6話 極道漫画でお約束の美女。
6話 極道漫画でお約束の美女。
「彼が蝉原勇吾だ。ディアブロコミュニティの総長で、龍星会の顧問」
「こんなゴミみたいなガキが、噂の蝉原勇吾? 嘘でしょ」
「彼は、お前と結婚してもいいと言っている。どうする?」
「パパ、ふざけないで。こんなチンカスと一緒になるぐらいだったら、この場で殺してムショにいく」
そこで、蝉原が笑って、
「非常に元気なお嬢さんだ。俺たちの間には、背が高くて、バカな子供が生まれる事でしょう」
「……覚えておけ、クソガキ。あたしは男にナメられるのが、この世で一番嫌いなんだ」
「それは失礼しました。では夜伽の際は、なるべく口を使わないように前戯させていただきます」
「……パパ、これって間違いなくケンカを売られているよね。買っていいよね」
「好きにしなさい」
許可を得た愛羅は、蝉原に、
「立て、ゴミ。殺してやる。言っておくが、あたしは、ガキの頃から武道の鍛錬ばかりしてきた。あんたみたいな虫ケラは2秒で殺せるんだよ」
「やんちゃなお姫様だ。申し訳ないのですが、俺は経済ヤクザでして、荒事は苦手――」
「うるせぇ、立てごらぁ!! 殺し合うぞ、ぼけぇ!!」
巻き舌で、蝉原の胸倉をつかんでムリヤリ立てらせる愛羅。
蝉原は立ち上がったと同時、
――ザクっと、
隠し持っていたナイフで、愛羅の首を刺した。
「……ぁ……」
そのままバタリと倒れる愛羅。
えー……殺しちゃったよ……マジっすか……
なにやってんの、蝉原さん……
君が誰を殺そうが自由だけど……これは悪手じゃない?
「ぉ、お嬢様ぁあ!!」
黒崎の子分が、愛羅のもとにかけより呼吸を確認する。
「し……死んでる……て、てめぇえ……自分が何をしたか、わかってんのか……」
そう言われた蝉原は、キョトンとした顔で、
「? さきほど、そちらのお嬢さんは、殺し合うと仰っていたはず……お望み通りにしてさしあげたのですが」
その光景を黙って見ていた黒崎が、
「……どういう……つもりだ……」
「? 今、説明しましたが? ……まさかと思いますが、今から俺が、お嬢さんとペチペチ素手で殴り合いをするとでも思っていたのですか? 武道をかじっている女の子と、俺が、正々堂々闘って、最後に互いの健闘をたたえ合うとでも? はっ、ふるい漫画じゃあるまいし」
「……」
「極道ってのは、そんな甘い世界じゃないでしょう。ナメられたら終わりの世界で、俺はお嬢さんにツバを吐かれた。これで甘い顔をしたら、俺は極道じゃない」
「わかっているのか……全面戦争に――」
「ナメるな、爺さん。最初に上等かましてきたのはそのバカ娘だろう。自分のガキすら制御できない無能が、俺にデカい口を叩くな」
「……」
「戦争するなら別にそれでもいいが……皆殺しにしてやる。とりあえず、まずは、ここにいる全員を殺す。死ぬ覚悟は当然できているだろう?」
黒崎の側近たちが、殺気立った。
お嬢様が刺され、主を侮辱され、組ごと踏みにじられている。
怒りで暴走してもおかしくないと思う。
けど、誰も動かなかった。
たぶん、黒崎が動かなかったから。
正直、僕には意味が分からなかった。
娘が目の前で殺されたのに、なんで――
(簡単な話。俺と本気で殺し合うリスクと真剣に向き合っているからさ)
心の中で、蝉原が説明してくれた。
(俺を敵に回せば無傷じゃ済まない。負ければ殲滅。勝っても東龍会は半身を失う)
(……)
(だから我慢している。怒りを飲み込んでいる。娘と組を天秤にかけている)
蝉原は悪魔のような口調で、
(それでいい。そうじゃなければむき出しの交渉にはならない)
黒崎は、
「……」
ゆっくりと息を吐いた。
怒りは消えていない。
屈辱も消えていない。
娘を殺された痛みも、胸の奥で煮えたぎっている。
――それでも、飲み込むしかなかった……そんな顔。
「……娘の……死体を……持ち帰ることは……許してもらえるのか?」
喉の奥から、血を吐くような声が漏れた。
「辱めるのだけはやめてもらいたい」
最終的に黒崎は、戦争をしないという選択肢を選んだ。
それを受けて、蝉原は、それまでの怒気を消して、ニコリと微笑み、
「いい選択です」
そう言いながら、蝉原は、愛羅の首からナイフを抜いて、
そのまま、足で、彼女の胸を踏みつける。
「な、きさまっ!」
と流石にブチ切れる黒崎だったが、
「がふっ!」
愛羅が短く息を吹き返したことで、目を丸くする。
蝉原は、ニコリと微笑んだまま、
「総頸動脈も、内頸静脈も、綺麗に避けて刺しました。ナイフの扱いは、それなりに得意でしてね。……その代わり、迷走神経だけはしっかり狙わせてもらいました。刺激すれば徐脈や血圧低下を引き起こして、一時的に仮死状態に近い状態を作れる。どうです? 面白い手品でしょう?」
そのまま、蝉原は、愛羅の胸を何度かポンプするように踏んで、呼吸を安定させると、
「……さて……話を戻しましょうか。えっと、東龍会の人間全員が俺の下につく……ということで大丈夫でしたっけ?」
ニコリと笑ったその顔を見て、
黒崎は、
「なるほど……了解だ。……それでいい」




