヤー同士が、久しぶりに一緒に遊ぶ様子も見られた。
悠真はフレンド一覧を開いた。
KAIはオンラインだったが、RIONはまだ接続していない。
【YUMA:今日は何かやる?】
【KAI:今、装備を調整している。少し待ってくれ】
【YUMA:了解】
悠真はロビーの掲示板を眺めた。
新しい任務を探すこともできるし、装備研究を続けることもできる。昨日のランキング戦の記録を見直すという選択肢もあった。
しばらくして、RIONからメッセージが届いた。
【RION:今日は少し遅くなる。先に遊んでいていいよ】
【YUMA:分かった。またあとで】
悠真は一人で探索任務を選んだ。
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任務の目的地は、南側の森林地帯にある小さな観測施設だった。
施設からの定期報告が途絶えたため、通信状態と周辺設備を確認するという。
悠真は現地に到着すると、まず施設の外側を一周した。
建物は残っていたが、入口の近くに置かれた作業車両は動いていなかった。施設の管理NPCに話しかけると、端末に情報が表示された。
【観測施設】
【定期報告:停止】
【電力供給:正常】
【通信状態:未確認】
【施設管理:継続中】
「電気は通っているんだ」
悠真は周囲の設備を確認した。
建物の壁に設置された通信装置は、完全に停止しているわけではなかった。しかし、送信状態を示す表示が点滅を繰り返している。
悠真は装置を調べた。
【通信装置:応答あり】
【定期報告:送信失敗】
【原因:未特定】
任務説明によれば、プレイヤーが原因を直接修理する必要はない。装置の状態を確認し、報告を送ることが目的だった。
悠真は周囲の設備を一つずつ確認した。
観測用の機材は正常に動いている。電力供給にも異常はない。通信装置には応答があるものの、定期報告だけが送信できていない。
彼は確認できた内容を記録した。
【電力供給:正常】
【観測機材:正常】
【通信装置:応答あり】
【定期報告:送信失敗】
【原因:不明】
報告を終えると、施設の管理NPCが端末を操作した。
「確認作業に感謝する。通信設備の詳しい調査は、担当班へ引き継ぐ」
任務は完了した。
【任務評価:A】
悠真は記録を保存した。
通信装置が正常に応答していることと、定期報告が送信できることは同じではなかった。
何かが動いているからといって、必要な機能まで正常だとは限らない。
反対に、報告が届かないからといって、装置全体が壊れているとも限らなかった。
悠真はそのままロビーへ戻った。
この観測施設と、以前に見つけた古い通信設備との関係を示す情報はない。
似たような言葉が使われていても、それだけで同じ仕組みだと判断することはできなかった。
⸻
ロビーへ戻ると、KAIから連絡が届いた。
【KAI:準備できた。ランキング戦に行くか?】
【YUMA:行こう】
二人は二対二の練習戦に参加した。
相手は、近距離での攻撃を得意とするプレイヤーと、射撃による援護を得意とするプレイヤーの組み合わせだった。
試合開始後、近距離型の相手が悠真へ接近してきた。
悠真は距離を保ちながら射撃したが、相手は遮蔽物を利用して攻撃を避けている。
その間、もう一人の敵がKAIの進路を塞いでいた。
「悠真、前の相手を止められるか?」
KAIが尋ねた。
「少しなら。でも、長くは無理だと思う」
悠真は敵を追い込もうとせず、相手が進める方向を制限するように動いた。
その隙にKAIが敵の援護役へ圧力をかける。
相手の二人は一度距離を取り、態勢を立て直そうとした。
悠真は追撃するか迷ったが、今度はKAIが先に声を上げた。
「無理に追わなくていい。位置を戻そう」
二人は目標地点の近くへ戻った。
相手が再び攻めてきたときには、先ほどよりも連携しやすい位置を確保できていた。
試合は接戦になったが、最後はKAIが目標地点を守り、悠真が敵の接近を阻止して勝利した。
【試合結果:勝利】
「さっき、追いかけなかったのがよかったな」
KAIが言った。
「うん。相手を倒すことだけ考えていたら、また位置が崩れていたかもしれない」
「でも、相手が引いたから追わない、というのがいつでも正解とは限らないぞ」
「分かってる。状況を見て決めるんだよね」
悠真は試合記録を保存した。
昨日覚えたことを、今日もそのまま繰り返せばいいわけではない。
同じ判断が役に立つ場面もあれば、別の選択が必要な場面もある。
それを見分けるためには、何度も違う相手と戦う必要があった。
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午後、RIONがオンラインになった。
【RION:遅くなってごめん。今からなら少し遊べるよ】
【YUMA:じゃあ、三人で何かやろう】
三人は短い護衛任務を受注した。
今回は、森林集落のNPCが管理する資材車両を、近くの修理拠点まで送り届ける任務だった。
道中に敵は現れなかった。
その代わり、修理拠点に到着すると、NPCの作業員たちが別の車両の修理を行っていた。
「受け入れに時間がかかるらしい」
RIONが状況を確認した。
「待っていればいいのかな?」
悠真が尋ねると、KAIは任務表示を確認した。
「車両の受け渡しはまだ完了していない。作業員の指示を待とう」
三人は車両を指定位置に停めた。
やがて、作業員が修理中の車両を移動させ、受け入れ場所を空けた。
資材車両の確認が終わり、任務は無事に完了した。
【任務評価:A】
待機時間があったため、予定より少し長くなった。
しかし、三人はその間に無理に別の行動を取らなかった。
「今日は待つ場面が多いね」
悠真が笑った。
「待つことも任務の一部なんだろう」
KAIが答えた。
RIONは、受け渡し記録を確認しながら言った。
「ただ待っているだけに見えても、相手の作業が終わるまでは次に進めないことがある。順番があるんだよ」
悠真は頷いた。
今日の任務には、特別な敵も、珍しい装備も、驚くような発見もなかった。
それでも、施設の異常を記録し、相手の動きを見て戦い、作業が終わるのを待って資材を届けた。
どれも、ゲームの中でできることだった。
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夕方、悠真はログアウトした。
母親は、彼が端末を片づけるのを見て声をかけた。
「今日は長く遊んだの?」
「ううん。途中で休憩もしたよ。任務もそんなに難しくなかった」
「楽しかった?」
「うん。今日は大きな戦いはなかったけど、普通に遊べたよ」
母親は微笑んだ。
「それならよかったわ」
悠真は翌日の学校の準備を確認した。
明日からまた平日になる。
ゲームの世界では、補修資材が少しずつ集まり、NPCたちが各地で作業を進めている。けれど、すべての作業が毎日目に見えて進むわけではない。
悠真自身も、毎回強くなったと実感できるわけではなかった。
それでも、遊んでいるうちに覚えたことは、少しずつ次の行動につながっていた。
悠真は端末の電源を切った。
今日は、今日の分だけ遊んだ。
明日は明日の状況を見て、何をするか決めればいい。
そう考えながら、悠真は夕食の支度を手伝いに行った。




